『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第15回:『KINGDOM HEARTS 3D [Dream Drop Distance]』
3. スクウェアの意思
- 岩田
- そもそも野村さんがはじめてディレクターをされたとき、
ディレクターとはこうあるべき、
という自分のスタイルを、どうやって確立したんですか? - 野村
- 僕が最初についたディレクターは坂口さんで、
その次についたディレクターは北瀬(佳範)さん(※10)だったので、
その2人からの影響は大きいかなと思います。
あとバトルの企画では、『FFIX』(※11)の
ディレクターをされた伊藤(裕之)さん(※12)。
あとモノリス(※13)に行かれた高橋(哲哉)さん(※14)。
彼がグラフィックのリーダーだったので、
けっこうかわいがってもらいました。
その4人が、いわば自分の上司のイメージです。
北瀬佳範さん=スクウェア・エニックス 第1制作部 プロデューサー。旧スクウェア時代から『ファイナルファンタジーVII』をはじめ多くの作品を手がける。
『FFIX』=『ファイナルファンタジーIX』。2000年7月に発売された、シリーズ9作目のナンバリングタイトル。
伊藤裕之さん=スクウェア・エニックスのゲームクリエイター。『FFIX』『FFXII』のディレクターをはじめ多くの作品を手がける。
モノリス=株式会社モノリスソフト。東京都目黒区に本社を置くゲーム開発会社。
高橋哲哉さん=旧スクウェア在籍のゲームクリエイター。1999年に独立し、ゲーム開発会社・モノリスソフトを設立。
- 岩田
- その4人の上司のイメージから、
取り入れるところを取り入れて、
ディレクターになっていったんでしょうか? - 野村
- いえ、ものづくりの考え方くらいしか拾えてないですね。
「彼らのように自分はできないな」
と思いながらディレクターになったので、
4人とは一緒につくっていて楽しかったですから、
「なんとなく楽しくやれればいいかな」ぐらいです。 - 岩田
- ただ、わたしはリーダーのいちばん大事な役割は
「ゴールはこっちにあるよ!」と言って、
「そのゴールに行けたらいいことがある」と
みんなが信じられるようにすることだと思うんです。
お話を訊いていて、野村さんはそれを
すごくわかりやすく、実行されているなと思いました。 - 野村
- そうですね・・・。
自分がデザイナーというのもあるから、
ビジュアルイメージが最初から頭に浮かんでいるので、
それを伝えるのは、文字から入るアイデアとは違って
伝えやすいのかもしれません。 - 岩田
- でもビジュアルから入るタイプといっても、
野村さん自身はおそらく、いわゆる止め絵で
こんなビジュアル、というだけでなく、
「アクションの構造もこうしたらおもしろい」と、
いっしょにイメージしていますよね。 - 野村
- ああ、そうですね。
- 岩田
- それってどうやって伝えるんですか?
- 野村
- うーん・・・最初のころは話しながら
絵をパパッと描いて説明していたんですけど。
たとえば自分が何か映画を観てきて、
「こんな映画だったよ」って話をするときに
言うような感じと、同じです。 - 岩田
- ああ、自分は完成像を
見ているから、それを説明して
「ここちょっと違う」「ここはこれでいい」みたいに
だんだんイメージが形になっていくんですね。
典型的なビジュアルの完成イメージから入るタイプですね。 - 野村
- だからPVをつくると、
スタッフはわかりやすいと言ってくれます。 - 岩田
- PV自体が、お客さんだけじゃなく
スタッフにもプレゼンされるから、
動く仕様書みたいになるんですね。 - 野村
- そうです。
ゲーム部門のスタッフはPVを見て、
「こういうアクションがやりたいんだな」と、
イメージが伝わるみたいです。 - 岩田
- なるほど。よくわかりました。
あと『キングダム ハーツ』と言えばもうひとつ、
多くの人が多分、度肝を抜かれた
宇多田ヒカルさんとのコラボレーションがあります。
わたしもびっくりしたんですが、
あれはどうしてできたんですか? - 野村
- まあ、自分が宇多田さんが好きで、
やっぱりディズニーという世界最大の
キャラクターコンテンツと組めたんだから、
曲も最高のアーティストをつれてこないとダメだと思って、
「宇多田さんしかいない」って言ったんです。
「きっと無理ですよ」って言われたんですけど、
「聞いてみないとわかんないじゃん」ってことで
オファーさせていただいたら、
意外と悪い感触じゃなくて、それで決まりました。 - 岩田
- 直球で来てくれると、うれしいのかもしれませんね。
だってディズニーさんのところに行って
「ディズニーキャラクターをメインでつくるのは嫌だ、
俺のこのキャラクターでつくりたい」という人は、
多分あんまりいないですし(笑)。 - 野村
- (笑)
- 岩田
- 宇多田さんのところにいきなり行って、
「このゲームのために曲をつくってください」っていう話も、
多分、めずらしいと思うんですよ。
普通の人は「無理」って思いますから。 - 野村
- そうですかね・・・。
けど、やる前から無理だとは思わないことが多いですね。
「やるだけやってみて」って感じです。 - 岩田
- やらないで無理より、
どんどんチャレンジしたほうがいいですからね。
でも、最初の『キングダム ハーツ』が受け入れられた後、
長い間展開していくには、また違う壁がありますよね。
あれだけ壮大でいろんなところに伏線がある話ですけど、
野村さんはどこまで最初に考えているんですか? - 野村
- はじめからぼんやりとした大枠はありました。
最初、『II』(※15)ぐらいまで、
なんとなく考えていました。
『I』を発表したときは『II』ぐらいまで、
その後3作同時発表(※16)したときは、
全部構想はあったという感じです。
今作の『キングダム ハーツ 3D』(※17)の発表でも
段階にわかれて先を考えている感じです。
『II』=『キングダム ハーツII』。2005年12月に発売されたアクションRPG。タイトルは『II』だが、『キングダム ハーツ』シリーズとしては3作目にあたる。
3作同時発表=2009年6月に配信された『キングダム ハーツ コーデット』、2009年5月にニンテンドーDS用ソフトとして発売された『キングダム ハーツ 358/2 Days』、2010年1月に発売された『キングダム ハーツ バース バイ スリープ』。
『キングダム ハーツ 3D』=『KINGDOM HEARTS 3D [Dream Drop Distance]』。2012年3月29日に、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたシリーズ最新作。
- 岩田
- だんだんと、いままでの流れや縛りができていきますけど、
それはしんどくなりませんか? - 野村
- そうですね。でも・・・。
- 岩田
- じつは野村さん、
ぜんぜんしんどそうに見えないんですよ(笑)。 - 野村
- ああ、そうですか(笑)。
なんだろう・・・ものをつくるときには
制限って必ず何かしらありますよね。
何でもやっていいってことは、100%ない。 - 岩田
- はい、制限がないことはあり得ないし、
もしあったとしたら、今度はおわらないですよね。 - 野村
- そうなんです。その制限下で
最大限にどうおもしろくできるかを考えるのも、
またおもしろさのひとつなんですよね。
だんだん制約ができていく中でも、
むしろ楽しんで考えているところはあります。 - 岩田
- ああ、すごくよくわかりました。
制約を楽しんで考えるから、
それが増えていくことに対して、
実際には苦しい面も絶対にあるはずなんですけど、
苦しさが見えないんですね。
そもそも、そんな苦しさは本来、
お客さんは見たくないじゃないですか。 - 野村
- そうですね。
- 岩田
- 制約も、ものづくりの過程のひとつで、
絶対受け入れられなきゃいけないものだから、
「それなら楽しんじゃえ」と、
野村さんは思っているわけですね。 - 野村
- はい。だからそれを自分が
うまくかわせたときはすごく楽しいです。
それから、初代の『キングダム ハーツ』の
宣伝プロデューサーをやってくれた野村(匡)さん(※18)。
彼から教わったことも多くて、彼が当時、
「お客さんは苦しいところなんか見たくないんだよ」って、
ずっと言っていたんです。
野村匡さん=旧スクウェアではさまざまなゲームの宣伝プロデューサーを担当。現在、株式会社モノリスソフトの取締役。
- 岩田
- まさに、いまの話ですね。
- 野村
- 「苦労したことは語るな」とずっと言われてきたので、
その影響はあるかもしれないです。 - 岩田
- 「そのとおりだな」と、野村さんも思ったんですね。
- 野村
- そうですね。
どこがおもしろいか聞いたほうが楽しいと思いますし。
そんなふうに、当時のいろんな先輩たちの言ったことが
なんとなく、いまでも残っています。 - 岩田
- それも含めて、スクウェアさんの
ものづくりの文化なんですね。 - 野村
- そうだと思います。
石井(浩一)さん(※19)が最後に去られるとき、
「スクウェアのものづくりを頼むぞ」
と僕に言っていただいたので、
「そういう思いを、なんとか大事にしたい」
とは思っているんですけどね。
石井浩一さん=『ファイナルファンタジー』シリーズの『I』~『III』、『XI』などの制作に携わる。現在、株式会社グレッゾの代表取締役。