『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第15回:『KINGDOM HEARTS 3D [Dream Drop Distance]』
4. 笑っちゃうほど、飛んでいく
- 岩田
- ちょっと話題を変えますが、
ニンテンドー3DSをはじめてご覧になったとき、
どう思われましたか? - 野村
- 「立体視できる」と最初に聞いていたんですけど、
もっと微妙な立体視を想像していたら、
とんでもなく立体でびっくりしました。 - 岩田
- 野村さんがDSで、
『キングダム ハーツ』をつくられていたときの
アウトプットを拝見して思ったんですが、
野村さんって、ハードがある特徴を持っていたら、
その特徴をちゃんとシステムに活かさないと
気がすまないほうですよね。 - 野村
- まあ、そうですね(笑)。
- 岩田
- それは『すばらしきこのせかい』(※20)のときにも感じました。
だから今回もある意味で、ファンの方にすれば、
「野村さん、3DSをどう料理してくれますか?」
という一面があると思うんです。
『すばらしきこのせかい』=2007年7月、DS用ソフトとして発売されたアクションRPG。野村哲也氏がメインキャラクターデザイン、クリエイティブプロデューサーを担当。略して『すばせか』。
- 野村
- そうですね・・・。
ただ、たとえば『すばせか』のような新規タイトルなら
ガリガリにとがらせるんですけど、
『キングダム ハーツ』はファンのことを考えると、
そこまでできないので、
できる範疇で活かせることを模索しました。
今回、僕がいちばんうれしかったのは、
3DSでアナログ操作が可能になったことなんです。
アクションゲームでアナログ操作ができることは
かなり大きいので、それで安心しました。 - 岩田
- 今回のフリーフローアクションは、
いままでのシリーズのアクションの中でも
いちばんダイナミックに見えます。
それは「アナログ操作なら制御できるだろう」
というイメージがあるからなんですね。 - 野村
- そうです。
3DSだから大胆にできるし、
しかも立体視なので臨場感や、
映像のダイナミックさがありますからね。
じつは今作の『キングダム ハーツ 3D』で
最初にやりたいと思ったのは、
フリーフローアクションだったんです。 - 岩田
- 最初のイメージがフリーフローアクションだったんですか。
- 野村
- はい、立体視とアナログという
2つの視点から生まれています。
だからいま、つくりおえたスタッフたちが、
たとえば『BBS』(※21)や『II』などの過去作をやると、
「動作が遅い」って言うんです。
「3Dのフリーフローを体感したら戻れない」
「壁が蹴れない『キングダム』は『キングダム』ではない」
という意見まであります(笑)。
『BBS』=『キングダム ハーツ バース バイ スリープ』。2010年1月に発売されたRPG。
- 岩田
- フリーフローアクションの気持ちよさを味わってしまうと、
スタッフの方でさえ、
「戻れない」と感じてしまうんですね。
だけどあれだけダイナミックなものを
ゲームとして成立させるのは大変なはずですよね? - 野村
- はい。一筋縄ではいかなかったです。
壁を蹴ってどこまでも飛んでいけちゃうので、
じつはいつもの『キングダム ハーツ』よりマップは広めなんです。
制御もなかなか難しいんですけど、
でも・・・笑っちゃうんですよね。
「すんごい飛べちゃう!」って(笑)。 - 岩田
- 自分でつくっておいてなんだけど、
思わず笑っちゃうんですね(笑)。 - 野村
- 「でもまぁ、おもしろいから、いっか」というか、
それを制御できるようになっていくのも、
アクションのおもしろさのひとつですからね。 - 岩田
- それに、やみつきになりますね。
映像を見ていると触ってみたいと思いますし。 - 野村
- そうなんです。
僕は『マリオ64』のとき、
城の前がいちばん好きだったので、
あそこって目的は特にないんですけど、
ただ走り回って、飛んで、
ズズズーッとすべったりするのが楽しかったんです。
『キングダム ハーツ 3D』のフリーフローアクションは
そんなイメージではあります。 - 岩田
- ああ、あのころ、宮本(茂)さんが
「触っているだけで楽しくしたい」と言っていて、
それを本当に実現しているのを見て、
当時、わたしはすごくやられた感がありました。
自分の意図がちゃんと反映されて動いているし、
モーションはちゃんとつながってみえるし。
あのとき『マリオ64』以前と以降では
明らかにアクションが変わっていますからね。 - 野村
- はい。自由に飛んだり跳ねたりっていうのは
アクションの根本なんですよね。
今回は、さらに自由にできるようになりました。
最初は制御が難しいですけど、
思うようにできたときはたまらないです。 - 岩田
- ぜひ、そのたまらないところに
たくさんの方が到達してくれるといいですね。
今回、これまで例のないアクションのイメージを
実際にゲームとして遊べるところに着地するまで、
どこまでが最初のイメージで、
どこまでがつくりながら探し出した着地点なんですか? - 野村
- 最初に僕が描いたビジョンのまま、
着地することはなかなかないですね。
いろんなスタッフの意思が入っていくんですけど、
「おもしろければいい」と思っています。
逆に、イメージのままになっちゃったら、
多分、僕はそれほど楽しくないです。
頭の中に最初の映像はずっと持ちつづけたままですけど、
そこにいろんな意見が足されるほどイメージが広がっていくので、
「かなり大胆なものになったかな」と思います。 - 岩田
- 「こっちの方向に必ずいい着地点はあるはずだ」と、
どこかで信じている自分がいるから、
突き進んでいけるんでしょうね。 - 野村
- はい。最初の方向性は絶対にずれてはいけないので、
「ここに行くなら大体この辺に落ちればいい」っていう
なんとなく着地点のイメージはあります。
だから最初に思っていたとおりじゃなくても、
「おもしろい」とか、「楽しい」と感じちゃえば、
それはそれで「OKかな」というところでしょうか。 - 岩田
- それから、ドリームイーターについても訊かせてください。
- 野村
- あれは僕が子どものころ、
実家で犬や猫を飼っていたんです。
ペットって、生まれる場面から
立ち会って育てていくからこそ、
すごく愛着が湧くんですよね。
だからドリームイーターも誕生から仲間になれば、
ペットのように愛着が持てるんじゃないかと思って、
やってみたことが動機です。 - 岩田
- なるほど。
- 野村
- それから、敵が仲間になる系のゲームは
いままでコマンド式のバトルが多かったので、
アクションで動き回るというのを
やってみたかったんです。 - 岩田
- 確かにアクションバトルで、敵として登場したものが
仲間になっていっしょに戦うものは少ないですね。 - 野村
- それをやるのはけっこうしんどいことなんですけど、
「だからこそほかがやる前にやらないと」と思いました。
今回、これだけ大胆にアクションができる中で、
敵も仲間にしていっしょに戦えたらおもしろいし、
「どこよりも先にやってみたかった」というのがあります。
ソラが仲間を振り回して投げたり、
乗っかって走り回ったりできるんです。 - 岩田
- いま、「乗っかって」とサッと言われましたが、
乗ることを実現するには、
作業がわーっと爆発しますよね(笑)。 - 野村
- ええ、口で言うのは簡単なんですけどね(笑)。
- 岩田
- つまりドリームイーターは、システムの独自性と
ビジュアルイメージがくっついてできていて、
かつ自分が昔、子猫や子犬を飼った体験も含めて、
発想がつながっているんですね。 - 野村
- はい。それからもうひとつ、
『nintendogs』(※22)の衝撃もありました。
「『nintendogs』はペットたちとのふれ合いがありますよね。
でも僕は必ず、その先にバトルを考えちゃうんです。
「『nintendogs』はなんで戦えないかなー」って(笑)。 - 一同
- (爆笑)
『nintendogs』=2005年4月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたコミュニケーションゲーム。
- 野村
- 『nintendogs』では散歩すると、
すれちがい通信(※23)でほかの子犬と会いますよね。
そこでバトルがあれば・・・! - 岩田
- そこでバトルがしたかったんですか?(笑)
- 野村
- 「バトルくるか!?」って思ったんですけど、
さすがにありませんでしたね(笑)。
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。
- 岩田
- (笑)。
でも・・・新しいクリエイティブを見たときに、
そこからインスパイアされるものは常にありますから、
そういう意味で、わたしたちはこれまでも
いろんなキャッチボールをしていたんですね。 - 野村
- そうですね。
僕はずっとバトルを主軸としたRPGをつくっているので
なかなかバトルを外しては考えづらいんです。
だから『シアトリズム』も
「バトルを入れてくれ」って4人が敵を前にして並んでいて、
そこに4ラインあるイメージを伝えました。 - 岩田
- あー、そうか。
必然的に、そこが野村さんの軸になるんですね。 - 野村
- そういう自分の欲求が反映してしまうわけです。
戦わないと気がすまないのかもしれません(笑)。