『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第15回:『KINGDOM HEARTS 3D [Dream Drop Distance]』
5. 『キングダム ハーツ』らしさ
- 岩田
- ところで、これだけシリーズを重ねてくると、
『キングダム ハーツ』らしさというのが、
野村さんの中で確立されていきますよね。 - 野村
- うーん、どうですかねえ・・・。
- 岩田
- それとも野村さんの中で、
先にビジュアルイメージがバチーンとあるから、
そんな議論がそもそもいらないんですか? - 野村
- そうですね。
あんまり『キングダム ハーツ』らしいかどうか、
という話は出ないですね。
「自分がこんなのをつくるよ」といったら、
それはもう『キングダム ハーツ』だという
スタッフの意識ですね。 - 岩田
- 野村さんの脳内に湧くイメージが
『キングダム ハーツ』なんですか。 - 野村
- それはありますね。
まあ・・・ひとつあるのは“奥行き”が感じられれば、
それでいいかなと思うんです。 - 岩田
- “奥行き”というのはどういう意味ですか?
- 野村
- その世界に入ったときに、奥行き感があればよくて。
「これは『キングダム ハーツ』ですよ」
と提示されたときに、名前だけがついただけの
薄っぺらい表面的なものに見えなければいいんです。 - 岩田
- ただ、キャラクターと世界だけ貼りました、
というんじゃないってことですね。 - 野村
- はい。なんとなく、その程度しか考えていないんですが・・・。
でも、表に出ようが出まいが、
“設定”というのはけっこう大事だと思っています。 - 岩田
- それは自分の中で全部、
つじつまが合っているからこそ、
揺るがなくできるわけですよね。
全部語るかどうかは別として、
自分の中に矛盾のない説明がつくように、
背景が全部つながって存在するということですね。 - 野村
- そうです。
- 岩田
- 実際に今作を公開して、お客さんの反応を見て、
いま、野村さんはどんな手ごたえを感じていますか? - 野村
- ロサンゼルスでの最初の発表(※24)のとき、
僕は2階席から岩田さんが発表されているところを見ていて、
画面にドンッとタイトルが出たとき、
周りのお客さんがワッと湧いてくれたので
「よかったなぁ・・・」と安心しました。
ロサンゼルスでの最初の発表=2010年に開催されたE3のこと。E3は、Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市。
- 岩田
- わたしもステージ上からの反響を覚えています。
みんながウワッと湧く手ごたえがありましたよね。 - 野村
- 「重く受け止めないとな」と思いましたけど・・・。
それからずっと、発表映像が出るタイミングの折りには、
お客さんの反応がきちんとありましたから、
「ちゃんと注目はされているんだな」と、感じていました。
「そこまで注目されないんじゃないか」と思っていたんで・・・。 - 岩田
- それはどうしてですか?
- 野村
- 発表がそうそうたるラインナップだったので、
そんなに目立つタイトルではないと思っていたんです。
でも、ずっと注目してくれているのは感じるし、
同梱版(※25)とかの反応もすごかったですし。
同梱版=ニンテンドー3DS本体同梱版『KINGDOM HEARTS 3D [Dream Drop Distance]』。同梱されるニンテンドー3DS本体色は、コスモブラックを採用し、本体の正面と背面には、ゲームに登場するミッキーマウスや王冠などさまざまなシンボルやアイコンをモチーフにした模様がプリントされたオリジナル仕様となっている。
- 岩田
- 同梱版へのあの反応は強烈でしたね。
- 野村
- はい。
だから、それに応えられる、
楽しいものになったとは自負していますけど、
ずっと自分が思っていた以上の反応だと感じていました。 - 岩田
- 一方、長くシリーズがつづくと、
シリーズファンの方が期待することと、
ニューエントリーの方に受け入れてもらえることとの
葛藤になやむ時期がくるはずですけど、
そこはどう考えていますか? - 野村
- そこは困ってはいるんですけど・・・、
「いつかなんとかしないといけない」
と思ってやっている感じです。
ただ毎回、導入部分ははじめての方でも入りやすいように、
主人公自体も「なんなんだ、この世界は?」という
わけのわからない状況からはじまるので、
プレイヤーは主人公と同じ立場なんです。 - 岩田
- 必ず、わからない状況からはじまるんですね。
- 野村
- はい。知らない方向けに、
いろんなキャラクターや設定は、
ゲームの中で手助けになる程度は解説はしているんですけど、
シリーズを把握している視点からは、
知らない方の視点で不安箇所を理解しづらいんですよね。 - 岩田
- それに、わかっていない方のために説明が入ると、
余計なものにも感じられてしまいますからね。 - 野村
- 経験、未経験共通の謎があっても、
やっぱり、知らない方にやってもらうと、
知らないこと自体が不安になってしまうんです。
「自分だけが知らない前情報があるんじゃないか?」
って思われてしまって。
だからなかなか解消されない難しい問題ですけど、
今回は過去のあらすじが
全部わかるシステムが入っています。 - 岩田
- 確かに今回のものは、
過去作を遊んでないといけない感じはしないですね。 - 野村
- はい。これまで以上に、
必要な情報がわかるようにつくっています(笑)。
でもまあ、“触っているだけでも楽しく”がコンセプトなので、
細かい部分は知らなくても十分に楽しめると思いますけど。 - 岩田
- 『マリオ64』のお城の前で
飛んだり跳ねたりするのを楽しいと思った野村さんが、
触っているだけで楽しいものをつくろうとして
はじまったものが、このシリーズなわけですからね。 - 野村
- はい。