『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第16回:『真・三國無双 VS』
3. 「ゲームで一騎当千の世界を」
- 岩田
- でもノウハウがゼロの状態から
3Dアクションゲームをつくることは、
大きなチャレンジですよね? - 小笠原
- まあ、そのときは若いのであまりリスクは考えてなくて、
すでに他社ではアーケードがあるのに
うちでつくれていない状況が、とにかくイヤだったんです。
でもツールから何から全部手探り状態のスタートで、
モデリングするソフトとか、ソフトイマージ(※12)とか、
全部借りてこないと手元にない状態でした。
ソフトイマージ=Softimage。映画やゲーム開発現場でもよく使われる、3DのCG制作用ソフトウェア。
- 岩田
- あのころゲーム開発現場で
よく使われていたソフトウェアは、
1本が何百万円もするような高価なもので、
それを動かす機械はさらにとんでもない値段でしたからね。 - 小笠原
- はい。アーケードなどのモーションも研究しつつ、
三国志の武将たちの格闘は武器を使うから、
素手の格闘とは違う味をどんどんのっけていこうとしました。 - 岩田
- ただ、武器を使った戦闘だと、
開発の難易度がぐんと上がりますよね? - 小笠原
- そうなんです。
2Dの素手格闘だと、
レスポンスが非常にいいんですけどね。 - 岩田
- 2Dの格闘は、物理的にあり得ない動きをしているんですよね。
パンチボタンを押したら一瞬で相手に拳が届くんですが、
3Dではパンチをくり出して相手にヒットするまで、
滑らかにつながらないといけない。
でも忠実に再現すると反応が悪く感じられてしまうから、
微妙にウソをつきながらスムーズに見せるという、
妙なことをしているんです。 - 小笠原
- はい。でもひとつのモーションをつくるにも、
なかなか気持ちのいい手ごたえにならなくて・・・。
だから途中からCG担当に頼むのをやめて、
自分でモーションをつくってからCG部に発注して、
イメージどおりにあげてもらっていました。
- 岩田
- CG担当は“鑑賞するのに適した動き”には
してくれるんですけど、なかなか
“ゲームに適した動き”にはならないということですね。 - 小笠原
- いまでもよく覚えていますけど、
(君主のひとりの)曹操1体を
納得のいく動きやタイミングにつくって、
これをベースにほかのキャラクターをつくってもらいました。
『三國無双』をつくる全期間を見渡しても、
モーションをいじっていた時間が一番長かったです。 - 岩田
- なぜ、三国志を舞台に選ばれたんですか?
武田信玄でもよかったんじゃないですか?(笑) - 小笠原
- (笑)。それはですね・・・、
“1対1の戦いの対戦格闘をつくる”という話だったので、
戦国時代と三国志の世界設定なら、
強い者同士が1対1同士で戦うシチュエーションは
やっぱり三国志のイメージなんです。 - 岩田
- ああー、なるほど。
たしかに戦国時代は大将同士が戦うことは稀(まれ)ですけど、
三国志の世界では、強い武将が最前線にいるわけですからね。
小笠原さんの歴史へのこだわりが選んだテーマなんですね。
- 小笠原
- そうです。
物語もそこがクローズアップされる設定だったんで、
「三国志がふさわしいはずだ」と直感的に決めました。
だから鯉沼(久史)(※13)から
「『戦国無双』(※14)をつくることになった」
と最初に聞いたとき、一騎当千のゲームといえば、
三国志の設定じゃないと合わないと思っていたので、
「そりゃ、なんか違わないか!?」って、
こだわりとして感じてしまいましたけど(笑)。 - 一同
- (笑)
鯉沼久史さん=株式会社コーエーテクモゲームス専務取締役。『戦国無双Chronicle』など多くの『無双』シリーズを手がける。過去、社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター篇 第2回:『戦国無双 Chronicle』に登場。
『戦国無双』=『戦国無双』シリーズ。『真・三國無双』シリーズ同様、複数の敵と戦う、日本の戦国時代を舞台にした3Dアクションゲームシリーズ。1作目は2004年2月に発売された。
- 岩田
- ましてや戦国武将には思い入れがあるだけに・・・
ということですよね?
実際に『三國無双』が完成するまで
どれくらいかかったんですか? - 小笠原
- 1年7カ月ぐらいです。
- 岩田
- それはけっこう、すごいスピードですね。
あの当時、3Dゲームづくりは
材料や土台から全部つくらないといけないから本当に大変で、
たとえるなら、家を建てるときにレンガをつくったり、
木を切る場所を探しにいったりするところから
はじめるようなものでしたからね。 - 小笠原
- まさにおっしゃるとおりです。
でもあのころは、すごく楽しくてしょうがなくて、
どんなに夜遅くなっても苦にならないテンションでした。 - 岩田
- そう、新しいものを切り開いていくときに感じる、
独特な高揚感があるんですよね。
そうやってできあがった3D対戦格闘の『三國無双』から、
複数の敵と戦う3Dアクションの『真・三國無双』になる
キッカケはなんだったんですか? - 小笠原
- キッカケはプレイステーション2が発表されて、
『無双』シリーズでプレステ2向けの
タイトルをつくることになったことなんです。 - 岩田
- コーエーさんはプレステ2への対応が早かったですよね。
最初に出されたのは『決戦』(※15)でしたか? - 小笠原
- はい、当時その『決戦』と同じタイミングで出す予定で、
「『三國無双』の続編を・・・」という話がありました。
『決戦』=2000年3月に発売されたシミュレーションゲーム。
- 岩田
- あえて言いますが・・・
名前ぐらいしか、続編じゃないですよね(笑)。 - 小笠原
- はい(笑)。
でも当時の格闘ゲームの先を考えたとき、
「いまの格闘スタイルはちょっときびしいな」
と思ったんです。
- 岩田
- たしかにあの当時、
格闘ゲームに行き詰まり感がありました。
熱心に遊んでくださる方に向けて
とがらせすぎてしまって、
初心者の方が入りにくくなっていたんですよね。 - 小笠原
- そうです。
だから“歴史好き”という自分の基本に
立ち返って考えてみることにしました。
素直に考えたら三国志といえば
曹操、劉備、孫権などの君主もいますけど、
それを引き立てているのは
一騎当千の武将たちなんです。
だから「ゲームで一騎当千の世界をつくろう」
と思いました。 - 岩田
- 1対1のアクションから、
一騎当千のアクションへと変えていったんですね。 - 小笠原
- はい。ただ、その発想も突然出てきたわけじゃないんです。
あのころ、昼休みや晩ご飯の時間に
メンバー全員でネットワークゲームをやっていました。
その中に、それぞれが別の役割をもつユニットを操作し、
協力し勝利を目指すRTS(※16)ゲームがあったのですが、
そのユニットの中で、敵を一発でしとめるような
強い巨体ユニットがいたんです。
5対5で戦うときも、そのユニットを担当すると、
チームが勝つために責任重大で、勝利できれば
「自分の力で勝った!」と実感できたんです。 - 岩田
- はい。
RTS=リアルタイムストラテジー。コンピューターゲームのジャンルのひとつで、すべてリアルタイムで決断して処理を行う戦略ゲーム。
- 小笠原
- それで「三国志の武将もこうだったんじゃないか?」と
ふと思ったことがスタートなんです。
趙雲や張飛や関羽は“戦いのキーとなる存在”ということと、
“一騎当千のゲーム化”が頭の中でくっついて、
『真・三國無双』のベースの発想が生まれました。 - 岩田
- みんなで遊んでいたことがまったく無駄ではなく、
いろんなことでインスパイアされているんですね。 - 小笠原
- ええ。昼休みにゲームを遊んで感じたことが、
いろいろと活かされています(笑)。 - 岩田
- そうして『真・三國無双』として生まれたゲームが、
いまでは『無双』ゲーム(※17)という
ジャンルにもなっています。そのキッカケは
3D技術を学ぶためにつくった『三國無双』であり、
チームのみんなが遊んでいたネットワークゲームであり、
小笠原さんの歴史好きであり・・・と、
本当に無駄がないですね。 - 小笠原
- 振り返ってみると、たしかにそうですね(笑)。
『無双』ゲーム=『真・三國無双』を元にするアクションゲーム。複数の敵と戦う3Dアクションゲームで、『戦国無双』『ガンダム無双』『北斗無双』シリーズなどの派生作品が生まれている。