『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第17回:『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド3D』
3. “お祭りソフト”
- 岩田
- 「お祭りソフトだから」とおっしゃいましたが、
『モンスターズ』は“お祭りソフト”
というイメージなんですか? - 犬塚
- そうです。
だから竜王(※18)やハーゴン(※19)など、
歴代のボスも何もかも出てきます。
竜王=シリーズ1作目『ドラゴンクエスト』に登場するボス。
ハーゴン=シリーズ2作目『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』に登場するボス。
- 岩田
- だからいままでの『ドラクエ』シリーズの
モンスターからラスボスまで、
選び放題の状態からスタートできたんですね。
つくり手として見ていると、
「思い切りがいいなあ」と思うんですよ。 - 犬塚
- 『ドラクエ』本編ではなかなか逸脱が許されない分、
スピンアウトでは許されるギリギリのところでチャレンジして、
堀井さんにぶつけるようにしているんです。 - 堀井
- 外伝だし、パロディ的な考えかたもあるんですよ。
「本編ではやれないけど、外伝っぽいのだったらいいか」とかね。 - 犬塚
- もちろん、やりすぎて
堀井さんに難色を示されるケースもあるんですけど、
そのせめぎ合いですね。 - 岩田
- じゃあ犬塚さんは、
どんどん踏み込んでいきながら
つくられているんですか? - 犬塚
- はい。そうでないとスピンアウトは面白くないですし、
なるべく尖らせるようにはしています。 - 岩田
- では堀井さんにとっては、
スピンアウトタイトルでどんな手ごたえが出るかを
見ている面もあるんですね。 - 堀井
- そうですね。
まあ・・・基本的にボクは出したがりではないんですけど、
強く「イヤ」って断れないんですよ。 - 犬塚
- ・・・そうでもないですけど(笑)。
- 一同
- (笑)
- 堀井
- システムに関してはガンガン言うけど、
モンスターを出す、出さないってところはね・・・。 - 岩田
- サービス精神旺盛な堀井さんですから、
「お客さんが喜んでくれそうだ」って言葉に、
無性に弱いんですかね。 - 堀井
- そうそう(笑)。
- 岩田
- ところで、お祭りソフトをシリーズ化するとなると、
別の難しさが出てきますよね。
犬塚さんはそれとどう向き合ってきたんですか?
というのも、お祭りのスピンアウトは、
一度はうまくいっても、人気がつづいていく例って
わりと少ないと思うんですよ。 - 犬塚
- 『モンスターズ』の場合は
やや複雑な経緯をたどっているんです。
『テリー』が売れたから、
つぎに『モンスターズ2』(※20)、
その後『キャラバンハート』(※21)を出したんですけど、
どんどん本数が下り坂になってしまったんです。
それで「つぎはないな」って空気になったんですけど、
ニンテンドーDSが発表されたとき、
「このハードならリベンジできるかも」
ということで、『ジョーカー』(※22)シリーズで
リニューアルして、そこからコンスタントに
出すようになりました。
『モンスターズ2』=『ドラゴンクエストモンスターズ2 マルタのふしぎな鍵』。『ルカの旅立ち』は2001年3月、『イルの冒険』は2001年4月にゲームボーイ用ソフトとして発売された。『ドラゴンクエストモンスターズ』シリーズ2作目。
『キャラバンハート』=『ドラゴンクエストモンスターズ キャラバンハート』。2003年3月、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された。『ドラゴンクエストモンスターズ』シリーズ3作目。
『ジョーカー』=『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』。2006年12月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売された。『ドラゴンクエストモンスターズ』シリーズ4作目。『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』はシリーズとして全3作発売されている。
- 岩田
- 一度は存亡の危機を味わったわけですね。
堀井さんはどう見ていらっしゃったんですか? - 堀井
- 『ジョーカー』のときは確か、
「いままでとは違うクールな主人公でいこう」
みたいな話をしたんだよね。 - 犬塚
- そうですね。
それまでは、子どもたちが小学校卒業と同時に、
ゲームまで卒業してしまうケースが多いと感じていたんです。
でもそれだと非常にもったいないから、
ちょっとクールな主人公をもってきて、
小学生と中学生の橋渡しになるようなゲームを
イメージしてみようと思ったんです。 - 堀井
- あと、ちょうど『VIII』(※23)が出た時期だったんですよ。
で、DSで『VIII』の据置型のような3D表現ができるということで、
「これならいける!」と思って、
GOサインを出した記憶があります。
『VIII』=『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』。2004年11月に発売された。『ドラクエ』シリーズ8作目。
- 犬塚
- はい。とにかく新しいものは全部やろうとして、
DSのすれちがい通信(※24)やWi-Fi通信も、
『IX』(※25)でやる前に『ジョーカー』で試してみました。
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。
『IX』=『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』。2009年7月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売された。『ドラクエ』シリーズ9作目。
- 岩田
- もともとケーブル通信で対戦していた『モンスターズ』が、
DSの新しい通信機能を得てどう変わったのか、
それはのちに『IX』にどうインスパイアされたのかは、
ちょっと面白い話かもしれませんね。
- 犬塚
- そうですね。
ただ『ジョーカー』と『IX』じゃ販売本数が違うので、
プレイヤーの爆発度はぜんぜん違いましたけど。 - 岩田
- 『IX』のすれちがい通信は
社会現象になりましたからね。 - 堀井
- 『ジョーカー』の1のほうでは、
それほどすれちがえなかったんだよね。 - 犬塚
- そうなんですよ。
- 岩田
- 本当にすれちがい通信の手ごたえが出たソフトは、
『IX』からと言えるかもしれませんね。
『IX』で社会現象が起きたときには、
「すれちがいでああいうことをしたかったんだ!」って
任天堂の内部でもくやしがっていましたから(笑)。
だから、『IX』のような特別に多く普及するソフトでなくても
『IX』のようなことが起こるにはどうしたらいいかを考えて、
ニンテンドー3DSでは、いま遊んでいるソフトだけでなく、
最大12本のソフトで常時すれちがえるしくみが生まれたんです。 - 犬塚
- あの3DSのすれちがい通信のしくみは、
今回の『テリー』でちょっと苦労しましたよね。
常時すれちがい状態なので
オンオフ感がなくなっちゃって、
いつ、何が起こっているのかが、
お客さんにわかりづらい状況になってしまったんです。 - 堀井
- 単に「すれちがっていますよ」と表示されるだけで、
誰かとすれちがいながら、自分が何のデータを
出しているのか、わかりにくかったんです。
すれちがい通信になるコマンドの流れもわかりにくかったので、
いろいろと要望を出して修正してもらいました。 - 犬塚
- 何が起きているのかわからないと、
お客さんは不安ですからね。 - 堀井
- そう。「自分はいまこれを出しているんだ」
というのがはっきりわからないといけない。 - 犬塚
- そこの調整には少し時間がかかってしまいました。
- 岩田
- なるほど、『ドラクエ』シリーズ共通の
わかりやすさに到達するためには、一苦労あったんですね。
そもそも、『テリー』を3DSにリメイクする話は
どうやってはじまったんですか? - 犬塚
- 堀井さんは覚えてないと思うんですけど、
じつは最初に堀井さんが言ったんですよ。 - 堀井
- ・・・そうだっけ?
- 犬塚
- そうなんです(笑)。
『ジョーカー2』(※26)か
『プロフェッショナル』(※27)のあたりに・・・。
それで「だったらやりましょう」と話をしました。
『ジョーカー2』=『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー2』。2010年4月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたRPG。『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』シリーズ2作目。
『プロフェッショナル』=『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー2 プロフェッショナル』。2011年3月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売されたRPG。『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』シリーズ3作目。
- 堀井
- あ、でもそれは多分、
3年後とか長いスパンのつもりで言ったと思う。
まさか、こんなに早く出すとは思わなかったんだよね。
具体的な話を聞いたときに「ええっ・・・1年後なの!?」
ってびっくりしたんだから(笑)。
- 一同
- (笑)