『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第17回:『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド3D』
5. 『ドラクエ』らしさは言葉にできない
- 岩田
- ちなみに密度の濃い短期間の開発で、
キモとなる部分はどこでしたか? - 犬塚
- ストーリー関連です。
最初、どのぐらい原作をリスペクトすべきかを悩みました。
というのも、ゲームボーイとニンテンドー3DSだと
表現力に圧倒的な差があるうえ、
原作はストーリーもそうとうシンプルで、
余計な説明がないんですね。 - 堀井
- だから「プレイヤーの脳内で補正したほうに合わせてくれ」
って言いました。思い出は美しくなるので、
その思い出のほうに合わせてほしいと。
- 犬塚
- 堀井さんは“思い出補正”と表現されるのですが、
現物ではなく、脳内のイメージに
合わせてつくるようにしました。 - 岩田
- 当時は、ドット絵がまさしく鳥山先生の絵として
お客さんの脳内で補正されて動いていましたから、
それを実際に見せていく方向になるんですね。
じゃあ、別物をつくるわけですね。 - 犬塚
- 結果的にそうなります(笑)。
- 堀井
- ちょうど彼の下でアシストしている内川くんが、
当時、『テリー』にハマっていたんだよね。 - 岩田
- ああ、14年前、少年時代に『テリーのワンダーランド』を
現役で遊んでいるんですか。 - 犬塚
- はい。
今回、まさにそのスタッフが
3DS版のシナリオをリメイクしていて、
彼の感覚を取り入れつつ、やりました。 - 岩田
- そういう話を聞くと、
「ゲームって一世代回ったんだなぁ」と感じますね。 - 堀井
- ええ、回りましたよね。
ちょうど『ドラゴンクエスト』で育った子どもたちが
いま、社会を動かしている世代になっているので、
最近、そういう人たちから「いっしょに何かやりませんか」と
声をかけてもらえるんですよ(笑)。
ヒルズの展示会(※31)とか、グーグルマップ(※32)とか。
とにかく最近そういう話がとても多いですね。
ヒルズの展示会=2011年10月8日~12月4日まで、六本木ヒルズの森アーツセンターギャラリーにて行われた「誕生25周年記念 ドラゴンクエスト展」のこと。
グーグルマップ=地図検索サービス『Google Maps』。2012年4月1日のエイプリルフールに、全世界地図がファミコン版『ドラゴンクエスト』のような8ビットゲーム機の描写に変化した。
- 岩田
- あれは、グーグルマップの開発者の方が
やりたかったんでしょうね、どうしても。
有名な20%ルール(※33)を駆使したらしいですけど、
けっこう開発にお金もエネルギーも
かかっていると思うんですけど。
有名な20%ルール=Google社には、社内の開発者は勤務時間の20%を本来の開発業務以外に使える独自のルールがある。詳しくは、社長が訊く『安藤ケンサク』を参照。
- 堀井
- キャラクターや建造物も、
8ビットカラーのドットでつくったらしいですよ。 - 岩田
- たった1日のために、ですからね(笑)。
まさに世代がひと回りしているいま、
『テリー』も生まれ変わるわけですね。
今度は、この『テリー』で育つ子どもたちが、
十何年後にはつくり手になっているかもしれませんね。
- 犬塚
- そうなるとうれしいです。
そのころの『ドラクエ』はどうなっているのか・・・。 - 岩田
- 犬塚さんは『ドラゴンクエスト』とは何だと思います?
- 犬塚
- ・・・こんな答えかたをしたら、ひんしゅくを買いそうですけど、
わたしは『ドラゴンクエスト』は堀井雄二だと思っています。 - 岩田
- でも、そう考えている方はきっと多いと思うんです。
「堀井さんのおもてなしのかたちが
『ドラゴンクエスト』なのかな」っていうことですよね。 - 堀井
- すごく、照れくさいですよ(笑)。
- 犬塚
- そのへんも含めて『ドラクエ』に出ている気がしますけどね。
良くも悪くも、堀井さんが投影されている感じがします。 - 堀井
- ただ、ボクは周りにも、すごく助けられてきました。
最近は、ボクの感覚をみんながわかってくれて、
しっかり中身をつくってくれるので、
ボクは、その食べかたとか味つけを考える、みたいな感じですね。 - 岩田
- できてきたものに対して、堀井さんは
「お客さんがこう感じるから、もっとこうしたほうがいい」
と言う役をされますね。
するとそれがもっと『ドラクエ』らしくなり、
同時にその時が、ゲームが化けるタイミングなんですよね。
それが味つけなんでしょうね。 - 犬塚
- それは確実にそうです。
バランス調整にしても、ちょっと中の数字をいじるだけで、
ゲームがガラッと変わりますからねえ。 - 岩田
- でもなぜ、ピンポイントに数字を言い当てられるのか、
犬塚さんは長くつき合っていて不思議になりませんか? - 犬塚
- なんていうか・・・それももはや、
堀井さんというものは
「そういうものだ」と定義しているので、
とくに不思議ではないというか、
むしろ安心するというか・・・。
- 岩田
- ああ、もう、おどろかないんですね(笑)。
- 犬塚
- 「達人がツボをあてる」みたいに自然と認識しているので、
逆に「えっ?」って思う指摘があっても
すぐに納得できるんです。 - 岩田
- きっと堀井さんも、
ロジックでは説明できないと思うんですよ。 - 堀井
- うん。できないです、正直言って。
なんか・・・感覚なんです。 - 犬塚
- でもすごいのは、判断するだけじゃなくて、
「じゃあどうするか」も絶対についてくるんです。
基本、堀井さんは問題が生じても
持ち帰らないですもんね。 - 堀井
- まあ、面倒くさがりなんだよね。
いかになまけて、ラクにできるかってことを
いろいろ考えてるの。ははは(笑)。 - 岩田
- いやいや(笑)。
- 堀井
- だからお客さんにも、
「いかにラクさせてあげるか」を考えるんです。 - 岩田
- 堀井さんは多分、ラクじゃない状況になると
迷うし、つらいし、つづけられないというのを、
ものすごく強く感じる人なんですよね。 - 犬塚
- 何度も、堀井さんの頭の中をのぞこうと
思ったことがあるんですけど、お手上げでした。
わからないです、もうホントに。
個人的な感覚なんだなあと。 - 岩田
- 20年つき合っても、ですね。
- 犬塚
- はい。あと堀井さんがよくおっしゃるのは
「一歩先を行ってはいけない」ってことです。
ゲームをつくっていると、
お客さんの感覚より一歩先に行ってしまうので。 - 岩田
- だから堀井さんのおもてなしで
最も大事にしてることは、
「お客さんをおいてきぼりにしない」っていうことですかね。 - 堀井
- うーん・・・かもしれないです。
つくり手は自分がわかっているものだから、
ついつい先に行ってしまいがちなんですね。
でもおいてきぼりにしないというか・・・。
- 岩田
- 言葉で無理やり言えば、ですけど。
でも・・・『ドラゴンクエスト』については、
あまり言葉にしすぎないほうがいいような気もしてきました。 - 堀井
- ですね。ですよ、本当に。
- 犬塚
- きっと言葉にしたらこぼれてしまうところに、
大事なところがあると思います。 - 岩田
- だけど、堀井さんが自分のことを
「面倒くさがりや」とか、
「自然と感じてしまう」っていうことは全部、
結果的に、お客さんに対する堀井さん流の
“おもてなしができる世界”をつくることに
全部、ぜーんぶ、つながっているんですよね。
だから、まったく無駄がないんだと思います。