『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第18回:『世界樹の迷宮IV 伝承の巨神』
3. “RPGの本質”
- 岩田
- 小森さんが最初に『世界樹の迷宮』の企画書を見たとき、
どの部分に共鳴したんですか? - 小森
- 確か当時、
「『ウィザードリィ』を彷彿とさせるゲームをつくりたい」
と言われたんです。それで、
「これはテーブルトークRPGに近いゲームだ」と感じました。
ゲームを複雑化させていく流れではなく、もっと単純に
「“RPGの本質”だけを遊ぶものをつくりたい」
と僕自身も感じていましたので。 - 岩田
- “RPGの本質”というのは、
小森さんはどう定義されていますか? - 小森
- 『世界樹の迷宮』において自分が考えているのは、
『ウィザードリィ』を遊んだころに楽しんだ
“探索”“戦闘”“成長”の3つだと思っています。 - 岩田
- じゃあ、その本質にしぼって生まれたものが
『世界樹の迷宮』ということですか? - 小森
- はい、僕はそう思っています。
- 岩田
- 実際につくりはじめて、
すぐ手ごたえはありましたか? - 小森
- じつは、はじめ開発人数が6人ほどしかいなくて、
手ごたえを感じる以前に、
ゲームづくりそのものが大変だったんです(苦笑)。
- 岩田
- あえて失礼な言いかたをしますが、
当時、無名の新作RPGをつくることは
かなりハードルの高い行為でしたから、
まずはその困難を乗り越えなくてはならなかったんですね。 - 小森
- はい。ただ、RPGの本質が“戦闘”だとはいっても、
チームにバトル部分の専任がいない状況だったので、
金田を引っ張ってきて知恵を拝借したわけです。 - 岩田
- 金田さんは『世界樹の迷宮』チームから助っ人を求められて、
第一印象はどうでしたか? - 金田
- ・・・正直、「大丈夫かな?」と思いました(笑)。
- 岩田
- 当時のRPGのお約束を大胆に破っていますからね。
- 金田
- そうなんです。
身も蓋もない言いかたをすれば、
飾りを全部取っ払ってしまうと、RPGの戦闘は
“かわりばんこに叩いて、命が多いほうが残る”
というものですから。 - 岩田
- 「複雑にはしないけれど、魅力的にしなくてはいけない」
という、とっても難しい命題だったわけですね。 - 金田
- はい。でも、これほどRPGのターンバトルに
立ち返ってゲームをつくるのはいさぎよくて、
うらやましさすら感じました。 - 岩田
- やはりRPGの古き良き時代を
思い出させてくれる何かがあったんですね。 - 金田
- はい。根っこがちゃんとしていたので、
「絶対に面白くなる」と感じていました。 - 岩田
- では小森さん、シンプルにするといっても、
RPGである以上は絵も音楽もあるし、
テキストも書かなきゃいけないですよね。
それらの課題をどうやって乗り越えて、
いまの評価につながる仕上がりになったんですか? - 小森
- なつかしさを連想させたり、
想像力を刺激したりする、という狙いは明確だったので、
その方向で考えたときに思い出したのが、
当時ブームだったゲームブック(※14)でした。
そのテイストを参考にすれば、
「想像力を刺激するRPGになるんじゃないか?」
と思ったんです。
それで作成したテキストを
実際にDSに入れて動かしてみたら、
当時のディレクターも気に入ってくれました。
ゲームブック=RPGやアドベンチャーゲームを、本を読みながら楽しむことができる、「遊ぶ」ことを目的につくられた本。読者が選んだ選択肢によって、ストーリー展開や結末が変化していく。
- 岩田
- 新鮮さを感じたということでしょうか?
- 小森
- はい。3Dダンジョンを歩くときは常に自分視点にして、
プレイヤーに語りかけるようなテキストづくりを意識すれば、
「新しい雰囲気が出せる」と思ったんです。
- 岩田
- 絵づくりはどのように進めたんですか?
どんどん表現がリッチになっていくほかのRPGとは
違う個性で戦わなくてはならないですよね。 - 小森
- 『I』のディレクターが
キャッチーな雰囲気をかもし出せる方ということで
日向(悠二)さん(※15)にお願いしました。
日向悠二さん=『世界樹の迷宮』シリーズのキャラクターデザインを担当するイラストレーター。
- 岩田
- その組み合わせは当時、
ユニークと評価されましたよね。
音楽はいかがですか? - 小森
- 音楽もそのディレクターの希望で
古代(祐三)さん(※16)に
「FM音源(※17)で」と、お願いしました。
古代祐三さん=主にコンピューターゲームの音楽を手がける作曲家。ゲームプロデューサー。ゲーム制作会社、株式会社エインシャント代表取締役社長。
FM音源=Frequency Modulation(周波数変調)を応用する音色合成方式を用いて、さまざまな合成音を出すことができる音源。スタンフォード大学で開発されたものを、ヤマハ株式会社がライセンスを受けて実用化。主に1980年代、コンピューターや家庭用ゲーム機などに幅広く活用された。
- 岩田
- あ、あえて「FM音源的な音で」とお願いしたんですか?
- 小森
- 自分はそう聞いてますね。
FM音源は、僕らの世代にとってすごくなつかしい音で、
先ほども話した「想像力を刺激するためのスパイス」
だったのでは、と感じています。
また、若い年代の方にとっては「新鮮かな」と思いました。 - 岩田
- なるほど。
「いまは失われてしまったものを
新しい魅力的なものと組み合わせたら、
面白いものになるんじゃないか?」
という挑戦が『世界樹の迷宮』だったんですね。
手ごたえはいつごろ感じられましたか? - 小森
- 開発スタッフ内で
面白いゲームをつくったという自信はありました。
ただ、「いまの市場でどれくらい売れるだろう?」
という意味の不安はありました。
正直、手ごたえを感じたのは発売後、
品切れになったころにやっと
「これはいけるんじゃないか・・・」
という感じでしたね。 - 岩田
- 自分たちの意図どおりに受け取ってもらえた部分と、
逆に想像もしなかった反応はありましたか? - 小森
- 「自分たちと同じなつかしさを感じる方が多いかな」
と思っていたんですけど、意外に若い世代の方が、
RPGのひとつとして、
普通に楽しんでくれたことが新鮮でした。 - 岩田
- 「若い方にとってFM音源が新鮮に聞こえるかも」
という先ほどの話と少し似ているんですが、
「ただなつかしいだけじゃなかった」ということですね。
金田さんは、どう見ていましたか? - 金田
- 確かに“新鮮さ”もあると思うんですが、
「RPGの本質的な面白さを、アトラスがチャレンジした」
ということ自体に喜んでいただいたお客さんが多かったんです。
だから「RPGの本質をもっと楽しみたい」という、
お客さんの声がすごく強いと感じました。
- 岩田
- 若い世代からも声が揚がったことが新鮮ですね。
だって若い世代の方にとっては、
少なくとも動機が“なつかしい”じゃないですから、
「この現象をどう理解すればいいんだろう?」と
思ったんじゃないですか? - 金田
- はい、新鮮でした。
僕の世代が喜ぶ話だと思っていただけに・・・。 - 岩田
- もしかするといままでとは違う、
“ちょっと得体の知れないところを狙ったゲーム”
と感じてもらえたんでしょうか? - 金田
- そうかもしれません。
Wiiの発売日、僕も徹夜で並んでいたんですけど(笑)、
列にいる若い方たちが
たまたま『世界樹の迷宮』の話をしていたんです。
そのとき「どうせこんなゲームでしょ?」ではなく、
「あれってどんなゲームだろう?」と話しているのを聞いて、
若い世代にとっては、新しく見えるけれども、
少し謎めいた存在感を感じてもらえたのかもしれません。