『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第19回:『ルーンファクトリー4』
1. 毎日が、よりみち
- 岩田
- 今日は『ルーンファクトリー4』を手がける
マーベラスAQLのプロデューサー、
はしもとさんにお越しいただきました。
どうぞよろしくお願いいたします。 - はしもと
- こちらこそ、よろしくお願いします。
- 岩田
- お会いするのもはじめてですし、
はしもとさんとゲームのかかわりから
お訊きしてもよいですか? - はしもと
- はい。まずわたしとゲームとの出合いは、
子供時代からごく普通に
ファミコンなどを遊んでいて、
ゲームセンターにも、よく行ってたんです。
当時のアーケードのゲームでは、
任天堂さんの『VS.テニス』(※1)が大好きでした。
画面が向かい合って対戦できる筐体で・・・。
『VS.テニス』=1984年にアーケードに登場した任天堂のスポーツゲーム。内容は同年に発売されたファミコン用ソフト『テニス』と同じだが、対面した2画面を用いて最大4人での対戦プレイが可能だった。
- 岩田
- 「任天堂VS.システム」(※2)ですね。
あの中には画像を鮮明にRGB出力できる、
カスタムバージョンのファミコンが
2つ入っていたんです。
「任天堂VS.システム(にんてんどうブイエスシステム)」=1984年に任天堂が開発したアーケードゲーム基板で、ファミコンの構造を応用して開発された。
- はしもと
- あ、そうなんですか! てっきり、
アーケードゲームでよく使われる基板かと思っていました。
『VS.テニス』は、あの球の軌道、
とくにロブの角度がすごくおもしろくて、
うしろから人のプレイをずっと見ているだけでも、
楽しかった記憶があります。
その後、アーケード全盛時代も経験していますから、
けっこうなコアゲーマーだったと思います。
でも最初、わたしはゲームよりも
「映画をつくりたい」と思っていたんです。 - 岩田
- 映像分野に興味があったんですね。
- はしもと
- はい。ただ、やっぱり映画となると、
必要な人や物のスケールが大きくて、
ひとりですべては無理じゃないですか。
わたしは“自分でぜんぶやりたい派”なので、
「ゲームなら、ある程度
世界を自分でつくれるんじゃないか」
って考えたんです。 - 岩田
- 黎明(れいめい)期のゲームづくりは、
個人の目や力のおよぶ範囲が
大きかったんですよね。 - はしもと
- はい。いまはまた変わってきましたが、
個人の力が商品に直結していました。
それでゲームの道を志して、
ゲーム会社のSNK(※3)に入りました。
入ってからはずっと、
対戦格闘アクションをつくり続けていました。
SNK=株式会社エス・エヌ・ケイ。ゲーム機やゲームソフトの開発・販売、アミューズメント施設の経営などの事業を行っており、対戦格闘アクションゲームを数多く手がけていた。
- 岩田
- 一時期、アーケードゲーム開発者のみなさんは
みんな対戦格闘アクションに力を入れていたような
時期がありましたよね。 - はしもと
- SNKはその代表的な会社でしたし、
全チームが延々と、そういった感じでした。
それで何年かやっているうちに、
自分の中で「このままでいいんだろうか?」と
考えるようになったんです。
そしてある日、当時マーベラスインタラクティブ(※4)の
プロデューサーだった和田(康宏)さん(※5)と
ご縁があって現在にいたる、という感じです。
- 岩田
- そこで『牧場物語』(※6)と、出合ったわけですね。
マーベラスインタラクティブ=株式会社マーベラスインタラクティブ。2007年に株式会社マーベラスエンターテイメントに吸収合併され、2011年より現・株式会社マーベラスAQLのコンシューマ事業部となった。
和田康宏さん=『牧場物語』シリーズの生みの親。
『牧場物語』=シリーズ1作目は1996年8月に株式会社パック・イン・ビデオよりスーパーファミコン用ソフトとして発売されたシミュレーションゲーム。
- はしもと
- そうです。
当初はフリーでお手伝いしていたんですが、
気がついたら和田さんが
どんどんエラくなって、
現場から離れざるをえなくなっていって・・・。
そのうち現場は、
自分がどっぷり見るような流れになって、
正式に会社に入社することにしました(笑)。 - 岩田
- お手伝いのはずが、
いつのまにか主役になってしまった、
ということですね。 - はしもと
- はい。『牧場物語 しあわせの詩 for ワールド』(※7)の頃から
プロデューサーをやっていました。
それから、『牧場物語』シリーズを自分の担当として、
だいたい1年半に1本くらいのペースで
つくり続けてきた感じです。
『牧場物語 しあわせの詩 for ワールド』=2005年11月にマーベラスインタラクティブよりゲームキューブ用ソフトとして発売された、ほのぼの生活ゲーム。
- 岩田
- たしか、いちばん最初の『ルーンファクトリー』(※8)には
『新牧場物語』という副題が、ついていましたよね。 - はしもと
- 『ルーンファクトリー』は最初、
「牧場物語 もうすぐ10周年!」という発表会で
『牧場物語』シリーズの新たな展開のひとつとして発表した、
スピンオフ作品だったんです。
いちばん最初の『ルーンファクトリー』=『ルーンファクトリー -新牧場物語-』。マーベラスインタラクティブより2006年8月にニンテンドーDS用ソフトとして発売された、シリーズ第1作。
- 岩田
- そういう意味で、『ルーンファクトリー』のルーツは
『牧場物語』にあるわけですよね。
そのあたりご存じない方もいらっしゃると思うので、
今日はあわせて『牧場物語』についても
くわしくお訊かせいただければと思っています。 - はしもと
- そうですね、ぜひ。
- 岩田
- まず、それまでの『牧場物語』に
どんな要素を持ちこむことが、
『ルーンファクトリー』が生まれる
きっかけになったんですか? - はしもと
- もともと『牧場物語』は、
農作業やどうぶつとのふれあいといった
日常の生活をのんびり過ごしたり、
町の人々と仲良くなって人生を楽しむ、
そんなゲームだったんです。
その舞台を西洋的な味付けの
「ファンタジーの世界にしよう」と考えたのが、
企画の原点になります。 - 岩田
- そんなふうに考えたのは、なぜなんですか?
- はしもと
- これは自分の原体験なんですが、
ずっと遊んでいた
『ドラクエ』(※9)からきているんです。
あの、最後のボスを倒して、
王様のところに報告に向かう途中、
よりみちしていろんな人の話を聞くのが
ものすごく大好きだったんですね。
ゲームの世界の中で、みんなが自分を知っていて、
「ありがとう!」とか「かっこいい!」とか
言われるとうれしいし、
誇らしくなるじゃないですか(笑)。
『ドラクエ』=『ドラゴンクエスト』。シリーズ1作目は1986年5月にファミコン用ソフトとして発売されたRPG。
- 岩田
- 「世界中の人がたたえてくれる、
あの瞬間がたまらない!」ということですね。 - はしもと
- はい(笑)。それで、
「ここだけのゲームを遊びたいなぁ」って
思っていたんです。 - 岩田
- 「RPGのいちばん楽しかったところだけを
味わいたい、つくりたい」というのが、
『ルーンファクトリー』の生まれる
原点になっているわけですか。
- はしもと
- そうです。
「えっ、こんなに
ホメられちゃっていいの?」っていう・・・。 - 岩田
- しかも、最初から、ですからね(笑)。
- はしもと
- はい(笑)。
- 岩田
- 逆に、『牧場物語』から引き継いで
大事にした部分というのも、
当然ありますよね。 - はしもと
- システムという点では、
農作業などがそれにあたるんですが、
同じくらい、町の人々とのコミュニケーションも
重要と考えて引き継いでいます。 - 岩田
- 町の人々との会話や、イベントなどですか?
- はしもと
- そうですね。たとえば
初期のRPGに出てくる町の人って、
「ここは××の町だよ」とか、
たいてい決まったことしか
言わなかったんですよね。 - 岩田
- プレイヤーに情報を与えるためだけの、
無名のキャラクターがほとんどですよね。 - はしもと
- 『牧場物語』の町には、
そういうキャラクターはひとりもいないんです。
舞台となっているのは小さな町や村がひとつで、
登場人物は多くても20~30人なんですけど、
全員に生活があって、全員が主役のゲームなんです。 - 岩田
- お約束のセリフを言うだけのキャラクターは
ひとりもいないということですね。 - はしもと
- はい。たとえば雑貨屋さんの女の子も、
単に「何を買う?」って言うだけじゃなくて、
お店以外に日々の暮らしや好きなことがあって、
ときには主人公と恋に落ちて、結婚して、
一緒に暮らすことだってあるんです。 - 岩田
- 町の人々がまさに生活していて、
その人々との深い関係が楽しめる世界、
ということですかね。 - はしもと
- そうですね。
それで『ルーンファクトリー』は企画当初、
プランニングのスタッフに、
「DSの中に、宝石箱みたいに
一人ひとりの人生がキラキラしている、
小さな世界が広がっている感じにしたい」って、
説明をした記憶があります。 - 岩田
- 普通のファンタジーRPGより
人数や世界の広さはしぼるけれど、
その一つひとつが輝くように、
ということですね。 - はしもと
- はい。それともうひとつ、
『牧場物語』から引き継いだ要素としては
ゲームの中で日付の概念があることです。
時間が流れて、季節が移り変わり、
天気も変わります。 - 岩田
- 時間や季節があると、
それに応じた折々の繰り返しのサイクルが
生まれてきますよね。 - はしもと
- するとやっぱり、朝起きるたびに
「さて今日は何しよう?」って思うじゃないですか。
たとえば雨が降ったら
「あの人は雨が嫌いだったけど何してるかな?」って、
ふと思い立って、会いに行ってみたり。
言ってみれば“毎日がよりみち”のような感覚なんです。 - 岩田
- ゲームの中で暮らすといった、
ゆるい目的の中で、遊ぶプレイヤーが思い思いに
日常を楽しむゲーム、それが『牧場物語』であり、
『ルーンファクトリー』なんですね。