『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第19回:『ルーンファクトリー4』
2. つくり手としての“力の源”
- 岩田
- 『ルーンファクトリー』が
『牧場物語』から大きく変わった点として、
舞台のほかにはどんなことがあったんですか? - はしもと
- 要素としてはやっぱり、
モンスターとのバトルがあることが
いちばんの大きなちがいですね。 - 岩田
- ファンタジーですから、
モンスターがいるのはおかしくないですけど、
『牧場物語』から見ると相当大きな変化なんですよね。
その「変えよう」とした部分に対して、
最初の周りの反応はどんな感じでしたか? - はしもと
- 『牧場物語』ファンの方からは、
「なんで戦いを持ちこむんだ?」といった声を
たくさんいただきました。 - 岩田
- 『牧場物語』ファンの方々にとっては
「戦いやファンタジーの世界にはない、
ほのぼのした世界だから魅力的なんだ!」っていう、
意識がはっきりとあったわけですね。 - はしもと
- そうですね。やっぱりそこは
社内の企画段階でもかなり議論があって、
「本流に悪い影響が出たらどうするんだ!?」といった
大反対にもあいました。 - 岩田
- どこを変え、どこを守っていくかは
あらゆるシリーズがぶつかる壁ですからね。
変えたことは当初
「なんかちがうんじゃないか?」って言われても、
のちに「これはよかったね」っていうふうになるものもあれば、
さらに大きく“化ける”こともあります。
でも、つくり手は神様じゃないし、
答えは自分ではわからないので、
もがきつつ、やるしかないんですよね。 - はしもと
- まったく、そのとおりです。
- 岩田
- その判断は会社としても
なかなかGOを出しづらかったでしょう。 - はしもと
- 『牧場物語』の根幹をなすこだわりですから、
相当怖かったと思います。
でもそれをくつがえすことが
『ルーンファクトリー』をやる意味でもあったと思うんです。 - 岩田
- はい。
- はしもと
- でも個人的には、だんだん
そういった反対をくつがえしていくのが
快感になってきたというか・・・。 - 岩田
- (笑)。
周りが怖がっているのをやりとげて、
結果を出すのが快感に変わってきたわけですか? - はしもと
- ええ、そうなんです(笑)。
でも、定番シリーズになるほど
熱心なファンなら次がどんな改変を行うか、
ある程度、予想できてしまいますし、
ときにそれはつくり手が思ってる以上の
期待だったりすることがあるんですね。
前の会社で格闘アクションを長くつくっていて、
そういったことをおおいに経験していました。
- 岩田
- わたしが思うのは、ゲームを
まったく別の方向に伸ばしたときこそ、
そこにさらにお客さんが
別のおもしろさを足してくれるというか、
新しい魅力が生まれるような気がしているんです。
遊ぶ側が予想外のことで虚(きょ)をつかれると、
心の動きがより大きくなるわけで、
結果、つくったこと以上のことまで含めて
感じとられて、それが広がることがあるんですね。 - はしもと
- そういう意味では『ルーンファクトリー』が
『牧場物語』シリーズからスピンオフして、
もうひとつのシリーズとして認められた理由は
まさにそこにあるのかな、と思います。 - 岩田
- 2つのシリーズはいまも
それぞれ新作がつくられ続けていますが、
はしもとさんから見てこの2作は
どういうふうに位置づけられているんですか? - はしもと
- 『ルーンファクトリー2』(※10)からは、
『新牧場物語』の副題をはずしているんですが、
この頃は「いかに差別化するか」を
ずっと考えていました。 - 岩田
- 副題をはずすということは、
「『牧場物語』シリーズではないですよ」って
宣言をしたわけですからね。 - はしもと
- はい。でも『ルーンファクトリー3』(※11)以降になると、
アンケートなどを見ているうちに、
「『ルーンファクトリー』がおもしろかったので、
『牧場物語』をはじめて買いました」という声や、
その逆の声をよく見かけるようになったんです。
『ルーンファクトリー2』=2008年1月にマーベラスインタラクティブよりニンテンドーDS用ソフトとして発売。
『ルーンファクトリー3』=2009年10月にマーベラスエンターテイメントよりニンテンドーDS用ソフトとして発売。
- 岩田
- ああ、それはそれぞれの個性を受け入れたうえで、
両作品とも同時に楽しんでおられる方が
確実に増えてきているからなんでしょうね。 - はしもと
- 最近はお客様から
「なぜ『牧場物語』には
『ルーンファクトリー』にあるアレがないの?」
って言われることも出てきました。 - 岩田
- 最初「なんで変えるんだ!」っていう声をいただいていたのに、
いまはその真逆の声をいただくようになったんですか。
- はしもと
- はい(笑)。
いまは一方で好評だったシステムを
もう一方にいかに導入するかといったことを、
積極的に考えるようになりました。 - 岩田
- 2作品が別々に受け入れられたので、
お互いの要素をかけあわせて、
進化する意味に変わっていったんですね。 - はしもと
- そうです。
- 岩田
- それにしても、この2つのシリーズを
同時につくり続けるというのは、
たいへんなことだと思うんです。
はしもとさんの、つくり手としての
“力の源”って何なんですか? - はしもと
- わたしは本当に、
ゲームをつくっているときがいちばん楽しいんです。
「趣味=つくっていること」みたいな感じで。
できれば土日もずっと仕事したいんですが、
あんまり会社にずっといると
怒られてしまいますので・・・。 - 一同
- (笑)
- はしもと
- でも結局のところ、
「お客様の声あってこそ」とは思います。
ネット全盛のいまでも、
ときどき熱い思いの方から
手書きのおたよりをいただくことがあるんです。 - 岩田
- 手書きのおたよりっていいですよね。
文字の一字一字に、
気持ちが宿っているというか。 - はしもと
- そうですね。以前『牧場物語』で、
小さなお子さんを育てられているお母さんから
お礼のお手紙をいただいたことがあるんです。
「子供が、このゲームに触れて笑いました」
って、書いてありました。
それを読んだらもう、うれしくてうれしくて。
「ずっとつくり続けられるなぁ」って。
自分の喜びが人の喜びになって返ってくるって
何ものにも代えがたい、しあわせなことですよね。 - 岩田
- 娯楽が世の中に求められる理由のひとつに、
“人が笑顔になる”ということがあると思うんです。
それができたということは、
まさにつくり手冥利(みょうり)に尽きますね。 - はしもと
- 本当にそう思います。
一時期、マーベラスインタラクティブ時代は
海外向けの移植も自分で担当して、
いちばん多いときは13本見ていたんですけど・・・。 - 岩田
- ええ?
同時進行で13本も担当していたんですか? - はしもと
- はい。もう本当にいろんな意味で、
ギリギリな状態なんですけど、
そこからだんだん、5本、3本と減ってきて。 - 岩田
- いやいや、5本でも十分多いですよ(笑)。
- はしもと
- まあ、そうですよね(笑)。
でも最初に1本だけやっていたときが
ものすごくたいへんで、それが5本に増えて
「もうだめだ」って思って。
そこからさらに二桁に増えたとき、
もう異常な本数になっているんですけど、
「どこに力を入れればいいのか」が、
不思議とはっきり、わかるようになったんです。 - 岩田
- ああ、きっとその時点で
“かかわりの距離”が変わったんですね。
視点が離れることで全体が見えたり、
ほかの比較対象をつねに同時に見ているので、
現場のスタッフがぜったい気づかないようなポイントを、
的確に指摘できるようになるんですよね。 - はしもと
- ああ、なるほど。
- 岩田
- それでモノが格段によくなることを体感すると、
またおもしろくなってきて、仕事を続けることができる、
っていうことなんでしょうね。 - はしもと
- そうですね、まさに。
自分の中で深くかかわるもの、応援するものとか・・・。
かかわりかたがシンプルになるんです。
そうなると非常に楽しくて、たとえるとしたら
ショートケーキのイチゴだけを食べるような(笑)。 - 岩田
- なるほど(笑)。
たくさんやっていて責任も重いけど、
「開発者人生っておいしい!」という感じに
なっていったわけですね。 - はしもと
- 本当に、そうです。
何本でもつくりたくなります(笑)。