『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第19回:『ルーンファクトリー4』
3. “1イント”のこだわり
- 岩田
- ここであらためてお訊きしますが、
『ルーンファクトリー』のことをご存じない方に
「『ルーンファクトリー』とはこんなゲームです」
と伝えるとしたら、
いつもどんな紹介をされるんですか? - はしもと
- ひとことで言うとやっぱり、
「ファンタジーの世界でいろんな体験ができますよ」
という説明をすることが多いですね。
普通のファンタジーRPGって、目的があって、
いわゆる使命みたいなものがあると思うんですけど、
この世界では、本当に遊ぶ人の自由なんです。
畑仕事からダンジョンの探索、
町の人たちとの交流まで、
自分のペースで生活できますから。 - 岩田
- 仮想の世界で暮らす、という点では
『牧場物語』も同じ面があると思いますが、
『ルーンファクトリー』の世界ではとくに、
主人公と登場人物たちとの恋愛といったものが、
より注目されることが多いですよね。 - はしもと
- そうですね。
個性的なキャラクターの中から
「誰と恋人になって結婚しようか?」と考えるのは
大きな楽しみのひとつになっています。 - 岩田
- 結婚したくなるような
魅力的なキャラクターをつくり続ける、
はしもとさんのこだわりって何かあるんですか? - はしもと
- これはこだわりではないんですが、
わたしは、“設定をつくるの大好き人間”なんです。
映画をつくりたかったのもそれが理由で。
担当するゲームのキャラクターの設定や世界観は
自分でつくっているタイトルもあります。 - 岩田
- へえー、そうなんですか。
いや普通、大きなものを同時に複数見ている人は、
個別の設定までぜったいできないはずなんです。
デザインもディレクションをされているんですか? - はしもと
- そうですね、デザイナーに直接、
「服飾はこんな感じにしてね」とか、やってます。
ボイス収録などもスタジオに入って
かなり細かく見ている場合もありますね。 - 岩田
- なるほど・・・。
じゃあ、それこそあの世界観まるごとが、
はしもとさんの頭の中でできているんですね。
やっぱり、はしもとさんは非常にめずらしい
タイプのつくり手だと思います(笑)。 - はしもと
- そうですか(笑)。
考えるのが、たまらなく楽しいんです。 - 岩田
- それで今回の『ルーンファクトリー4』は
どんな設定なんですか? - はしもと
- 今回はまず何より、主人公が、
“空から落ちてきた王子さま(または、お姫さま)”で、
町の発展も仕事のひとつ、という設定です。 - 岩田
- はい。
- はしもと
- あとは全体のテーマを言うと、
「恋愛は淡く、結婚は甘く」みたいなイメージです。
告白して恋人になって、デートに行ったり、
恋愛期間のイベントはドラマチックに。
結婚したあとの生活では、
生まれた子供と親子で冒険できたりと、
家族で多彩に楽しめるつくりになっています。 - 岩田
- その世界での人生がより幅広く、
充実したものになっているわけですね。 - はしもと
- でも、そこはファンタジーの世界ですから、
一方では魔王のような敵も存在します。
「冒険したい!」っていう方が、
どんどんダンジョン探索やバトルに励めるように、
今回ダンジョンはグッと本格的になりましたし、
“飛行船”のような乗り物も、新たに登場します。 - 岩田
- そこで魔王を倒しても、倒さなくてもいい。
あえてそれも自由にしているんですよね? - はしもと
- はい。基本的には
「魔王を倒せばめでたし、おしまい」
といったシステムにはなっていません。
「魔王を倒したぞ! じゃあ畑でも耕すか!」
っていう感じに、日々をまた
生きていくのもありなわけです。
- 岩田
- 世界を救った勇者が、畑を耕すんですね(笑)。
- はしもと
- そうです。
すばらしいことだと思います(笑)。 - 岩田
- つくり手にとって、
そういう自由度の高いゲームは
構造上、際限なくやりたいことをやりたくなる
欲が出そうな気がします。
でもそれをどこかで止めないと、
商品っていつまでも完成しないじゃないですか。
はしもとさんは、そこを
どうやって解決しているんですか? - はしもと
- わたしの場合、
『ルーンファクトリー』に限らずなんですが、
開発をはじめて3か月目くらいまでは
際限なく、広げています。 - 岩田
- 時間で区切って、決めているわけですか。
- はしもと
- はい。ずっと増やして、出し尽くして。
で、ある時期が来たら逆に
「この要素のおもしろさの核は何だ?」って
しぼり込んでいくわけです。 - 岩田
- 一度広げるだけ広げて、
それをどう収めればいいかを考える、
ということですか? - はしもと
- 際限なく広げてから、
それぞれの要素の核をみつけて、
その核と核をつないでしぼり込んで、
そこでまた整合性を取ってぎゅっと縮めて
つくっていくイメージです。 - 岩田
- 一度要素を出し尽くしてから選ぶので、
ふんぎりが、つくわけですね。 - はしもと
- はい。毎回その段階で
スタッフはエネルギーの大半を費やして、
みんなクタクタになるんですが。 - 岩田
- まあ、翻弄(ほんろう)されますよね、
現場の方は。
「どうするんだ、これ!?」って
きっと思っているんじゃないですか? - はしもと
- だと思います。でもそこは
夢を語る意味でも、必要だと思うんです。
はじめから制約を意識して考えても、
新しいおもしろさは生まれないですから。 - 岩田
- 『ルーンファクトリー』や『牧場物語』の
シリーズが評価されている理由のひとつは、
そこにもありそうですね。
とにかく、夢をどんどん広げて、
どんどんアイデアを投げ込んで、
もう1回新しい切り口で切りなおすという。
だからある意味、前作にあった要素を
バッサリなくすこともあるんじゃないですか? - はしもと
- そうですね。
あえて今回で言いますと、前作にあった
ワイヤレス通信やWi-Fi通信をなくして、
完全な1人専用になっています。 - 岩田
- ああ、それはかなり思いきってますね。
普通、増やした要素はなかなか削れないですよ。 - はしもと
- 普通ならそうですよね、やっぱり。
- 岩田
- そこはまさに、
新しい切り口で切り直しをした、
ということなんですね。
あと、対戦格闘アクション出身のはしもとさんが、
『ルーンファクトリー』や『牧場物語』のような
ゲームを長く手がけているというのも
おもしろいですよね。 - はしもと
- アクション出身という視点で言うと、
こだわる部分はちょっと独特かもしれません。
たとえばジャンプひとつとっても、
すごく気になることがあって、
「そこは1イントちがうー!」って(笑)。
やっぱりどんなゲームでも
“アクションの気持ちよさ”みたいなものは
必要だと思っていますので・・・。 - 岩田
- ああ、いま、“1イント”と
さりげなくおっしゃいましたが、
これは業界用語ですよね。 - はしもと
- あ、はい(笑)。
- 岩田
- ちょっと説明しますけど、
イントはインタラプト(割り込み)という意味で、
画面が描かれる1/60秒ごとに
プログラム上で「ちょっと待った」という
“割り込み”という動作を毎回おこなっているんです。
それに同期して、ゲームが動いているわけです。 - はしもと
- はい。
- 岩田
- だから「1イントちがう」っていうのは、
「1/60秒ズレている」という意味なんです。
でも、1イントという表現を使うのは
格闘ゲームとか、アクションゲームを
つくっていた人特有の、言葉なんですよね。
会社によっては“1割り込み”とか、
“1フレーム”とか、呼びかたはさまざまですけれど。 - はしもと
- ついクセで言っちゃいましたけど、
わかっていただけて、すごくうれしいです(笑)。
でも、当たり前ですけど
ジャンプや攻撃のアクションって、
ボタンを押したら単に「ポン!」と
動けばいいというわけではないですから、
そこが気になりはじめると、
どうしても我慢できないんです。 - 岩田
- ゲームのアクションって、物理法則どおりに
動いてるわけではないですからね。
格闘アクションでボタンを押した瞬間に
相手にパンチがヒットするなんて、
本当はありえないことですけど、
ゲームとしての気持ちよさを優先した結果、
ああいうふうになっているわけで。
- はしもと
- そうですね。
そういったことはたくさんあります。 - 岩田
- アクションゲームと思われていない
『ルーンファクトリー』や『牧場物語』にも、
そういったノウハウが隠されているわけですね。 - はしもと
- そうですね。
基本的なところで言うと、
農作物を引っこ抜くアクションのように
“繰り返す動作”はとくに気にしています。
引っこ抜くつながりで言えば、
『ピクミン』(※12)は気持ちいいですよね(笑)。 - 岩田
- 『ピクミン』は、どれくらい「うーっ!」てなって、
どれくらいで「スポン!」と抜けると
生理的に気持ちいいかを、
徹底的に研究してつくられてますから。 - はしもと
- あと、じつは個人的に昔つくるとき、
『夢工場ドキドキパニック』(※13)なんかも
研究させていただいていたんです。
『ピクミン』=2001年10月に第1作目がゲームキューブ用ソフトとして発売されたAIアクションゲーム。
『夢工場ドキドキパニック』=1987年7月にファミコンディスクシステム用ソフトとして、フジテレビジョンから発売されたアクションゲーム。
- 岩田
- わたしはあのゲームをはじめて見たとき、
引っこ抜いたものを頭の上に掲げて投げるわけで、
「なんてことをゲームにするんだ!?」って
思ったんです(笑)。 - はしもと
- はい、たしかに(笑)。
- 岩田
- でも、「気持ちよくて、繰り返しやりたくなる」、
あの手ざわりを確立できたからこそ、
成立したゲームなんですよね。 - はしもと
- そういう意味でも、1イントのちがいが
ゲームの手ざわり感を左右することがあります。
『ルーンファクトリー』はアクション性が
比較的高い分、そういった部分も
かなり意識してつくっています。