『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第19回:『ルーンファクトリー4』
4. 3Dアニメの最先端を
- 岩田
- はしもとさんが、今回ニンテンドー3DSで
はじめてゲームをつくるにあたって、
3DSを「どう活かしてやろう」って
思われましたか? - はしもと
- 正直なことを言うと、
最初に3D立体視というのを聞いたときは、
「うーん、どうしようかなぁ」
って思うところはありました。
立体視が生む楽しさやインパクトというのは
すごくわかったんですけど、
『牧場物語』も『ルーンファクトリー』も、
じっくり、長ーく遊んでもらって、
じわじわ楽しくなるような
タイプのゲームでしたから。 - 岩田
- インパクトだけで「すごい!」とか、
「迫力たっぷり!」っていうゲームではないので、
「必ずしも立体視という特徴との相性が
よいものではないんじゃないか?」
ということですよね。 - はしもと
- そうですね。でもだからといって、
「立体視は使いません」って割り切ってしまうと、
つくり手としては負ける気がしたんです。 - 岩田
- はい(笑)。
- はしもと
- そこで3DSで最初につくった
『牧場物語 はじまりの大地』(※14)では、
奥行きを活かせる“だんだん畑”を盛り込んだり、
カメラを上げたときの立体視の視差を
内部的に切り替えて、調整しています。
「3DSになったから『牧場物語』は
こんなにおもしろくなった」って
思ってもらえるものを、目指しました。
『牧場物語 はじまりの大地』=2012年2月にニンテンドー3DS用としてマーベラスAQLより発売された、ほのぼの生活ゲーム。
- 岩田
- 立体視以外にも、
新しいチャレンジはできましたか? - はしもと
- 大きなテーマとして
「フル3Dで、かつてない
スケールの大きい牧場の物語」
という目標があったんですが、
具体的には自分が住む牧場に
家やオブジェを自由に設置して
「自分好みのオリジナルの牧場をつくれる」
というシステムがいちばんのチャレンジでした。
・・・企画会議で自分が話した瞬間、
現場のスタッフたちは凍りつきましたけど(笑)。
- 岩田
- まあ、言われた側は
「どうやって実現するんだ?」ってところから
考えはじめますからね。 - はしもと
- そうですね。
それで黙ったり、暗くなったり・・・(苦笑)。
でもなんとか形にすることができました。 - 岩田
- 先に発売された『牧場物語』は、
わたしたちから見ても
お客さんにとても高く評価されている感じが
伝わってきているんですが、
はしもとさんはどう感じられていますか? - はしもと
- 最初、やっぱりドキドキして
見守っていたんですが、
発売後の手ごたえは、おおいにありました。 - 岩田
- タイミング的にもハードが普及して、勢いが出て、
ちょうど「さあ、次は何を遊ぼう?」って
お客さんがたくさんいらしたよい時期でしたよね。 - はしもと
- はい。でも自分はちょっとどん欲なので、
まだ満足していない部分はあります。
評価に関しても、より喜んでもらえるものを
つくっていきたいと思っています。 - 岩田
- 『牧場物語』と『ルーンファクトリー』では
お客さんの層、具体的には性別や年代などは、
けっこうちがうんですか? - はしもと
- ええ、まず『牧場物語』は年齢で言うと
下は小学生くらい、上は20代以降の
幅広い年代の方に遊んでいただいていて、
山が2つ、ある感じです。 - 岩田
- 低年齢とその親御さん、
というイメージがありますね。
お母さんで夢中になっている方が多いと
お聞きしています。 - はしもと
- ええ、実際、多いですね。
「旦那さまのお弁当はつくらないけど、
××くんのお弁当つくりました」って、
おたよりもいただいたことがあります(笑)。 - 岩田
- (笑)。
『牧場物語』はとくに
女性の方の支持率が高いんですよね。 - はしもと
- そうですね。対して『ルーンファクトリー』は、
中高生から20代前半くらいの男性の方を
中心に遊んでいただいています。 - 岩田
- なるほど。
きれいな補完関係にあるんですね。 - はしもと
- 最近は、小さい頃『牧場物語』を遊んでいた方が、
中高生になって『ルーンファクトリー』を遊んで、
大人になって『牧場物語』に帰ってきました、
みたいな流れもあります。 - 岩田
- いまのお話を訊いて思ったんですが、
普通つくり手の作風というのは、
複数のゲームをつくられた場合でも、
だいたい同じ支持層になることが多いんです。
はしもとさんの場合はけっこう
めずらしいパターンですよ。 - はしもと
- ああ、そうかもしれません。
『朧村正』(※15)もまたぜんぜんちがう層ですね。
『朧村正』=2009年4月にWii用ソフトとしてマーベラスエンターテイメントより発売されたアクションRPG。
- 岩田
- 普通はぜんぜん別のゲームをつくっても、
その方の得意な作風が商品ににじみ出るので、
それに反応する人の年齢や性別、好みは、
だいたい同じになる傾向があるんです。
でもこの2作については、
最初に『ルーンファクトリー』をつくるときの発想が、
『牧場物語』から離れるところからのスタートという、
いわゆるポジショニングがうまくいって
そのまま別々に住み分けされているんでしょうね。
- はしもと
- そうだと思います。
- 岩田
- 今回ニンテンドー3DSで
はじめて『ルーンファクトリー』をつくるにあたって、
テーマは何だったんですか? - はしもと
- 「新しいハードで、新しいファンタジー体験を」
ということを意識しています。
アニメーションをぜんぶ3D立体視にしたり、
ボイスのボリュームアップであったり。
お客さんがよりこの世界に入り込んで、
意中の相手に心ときめいてもらうための表現を
強化していった感じです。 - 岩田
- とくにあのアニメーションは今回、
世の中に3Dのノウハウがまだまだない中で、
試行錯誤があったんじゃないですか? - はしもと
- じつはアニメは
3Dの邦画をつくられている会社さんに
依頼してつくっていただいています。 - 岩田
- それはつまり、本当に
3D映画のノウハウがあるスタッフを
そのまま引っ張ってこられたわけですね。 - はしもと
- はい。DSで1作目をつくったとき、
3分以上のオープニングアニメをつくって、
「DSでどこまでアニメを魅力的に見せられるか?」
というのをやらせていただいたんですね。
だから今回の3DSでもやっぱり、
「3Dアニメの最先端に挑戦しよう」ということで、
力を入れてつくっています。 - 岩田
- アニメは総量でどのくらい入っているんですか?
- はしもと
- オープニングアニメのほか、
主要キャラクターとはじめて出会うところや、
イベントシーンを合わせて、
10数か所、すべて3Dで入っています。 - 岩田
- ニンテンドーダイレクト(※16)でも
アニメの映像はご紹介させていただきましたが
いろんな反響がありましたよね。
はしもとさんはどう感じられましたか?
ニンテンドーダイレクト=任天堂のゲームに関する新しい情報を、社長の岩田が直接お届けするインターネット中継。『ルーンファクトリー4』のアニメ映像は、2012年2月22日に放映されたニンテンドーダイレクトで紹介された。
- はしもと
- えーと、自分で言うのも何なんですが・・・。
『ルーンファクトリー』ってわりと
“濃いぃ部分”がありますよね。 - 岩田
- はい。
- はしもと
- そこにスポットが当てられたことに、
ご覧になっていたお客さんは
けっこうビックリされたんじゃないかなと。
わたし自身も正直なところ、
「この映像、本当に流してもらっていいのかなぁ?」って
直前まで思っていましたから・・・。 - 岩田
- ははは(笑)。
じつは、ニンテンドーダイレクトをやってみて
「お客さんとの距離を近づけることができた」
という手ごたえがあるんです。 - はしもと
- ああ、それはわたしも感じますね。
お客さんもつくり手も、
一緒になって楽しめていますよね。 - 岩田
- そうなんです。
同じ時刻にみんなが一緒に見ているわけで、
期待や共感といったいろんな生の反響がわかるんです。
さらに言えば、あのタイミングなら
じつは商品に反映できたりするんですよね。
そこがまた、キャッチボールしながら
つくっている感じがあって、おもしろいんです。 - はしもと
- 我々もやっぱり
あの場での反応はすごく気になっていて、
いくつかはそのときの声を参考にして、
つくり直した部分もあります。
個人的には、
「今度のダイレクトはどの場所からはじまるんだろう?」
なんてことも気になったりしています(笑)。 - 岩田
- はい。
ご期待に応えられるように
これからも工夫したいと思います(笑)。