『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第2回:『戦国無双 Chronicle』
3. 2画面を使った『無双』
- 岩田
- 『真・三國無双』があったから
『戦国無双』が生まれたという話ですけど、
ただ単にキャラクターを置き換えるだけではすみませんよね。 - 鯉沼
- はい。テーマだけを変えて、同じようにつくっても、
それほど面白いものにはなりませんので、
『戦国』では、ひとりひとりのキャラクターに焦点を当てて、
キャラクターを立たせようと考えました。
それに『真・三國無双』では、広い戦場で戦いますが、
「戦国時代の象徴といえば、やっぱりお城だよね」
ということになりまして、『戦国無双』では
城と、それを取り巻く人物をフィーチャーするようにして、
差別化をはかろうとしました。 - 岩田
- 登場人物のキャラを立たせるためには、
実際にどのようにしているんですか? - 鯉沼
- そもそも『戦国無双』のゲームのつくり方は、
どの時代のどの物語を描くかという、大きな流れを決めてから、
そこで「この武将には、こういう逸話があるよね」
ということを、まず調べるんです。 - 岩田
- 史実として伝わっていることを
徹底的に調べるんですね。 - 鯉沼
- そうです。
その後、どの武将にフィーチャーするかを決めまして
物語を組み上げてみると、
どうしてもストーリー的に薄いところが出てくるんです。
そこを、フィクションで補うことで、
人物が立つようにするのですが、
あくまで基本にあるのは史実なんです。 - 岩田
- 自分たちの都合に合わせて、
史実を変えるようなこともしないんですね。 - 鯉沼
- はい。根本のところは変えないように努めています。
ゲームとして面白くなるようなアレンジを加えてはいますが。 - 岩田
- なるほど。ところでスタッフの方たちは、
三国志や戦国時代の史実に詳しい人ばかりなんですか?
それとも、すごく詳しい人と、素人みたいな人が、
混ざったりしているんですか? - 鯉沼
- 混ざっています。
なかには、生き字引みたいな人もいまして、
趣味が城巡りですとか(笑)。 - 岩田
- やっぱり(笑)。
- 鯉沼
- あと、三国志最大の決戦(※17)の舞台である、
赤壁(せきへき)を実際に見てきた人もいたりします。 - 岩田
- へえ~、中国の長江まで本当に出かけちゃう人もいるんですか。
三国志最大の決戦=赤壁の戦い。中国後漢末期の208年、長江の赤壁で起こった曹操軍と孫権・劉備連合軍との戦い。
- 鯉沼
- そうですね。
でも、その一方で、歴史はちょっと好きという人もいれば、
まったく興味ないという人もいます。 - 岩田
- すごく詳しい人だけでつくっていると、
けっこう偏ったものになっていきますから、
いろんな人が混ざってるのは、
実は健全なのかもしれませんね。 - 鯉沼
- そうなんです。
なので、社内でテストプレイをかけたときは、
いろんな意見が出てきて、とても面白いんです。
ときには、真逆の意見が出てくることもあって、
「どっちを信じればいいの?」と(笑)。 - 岩田
- 「歴史は勝者がつくる」なんて、よく言いますけど、
史実として残っていることでも、
解釈だとか、出典によっては、
同じ人物でもすごく対照的に描かれたりしますよね。
- 鯉沼
- そうなんです。
わたしも歴史は勝者がつくると思っていまして、
たとえば本能寺の変を起こした明智光秀は、
すごくかっこわるくて、汚く描かれていることが多いんです。
でも、それは、勝者である豊臣秀吉に討たれたから
そのような評価になっているだけで、
実は光秀なりの考え方があるだろうと思っているんです。
なので、ゲームのなかでは、彼をかっこよく描いて、
彼から見た歴史像というのを
つくりあげていくようなこともしています。 - 岩田
- なるほど。そもそも鯉沼さんは、
戦国の歴史とかはお好きだったんですか? - 鯉沼
- そんなには詳しくはないですけど、
もともとゲームから入ったというのもありまして。 - 岩田
- 高校の部室で、『三國志』を学び、
駄菓子屋さんでは『信長』を学んだわけですしね(笑)。 - 鯉沼
- はい(笑)。
それに、司馬遼太郎先生(※18)の小説で、
戦国時代を題材とした本を読んだりとか、
横山光輝先生(※19)が描いた歴史マンガの『三国志』とかも。 - 岩田
- あれ、面白いですよね(笑)。
- 鯉沼
- ええ(笑)。その『三国志』の60巻とか
『水滸伝』は、いまは実家で眠っているんですけど、
もともと、そのような本を全部買いそろえて読んでいたので、
そういった意味では、歴史を勉強したというよりは、
物語として楽しんでいたところがありますね。
司馬遼太郎=『竜馬がゆく』『坂の上の雲』など、多数の歴史小説を生んだ国民的作家。1996年没。
横山光輝=『鉄人28号』や『魔法使いサリー』、そして『三国志』など、幅広いジャンルで作品をのこした漫画家。2004年没。
- 岩田
- さて、そんな鯉沼さんが
ニンテンドー3DSを初めて見たときの印象はどうでしたか? - 鯉沼
- 最初に見たときはすごい衝撃でした。
部屋には100人くらいいるなかで、
任天堂さんからお持ちいただいた3DSを、
社内ではわたしがいちばん最初に見たんですけど・・・
「おっ!」と声が出ちゃったくらい驚きまして。 - 岩田
- 思わず声が出ちゃったんですね(笑)。
- 鯉沼
- そうです。もともとわたしは
声を出して驚くようなタイプじゃないんです。 - 岩田
- これまで鯉沼さんは、いろんな新しいハードを見てこられて、
いろんなことに慣れているでしょうから、
たいていのものには驚かないでしょうしね。 - 鯉沼
- はい。そのとき見たのは『どうぶつの森(仮称)』(※20)だったんですけど、
「あれが・・・こうなるんだ・・・」と、とても衝撃でした。
- 岩田
- そのとき、任天堂のスタッフは
「メガネのいらない3D」だとは言わずに、
「とりあえず見てください」とだけ言って、
3DSをお見せしたんですか? - 鯉沼
- そうなんです。
そこに『どうぶつの森(仮称)』があるとかも、
事前に何の説明もありませんでした。 - 岩田
- なるほど、そういう演出をしたわけですね(笑)。
- 鯉沼
- ですから、本当にビックリしました(笑)。
『どうぶつの森(仮称)』=ニンテンドー3DS用に開発中のシリーズ最新作。
- 岩田
- そうやって、新しいハードを体験して、
どのように、『無双』シリーズを、ニンテンドー3DSで
発展させられると思いましたか? - 鯉沼
- 『無双』シリーズはすでに10年、
『戦国無双』だけとっても、もう7年になるんですけど、
ある程度シリーズを重ねてくるにあたって、
なかなか新しい部分が出しづらくなってきていまして・・・。 - 岩田
- 最初の商品が出てから10年も経つと、
どうしてもそのような傾向になりがちですよね、
シリーズものというのは。 - 鯉沼
- そうですね。
でも、ニンテンドー3DSであれば
ビジュアル面については、3Dになって奥行き感も出ますし、
当然そこはしっかりお見せしようと。 - 岩田
- きれいなグラフィックで、
しかも立体に見せるのは当然だということですね。 - 鯉沼
- はい。で、今回、これまでのシリーズとは明らかに違うのは、
「いまさら」と言われるのかもしれませんけど、
「2画面ある」ということなんです。 - 岩田
- 2画面で、タッチスクリーンを使った『無双』は
実は今回が初めてなんですよね。 - 鯉沼
- そうなんです。なので、それを軸に、
新しいゲームシステムを構築しようと思いました。
そこで今回、最大で4人まで同時に、戦場のなかの武将を
切り換えられるシステムを取り入れました。
上画面で実際に戦いながら、
下画面では指揮をしたり、全体の局面を見ながら
各地に展開する4人の武将を瞬時に切り換えることができます。 - 岩田
- もともと『無双』は忙しいゲームですけど、
ある意味、同時にすることが増えますよね。 - 鯉沼
- そうです。今回のゲームはとても忙しいです。
でもそれは「いい意味で忙しい」ということで、
もともと『無双』というゲームは、
戦場で戦っているときは楽しいんですけど、
次の場所に行くまでの移動時間が長くて、
その間の遊びがたりないと感じていたんですね。 - 岩田
- 移動して、暴れて、移動して、暴れて、の繰り返しで
移動の時間がちょっと間延びしてしまうということですか? - 鯉沼
- はい。そこで今回は、移動中でも
どこかで戦闘が発生していたりしますので、
そのときは、他の武将に切り換えてプレイすることもできるんです。
ですから、つねに“一騎当千”感を楽しめるものになりました。 - 岩田
- 常時“一騎当千”感が出せるようになって、
ゲームのプレイ密度が上がるということなんですね。 - 鯉沼
- そうです。
これまでの『無双』シリーズには、
移動での間延びの時間という課題があって、
どうしてもその壁を越えることができなかったんですけど、
今回は3DSで、そこを乗り越えることができたと思っています。