『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第2回:『戦国無双 Chronicle』
4. 「据置機並みのことができる」
- 岩田
- 今回、サブタイトルが『Chronicle(クロニクル)』で、
直訳すると「年代記」の意味になるんですが、
『Chronicle』と付けた、そのココロはどこにあったんですか? - 鯉沼
- 今回、まず最初に決めたことは
「戦国時代の歴史をひもといていこう」ということでした。
ですから、戦国時代の初期から江戸時代の初期までの、
密度が濃くて、とても長い歴史を追いかけることにしたんです。
ですから1回クリアしていただけると、
戦国時代のひととおりの歴史や、
どの戦場で、どんなことが起こったのかということが、
勉強できるようになっています。 - 岩田
- 戦国時代の初期というのは
実際はどのあたりからなんですか? - 鯉沼
- 冒頭は1546年の河越夜戦からはじまります。
当時は、北条と今川と武田が三国同盟を組んでいましたけど、
その時代から、豊臣家が滅亡する、
1615年の大坂夏の陣までが入ります。 - 岩田
- かなり盛りだくさんですね。
- 鯉沼
- そうです。かなりのボリュームです。
そのように長い歴史を追うことになりましたので、
今回はそれぞれの時代の戦場を体験する
主人公キャラを1人立てることにしました。 - 岩田
- 主人公キャラが登場するのは、
『無双』シリーズでは、今回が初めてなんですか? - 鯉沼
- はい。主人公キャラをメインにしたのは今回が初めてです。
- 岩田
- いままで、自分のお気に入りの武将を自由自在に操って、
爽快感を味わうのが、このシリーズの醍醐味だと思うんですけど、
自分の分身を出すことに関しては
議論になったりしませんでしたか? - 鯉沼
- あくまでも主役は無双武将なんです。
今作に登場する無双武将は総勢40人なんですけど、
その40人、みなさんが全員好きかというと、
たぶんそうじゃないと思うんですね。
そこで、主人公キャラは、
自分からは話しかけないで、無双武将から問いかけられたり、
話しかけられるような位置づけにしました。
- 岩田
- ああ、なるほど。
主人公キャラはあくまでも自分の分身なんですね。 - 鯉沼
- そうです。なので色を付けないようにして、
なるべく無機質な存在にしました。 - 岩田
- 自分の分身という位置づけなら、
個性の立つキャラクターにしないほうが、
感情移入しやすくなりますしね。 - 鯉沼
- はい。ただ、主人公キャラに
ある程度の目的を与えたり、途中で選択肢を選ぶと
ストーリーが分岐するようにはしています。
そういったところで、無双武将との駆け引きというか、
ふれあいを楽しんでいただけるといいなと思っています。 - 岩田
- あの無双武将が、自分の分身に
声をかけてくれるわけですからね。 - 鯉沼
- そうですね。
だから、自分が無双武将と対話しているような
そんな感覚になっていただければ、うれしいですね。
あと、今回は30以上のシナリオが入っているんですけど、
1人のキャラクターで遊ぶ『無双』のなかでは、
最大のボリュームを誇っています。
それに、いままでのやり方だと
他のキャラクターに替えたときに、
いちから育てないといけなかったんですが、
今回は主人公キャラがずっと成長していきますので、
シナリオをこれまでよりも長く
楽しんでいただけるんじゃないかと思っています。 - 岩田
- 長い時代の戦国を描くことで、
登場する武将の数が増え、イベントの量も増えて、
最大のボリュームになったということなんですね。 - 鯉沼
- はい。なので、ちょっとつくりすぎてしまって、
正直、「開発が終わるのかな、これ・・・」って
心配になりました(笑)。 - 岩田
- 半導体メモリーの携帯機のゲームというのは、
据置機と比べると、容量が入らないというのが
いままでの常識でしたよね。
- 鯉沼
- ところが今回は、任天堂さんから
2ギガバイトの容量のロムが使えるという提案をいただきまして、
「こんなに容量もあるし、据置機並みのこともできます」
と言われたものですから、思わずそのノリでつくっちゃったんです。 - 岩田
- 2ギガバイトのロムを思う存分、使ってしまったんですか(笑)。
- 鯉沼
- はい。なので、ちょっとやりすぎたかな、と(笑)。
- 岩田
- 2ギガバイトのロムという大きな容れ物があったから、
これほどのものができたとも言えますよね。 - 鯉沼
- その通りです。
- 岩田
- ただ、3DSの発売のタイミングで、
2ギガバイトのロムを用意するのは、けっこう大変だったんです。
でも、ソフトメーカーさんとやりとりしている業務部からは、
社外の方々のご要望を受けて、大変強いリクエストがあったんですね。
任天堂内部のソフト開発スタッフからは、
「こんな大きな容量は最初からは、いらないんじゃないか?」
「そもそも、この大容量をどうやって埋めるの?」
という声もあったくらいなんですが・・・。 - 鯉沼
- いや、余裕ですよ。
あ、余裕・・・って言っちゃったらアレですけど(笑)。
実はボイスやイベントがたくさん入っています。 - 岩田
- ああ、今回はフルボイスなんですね。
- 鯉沼
- はい。他の携帯機でも『無双』は出ていて、
容量の関係上、やむを得ず
ボイスを削ったりするものなんですけど、
今回はその必要がなくって。
ここまでほぼフルボイスで入っているのも初めてなんです。 - 岩田
- そこは半導体でつくられたソフトの有利な点で、
ディスクと違ってシークタイム(※21)を無視できますから、
ロムのどこに音声データがあっても
すぐに声を呼び出して、パッと出せるんですよね。 - 鯉沼
- そうですね。なので、戦闘中でも、
据置機のように、つねにいろんな人がしゃべっている状態も
今回、実現できています。
シークタイム=ディスクなどの記憶媒体で、読み書きをする装置がディスク上の目的の読み出し位置(または記録位置)に到達するまでの所要時間のこと。半導体メモリは、メモリ上のどの場所を読み出す時もほぼ同じ時間でデータを読み出し始めることができる。一方、ディスクの場合は、ディスク上の物理的な位置によって、データを読み出し始めるまでに待ち時間が発生することがある。
- 岩田
- やっぱりしゃべるとうれしいですか?
- 鯉沼
- はい(笑)。今回は全部の声を録り直ししているんです。
というのも、声優さんを好きな方がけっこういらっしゃるのですが、
前に録ったものを使い回すと、
そういった方にご満足いただけませんので。
- 岩田
- 声優さんの好きな方から、
「前作のあれと同じですね」とか指摘されるんですか。 - 鯉沼
- そうなんです。
やっぱりシリーズを重ねてくると、
単純にアクションゲームとして好きな方もいらっしゃれば、
歴史が好きな人もいて、このキャラクターが好きとか、
いろんな嗜好が増えてきているんです。 - 岩田
- ひとくちに『戦国無双』といっても、
人それぞれの好みに応じて
いろんな入り口が用意されているということなんですね。 - 鯉沼
- はい。で、声優さんが好きな方もいらっしゃいますので、
今回は大きな容量を使えることだし、
フルボイスにしたほうが喜んでいただけるだろうと
思いながらつくっていたんですけど、
開発途中で、「うーん、やりすぎてる、オレ」と(笑)。 - 岩田
- でも、鯉沼さんの他には
ブレーキを踏む人はいないですよね(笑)。 - 鯉沼
- そうなんです(笑)。
ただ、開発の終盤になっても、いろいろ入れようとしたら、
さすがにみんなから「もう限界です!」と・・・。 - 岩田
- あははは(笑)。
- 鯉沼
- さすがに容量が入らないものはみんなが止めてくれて、
最後は自分でブレーキを踏みました(笑)。