『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第20回:『BRAVELY DEFAULT -FLYING FAIRY-』
2. “理性”と“感性”
- 岩田
- 林さんと浅野さんのご縁は、今作がはじめてですか?
- 浅野
- はい、そうです。
- 岩田
- どうやっておふたりがいっしょに
仕事をすることになったんですか? - 浅野
- 僕の部下が、
『シュタインズ・ゲート』(※14)をすすめてくれて、
それが本当に面白かったんですね。
ちょうど『BRAVELY DEFAULT』の
シナリオ担当を探している時期でもあったので、
ダメもとでお願いしてみました。
『シュタインズ・ゲート』=『STEINS;GATE』。2009年10月に発売されたアドベンチャーゲーム。林直孝氏がシナリオを担当。
- 岩田
- 作品が取り持つ縁、ですね。
最初におふたりが出会って、
どういうお話をされたんですか? - 浅野
- 最初に林さんにお話ししたのは、
「愛されるキャラクターを生み出してほしい」ということです。
「そのためには、どういうお話や世界にしたらいいでしょう?」
という相談からさせてもらったと、記憶しています。 - 林
- そうですね。
最初は相談に近い感じではじまりました。 - 岩田
- いきなり「シナリオを書いてください」ではないんですね。
ゲームってシステムによって性格づけられる部分と、
世界観やシナリオによってできる部分と、
登場するキャラクターの表現によって織りなされる部分と、
いろんな要素がありますよね。
『BRAVELY DEFAULT』の場合、
どんなアプローチからスタートしたんですか? - 浅野
- そうですね・・・ベースの部分でいえば、
キャラクターが4人で、ジョブチェンジして、
というシナリオ側から見ると制約といえる基礎の部分はあったので、
システムがベースにあると思います。
でも、「次にはキャラクターを重視したいです」
って話をさせてもらいましたよね。 - 林
- そうですね。
RPGともなると、プレイヤーはキャラクターと
何十時間もつき合っていきますから。 - 岩田
- そのキャラクターが何をするか、
ずっと見ているわけですからね。 - 林
- はい。自分の分身となって動くので、
「いかにキャラクターに感情移入できるか?」
という部分をまず考えはじめました。
なおかつ、今回は敵もすごく多くて、
「悪役だけど魅力的なキャラクターにしたい」
という部分もあったので、相談しながら
キャラクターを詰めていきました。 - 岩田
- どんなキャラクターに感情移入できたり、
魅力を感じたりできるのかという話が、
ある意味、哲学的に、ふたりの間で話し合われたんですか? - 林
- 哲学的・・・かどうかはわからないですけど(笑)。
4人のプレイヤーキャラクターが固定されていたので、
「その4人のやりとりを、いかに面白くできるか」
を重視して、その4人の性格の組み合わせや、
敵キャラクターとの織りなすドラマを
どう深く見せるかを練っていきました。
- 浅野
- じつは4人のキャラクターのシナリオというのは、
それぞれシステム的な役割を分散させているんです。
まず主人公のキャラクターは、
「滅んだ故郷を復興させたい」
という気持ちがモチベーションになっています。
でも、たとえば復興に1000時間かかるとして、
とても1人じゃ無理なんですけど、
すれちがい通信(※15)によって
村人が増える仕組みになっていて、
2人だと500時間になり、
4人だと250時間になり・・・と、
村の復興スピードが加速度的に上がっていく企画にしています。
つまり主人公は、シナリオ的に
通信の機能を背負ったキャラクターなんです。 - 岩田
- はい。
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。
- 浅野
- もう1人は、最初の体験版(※16)にARで登場したヒロインです。
この子は、世界にある4つのクリスタルを解放することを
モチベーションとしています。
つまり王道RPGのメインストーリーを
背負わせたキャラクターなんです。
最初の体験版=『BRAVELY DEFAULT 体験版 Vol.1 -クリスタルの巫女篇-』。2012年に配信が開始された体験版の第1弾。現在は配信を終了している。ARムービーは、現在配信中の最新の体験版『BRAVELY DEFAULT 体験版』に再収録されている。
- 岩田
- それは王道RPGの設定として、
みんながすっと入りやすいということですね。 - 浅野
- はい。もう1人のヒロインは敵キャラの娘です。
各ジョブにひもづくボスが出てくるんですけど、
そのボスを倒すことでジョブをゲットできる仕組みです。
そのヒロインは、その敵の組織のリーダーの娘なので、
ジョブ集めというサブクエストの
ドラマを背負わせています。 - 岩田
- はい。
- 浅野
- 最後のキャラクターは、記憶喪失の青年です。
彼が持っている手帳には未来のことが書かれていて、
プレイヤーはその手帳を
ゲーム中にいつでも読むことができます。
その手帳の謎や、自分の出自を探すといった
ドラマを背負わせているキャラクターです。
こんなふうに、それぞれ4人のキャラクターに
ゲームの大事な要素を落とし込んでいるんです。 - 岩田
- いまのお話を訊いて意外に感じたんですけど、
役割や機能、それをどうすれば活きるかという設定が
こんなにも理詰めで考えられているんですね。
一般的に、スクウェア・エニックスさんといえば
美麗なグラフィックスを思い浮かべる方が多いので、
キャラクターのビジュアルイメージが先行している
つくりかたを想像する方が多いと思うんです。
でも「RPGはなぜ面白いのか?」という問いに対して、
「仕組みやシナリオの構造の妙があるから面白いんだ」
という論理的な分析が根底にあって、
そこをおふたりがすごく練ってから開発をはじめたところに、
今作の個性があるのかもしれませんね。 - 浅野
- あ・・・そうかもしれませんね!
しゃべっていて、いま気づきました(笑)。 - 林
- うん、そのとおりだと思います(笑)。
でも、あんまり意識して理詰めでやっていなくて、
けっこう本能的に、直感的にやっていましたけど。 - 岩田
- 多分、理詰め一辺倒のモノには色気がないので、
人間ってそういうモノには惹かれないですよね。
一方、ロジックが全部抜け落ちていると、
行き当たりばったりで収拾がつかなくなります。
そのあたりの浅野さんの“理性”と、
林さんの“感性”の塩梅がよかったのかもしれませんね。
違う道を歩いてきた持ち味の違うおふたりが出会ったことで、
「答えを探す、新しい方法を模索していた浅野さんが
答えを見つけることができた」ということかな、と
わたしは感じました。
- 林
- ああ、なるほど・・・。
- 浅野
- すごい・・・占いみたい(笑)。
- 一同
- (笑)