『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第20回:『BRAVELY DEFAULT -FLYING FAIRY-』
4. 体験版でキャッチボール
- 岩田
- ところで『BRAVELY DEFAULT』は、
現状の任天堂プラットフォームで、
一番多く体験版を出したソフトですよね。 - 浅野
- はい。5作目の体験版(※17)を
いま、鋭意制作中です(笑)。
これまでの体験版もですが、
今回の体験版も製品版とは異なった仕様になっています。
体験版はモンスター討伐クエストや
アイテム収集クエストで構成されますが、
製品版ではこのようなクエストを中心に
物語が進むわけではありません。
あとはジョブアビリティを習得する順番なども
製品版とは異なっています。
5作目の体験版=本インタビューは、5作目の体験版の制作中に実施されました。現在、最新の体験版をニンテンドーeショップで配信中です。くわしくはこちら。なお、体験版は予告なく終了になる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
- 岩田
- 一般的な感覚からすると、
「体験版では製品版の序盤が楽しめる」
というものが多いように思うのですが、
そうではないということなんですね? - 浅野
- はい。体験版は製品版の一部を切り出すのではなく、
あえてストーリーを持たせず、遊びに特化した形にしています。
仮にレベルやお金を引き継いでも、
また同じ場所をプレイするのではあまり面白くないですし、
ストーリーに関しては製品版で、
まっさらな状態で楽しんでもらいたかったんです。 - 岩田
- その一方で、
製品版へのデータ引き継ぎも検討されていると
お聞きしていますが、
序盤を楽しむ体験版でないということなら、
何を引き継ぐんですか? - 浅野
- そうですね。すでに一部のデータを
製品版に引き継げることは発表していましたが、
最終的に「すれちがいのデータ」「フレンド登録のデータ」を
引き継げる形にしました。
これは体験版をプレイしていただければ、
その意味がわかっていただけると思います。
製品版ではかなり大きなメリットになるはずです(笑)。 - 岩田
- なるほど、わかりました。
今回は、体験版を通して、
お客さんとキャッチボール(※18)をされてきましたよね。
お客さんから返ってきたことに対して、
「こういうことは、今後やっていきます」と、
一つひとつコミュニケーションされていて、
「いまの時代だからできる方法だなぁ」と思っていたんですけど、
あのつくりかたは浅野さんの発案ですか?
お客さんとキャッチボール=本作では、配信された体験版を通して、実際に体験されたお客さんからの意見や要望を募集し、製品版に反映させるといった手法が採用されている。
- 浅野
- はい、そうです。
- 岩田
- 浅野さんがそうしようと思った背景は何ですか?
- 浅野
- じつは、近くの席に座っている人の
ソーシャルゲームの仕事を見ていたのがキッカケです。
ソーシャルゲームは、出したあとにお客さんの反応を見ながら、
ずっとクオリティーアップをしつづけられるんですね。
だから「ちょっとでもそのつくりかたのいいところを
取り入れられないか」という思いがベースにはありました。
- 岩田
- じゃあ、いままでマスターアップをして、
その後、何もさわれないことから感じていた限界や問題点を、
横でまったく別のアプローチで解いている人たちがいたので、
その刺激が「新しいやりかたをやってみよう」という
ひとつの原動力だったんですね。 - 浅野
- はい。ただ、正直難しいところも感じています。
多数決では作品はつくれないし、
独りよがりでも商品にはならないので、
バランスが肝心なところです。
時期が迫ってくれば、
採用したいアイデアを拾えないこともありますし。 - 岩田
- 当然、何かをひとつ入れると、
全体に変更が及ぶこともたくさんありますから、
いい意見が全部、取り入れられるわけではないですしね。
でもお客さんとキャッチボールをすると、
たくさん新たな発見があったのではないですか? - 浅野
- はい。印象的な発見でいうと、
ギリギリで調整したバトルのスピードアップです。
あと、「街を歩く速度が遅い」という指摘もありました。
毎日さわりつづけていると、慣れてしまって・・・。 - 岩田
- はい。ずっとさわりつづけている開発の当事者は、
第一印象のことがどんどんわからなくなるんですよね。
だから昔は、社内でさわったことのない人を連れてきて、
やってもらって「どう思う?」と聞いていましたけど、
いまは違うやりかたができるってことですね。 - 浅野
- はい。とくにバトルのスピードアップは、
時期も時期で、本当にやるのか否かってところでしたが、
お客さんからのご指摘が多く、
少しでもテンポアップできる術はないか、と
開発チームと一緒に相当悩みましたね。
すでにシステムは決まっている中でのトライでしたが、
自分の要求以上に開発チームが頑張ってくれた結果、
早送り機能を追加したり、カメラの切り替えをできる限り減らしたり、
かなりのテンポアップに繋がりました。
もちろん、すべての方に納得していただけるとは思いませんが、
我々なりにやれることはやれたと思っています。 - 岩田
- お客さんのご意見を浅野さんが取捨選択するだけじゃなくて、
開発の方たちにもお客さんのご意見を見てもらって、
みんなで考えるんですね。 - 浅野
- はい。開発チームにもいい刺激になりました。
- 岩田
- わたしがゲームづくりをはじめたころは、
3か月で1本できていた時代でした。
だからものをつくってから、
お客さんの感想を聞くまでのサイクルが短かったんですけど、
最近では、1年未満では大規模な商品は
なかなかつくれなくなってしまいました。
そうなると、自分がやっていることがどう見えるのか、
わからなくなったり、不安になったりするんですよね。
そのことに対する、ひとつのアプローチでもありますね。 - 浅野
- はい、そう思います。
- 岩田
- 実際、「王道RPGを新しくつくる」といって、
お客さんにああいう形でキャッチボールをすると、
期待値がぐぐっと上がっていくのを、
つくりながら感じませんでしたか? - 浅野
- すごく感じます。
お客さんの信頼度も上がってきていると思います。
ただ・・・期待値が上がりすぎちゃっているので、
正直、商品を出すのがおそろしいというか、
怖いところもあります。 - 岩田
- “怖い”というのはどういうことですか?
「お客さんの期待にいつも応えられているだろうか?」
という意味ですか? - 浅野
- そうです。
- 岩田
- わたしは、ものを出すときは、
どんなに手応えがあるときでも、
どう受け止めるかは全部お客さんが決めることなので、
いつも、「わかってもらえるといいなあ」と、
期待と不安が入り交じった気持ちで
お客さんに差し出しているのですが、
今回のようにお客さんが期待をしてくれていると、
「期待のハードルが上がりすぎていないだろうか・・・」って、
別の不安が生まれるんでしょうね。 - 浅野
- はい(笑)。
- 岩田
- 林さんにはどう見えていましたか?
というのは、こんなつくりかたははじめて見ていますよね? - 林
- やっぱりスクエニさんのRPGですので、
注目度がすごく高いのを感じます。
発売前にも関わらず、少ない情報をもとに
お客さんがいろいろと想像しあっているんですけど、
みなさん想像力が豊かなので、
けっこうドキドキしています(笑)。
- 岩田
- 当然、大事なところにかすっていることも
起こるでしょうから、ドキドキされますよね。 - 林
- そうですね。
RPGって長い歴史があるので、
ファンの方も目が肥えているんです。
逆に「あ、こんな方法もあるんだ」って
感心しちゃうぐらいです(笑)。 - 岩田
- そういう意味でいうと、
たくさんの人の知恵の集合や、
大勢と意見交換することで生まれるものって、すごいです。
ひとりで単純に競争するのはきびしいぐらいに。 - 林
- はい。僕も昔は、小説を書きたかったんですけど、
最近はゲームのシナリオのほうが楽しいなと思うんです。
やっぱりひとりでつくるのではなくて、
いろんな人とつくっていく過程が楽しいですから。 - 岩田
- ひとりでは絶対につくれないところに
行ける気がするってことですかね。 - 林
- はい。結果的に、
自分ひとりでは絶対にできないものが生まれるので、
それはすごく楽しい部分ではあります。