『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第21回:『PROJECT X ZONE』
1. 「ダメでもいいからチャレンジしよう」
- 岩田
- 今日は、ニンテンドー3DSソフト
『PROJECT X ZONE』について
お話をお訊きしたいと思います。
今作は、全29作品(※1)の古今東西のゲームが集まった
エネルギーのこもった作品ですので、
その魅力を伝えるきっかけになればということで、
みなさんに集まっていただきました。
最初に、自己紹介からお願いできますか。
全29作品=本作は、カプコン、セガ、バンダイナムコゲームスの3社によるクロスオーバープロジェクトとして、以下29作品に登場するキャラクターたちが収録されている。『デビル メイ クライ』シリーズ、『ヴァンパイア』シリーズ、『ストリートファイター』シリーズ、『ロックマンX』シリーズ、『ロックマンDASH』シリーズ、『デッドライジング』シリーズ、『魔界村』シリーズ、『サイバーボッツ』、『バイオハザード リベレーションズ』、『ジャスティス学園』シリーズ(以上カプコン作品)。『戦場のヴァルキュリア3』、『サクラ大戦』シリーズ、『バーチャファイター』シリーズ、『シャイニング・フォース イクサ』、『スペースチャンネル5』シリーズ、『エンド オブ エタニティ』、『ダイナマイト刑事』シリーズ、『ゾンビリベンジ』、『ファイティングバイパーズ』シリーズ(以上セガ作品)。『テイルズ オブ ヴェスペリア』、『鉄拳』シリーズ、『 .hack』シリーズ、『ゼノサーガ』シリーズ、『スーパーロボット大戦OG』シリーズ、『ゴッドイーター』シリーズ、『ワルキューレの冒険』シリーズ、『無限のフロンティア』シリーズ、『ナムコ クロス カプコン』、『ゆめりあ』(以上バンダイナムコゲームス作品)。
- 塚中
- バンダイナムコゲームスの塚中と申します。
今回はプロデューサーとして、
プロジェクト全体の管理統括、
他社様との渉外などを担当させていただきました。
- 岩田
- プロジェクトのリーダーを務められたんですね。
- 塚中
- はい、よろしくお願いします。
- 森住
- モノリスソフトのディレクターの森住と申します。
わたしは開発現場の責任者として、
ゲームの中身に関しての
統括、監督的な立場でかかわらせていただきました。
- 岩田
- 現場監督のような役割ですか?
- 森住
- そうですね。
それに加えて、脚本などもわたしがライター兼任でやっております。
チームの中には原作を知らない若いスタッフもいるので、
そのための資料などをつくったりもしました。 - 岩田
- 若い世代のみなさんに向けた「ゲームの歴史の先生」も
担当されていたということですか? - 森住
- 先生というほどではありませんが(笑)。
- 岩田
- では、土屋さん。
- 土屋
- カプコンのプロデューサーを務めています、土屋です。
わたしはカプコン側の開発の窓口として、
各タイトルのデザインや脚本・設定などの
チェックの社内調整を担当させていただきました。
- 岩田
- よろしくお願いします。
- 寺田
- セガの寺田です。
わたしは『サクラ大戦』シリーズ(※2)で
ディレクターをしておりまして、
『クロスゾーン』に『サクラ大戦』が出るにあたり
その監修を担当させていただきました。
『サクラ大戦』シリーズ=セガより発売されたドラマチックアドベンチャー。第1作は1996年9月に発売。ナンバリング作品は『V』まで発売されている。
- 岩田
- みなさん、よろしくお願いします。
- 一同
- よろしくお願いします。
- 岩田
- しかし、あらためて考えると、
みなさんがこうして横に並ばれている画自体が、
とてもすごいことですよね。 - 寺田
- はい、いつもはライバル同士ですから・・・(笑)。
- 土屋
- ふだんはそうですね。
- 岩田
- 今日は、そんなふだん一緒に仕事しないはずの人たちが、
ひとつのモノづくりにかかわり、起きたことや、
それぞれの個性がどんなふうに
活かされたのかをお訊きしていきます。
塚中さん、あらためてになりますが、
今回このゲームにはどのくらいの数の
キャラクターが登場しているんですか? - 塚中
- 全29作品で、キャラクター数は
プレイアブルの味方キャラクターだけで60人以上です。 - 岩田
- 60キャラクター以上というのはおそらく、
みなさんにとって、いまだかつてない大規模な
コラボレーションになりますよね。
この“大それた”プロジェクトは
いったいどんなふうに始まったんですか? - 塚中
- やっぱり、“大それて”いますよね(笑)。
- 岩田
- あの、わたしはその昔
『スマブラ』(※3)というタイトルにかかわっていたので、
こういうお話があったときに起こりうるドラマが、
当事者としてよくわかるんです(笑)。
『スマブラ』=『大乱闘スマッシュブラザーズ』。1999年1月にシリーズ1作目が発売された対戦型アクションゲーム。開発はハル研究所で、当時岩田も開発に携わっている。
- 塚中・森住
- ああ! そうでした。
- 岩田
- わたしも当時、それぞれのキャラクターの原作者のところに
お願いに行ったりしていましたから。 - 塚中
- そういう意味では同じですね。
わたしが所属するバンプレストレーベルでは、
多数のキャラクターが共演する作品を
プロデュースさせていただくことが多く、
今回もその流れをくんで実施させていただきました。 - 森住
- わたしも、もともとバンプレストに10年近く所属して、
『スーパーロボット大戦』(※4)などを担当していました。
『スーパーロボット大戦』シリーズ=バンダイナムコゲームスより発売されている、数々のロボット作品を主人公に迎えたシミュレーションRPGシリーズ。2007年まではバンプレストから発売されていた。
- 岩田
- ああ、そこでおふたりはつながっていたわけですね。
- 森住
- そうです。その後、わたしがモノリスソフトに入社して、
『ナムコ クロス カプコン』(※5)という、
当時のナムコさんとカプコンさんのキャラクターを
お借りしたプロジェクトで、
他社の原作ゲーム版権を扱うゲームも担当しました。
『ナムコ クロス カプコン』=2005年5月にナムコ(現 バンダイナムコゲームス)より発売されたシミュレーションRPG。開発はモノリスソフト。
- 岩田
- 本来まざり合わないはずのものをまぜる、
ある意味カオスな世界を
ずっと担当されてきたといえるんですね。 - 森住
- はい、そうともいえます(笑)。
- 塚中
- ですので、異なる版権作品を集めて
ひとつの商品にまとめさせていただく経験が多かった、
というのもあります。 - 岩田
- いや、でも、ちがうにもホドがあるじゃないですか(笑)。
今回登場キャラのリストを一部拝見したんですけど、
やはり普通にはありえない組み合わせだと思うんですよ。 - 塚中
- そうですよね。
わたしも最初、森住さんから
こういうことをやりたいって聞かされたとき、
「それは無理だよ」って言ったんです。
- 岩田
- 普通はそこで終わりますよね。
- 塚中
- はい。でもそうならずに
そこから進めることができたのは、
ユーザーのみなさんからの声の後押しがあったからなんです。 - 岩田
- どういうことですか?
- 塚中
- このゲームの前に、ニンテンドーDSで
『無限のフロンティア』(※6)というゲームを
つくっていたんですけど、その中で、
ほかのゲームからのゲストキャラクターを
登場させていたんですね。
それが、発売後のアンケートなどで
「すごくよかった」という
たくさんの反響をいただきまして。
『無限のフロンティア』=『無限のフロンティアEXCEED』。2010年2月にバンダイナムコゲームスより発売されたRPGシリーズ第2弾。開発はモノリスソフト。
- 岩田
- 「お客さんからの、目に見える反響をいただいた」
ということですね。 - 塚中
- はい。それが本当に、我々の想像以上の反応で。
それがきっかけとなって、
「ダメでもいいからチャレンジしよう」
という話になったんです。 - 岩田
- そこで企画が動いたわけですか。
- 塚中
- そうです。
何はともあれ、まずは相談ということで、
以前から懇意にさせていただいていた
カプコンの土屋さんに、
企画書を持ってお願いしに行きました。 - 岩田
- 塚中さんと土屋さんは、
もともとお知り合いだったんですか? - 土屋
- そうですね。
バンダイナムコゲームスさんとは
以前『ガンダム』のアーケードゲーム(※7)で
ご一緒させていただいてから、
お付き合いさせていただいています。
『ガンダム』のアーケードゲーム=『機動戦士ガンダムSEED DESTINY 連合vs.Z.A.F.TII』。2006年カプコンよりリリースされたアクションゲーム。
- 塚中
- そのときの開発のプロデューサーが
土屋さんだったんです。 - 土屋
- 塚中さんとはふだんから連絡は取り合っていたんですが、
あるとき「相談があります」って、
いつもよりかたい感じのメールをいただきまして。
その段階では内容は書いていなかったので、
「あ、これはなんかあるぞ」と思ったんです。 - 森住
- そこは、企画書を添付してすむレベルの
話じゃなかったんで・・・(笑)。 - 土屋
- 企画書をぱっと見せていただいたら、
バンダイナムコゲームス、セガ、カプコンって書いてあって
「これは・・・!?」と。 - 岩田
- はい(笑)。
それを見て、土屋さんはどう思いましたか? - 土屋
- 「実現したらすごいし、遊んでみたい」
と思いましたね。
でもかなりキツそうなので、
「自分が開発の担当はしたくないなあ」とも思いました(笑)。 - 塚中・森住
- (笑)
- 土屋
- ただ、企画書を見せていただいた時点で、
「基本的にはやる前提で、進めます」って、
その場でご返事したんです。
- 岩田
- もうその場で、すぐにですか?
- 土屋
- そうですね。
わたしは社内でも社歴が長いのもあり、
古いタイトルにもくわしいといいますか、
「このキャラクターは誰に交渉すればいい」
みたいなのが、だいたい想像できたんです。
もちろん調整は必要になりますけど、
実現すること自体は、可能だろうと。 - 塚中
- そこでカプコンさんに快諾していただいたことが、
その後の開発のモチベーションに
つながったというのはすごくあります。
もしそのとき「難しいですね」だったら、
形にならず、そこで消えていたと思うんです。 - 土屋
- まあ、そのときわたしがそこまで深く
考えていなかったのかもしれませんけど(笑)。 - 森住
- 開発のプロデューサーに
直接話ができたのもよかったんでしょうね。 - 岩田
- ものをつくる人のところに相談に行ったから、
「どうすればできるのか?」っていうふうに、
考えてもらうことができた、ということですよね。
そういう意味では、
よい巡り合わせに恵まれていましたね。