『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第21回:『PROJECT X ZONE』
2. 門外不出『サクラ大戦』
- 岩田
- カプコンさんはなんとか進めそう、
となったところで、次はセガさんですか? - 塚中
- はい。セガさんには最初、
杉野(行雄)さん(※8)に作品のプレゼンをさせていただきました。
その場では「持ち帰って検討してみる」
とのことだったんですが・・・。
杉野行雄さん=セガ常務取締役 コンシューマ・オンライン事業統括本部長。
- 寺田
- それが僕のところに
話が下りてきたときはもう
「やるから!」ってなっていたんですよ。 - 森住
- あ、そうなんですか!(笑)
- 岩田
- “やる前提で”検討する、
という意味だったんですね。 - 寺田
- 杉野から「手伝ってね」って連絡があって、
見てみたら、ものすごい手伝いじゃないですか(笑)。
それで「おお、これはしっかりやらなきゃ」って
気圧されました。
- 塚中
- 本当にありがたかったです。
じつは『サクラ大戦』シリーズは、本当にダメもとで
ご提案させていただいたところがありまして・・・。 - 森住
- わたしからすると、セガさんといえば
真っ先に『サクラ大戦』シリーズだったんです。
もちろん『バーチャファイター』シリーズ(※9)は、
誰が見ても必要なんですが、
それと同じか、それ以上に
「『サクラ大戦』シリーズが今回のプロジェクトのカギを握る
作品になるだろう」と、強く感じていたんです。
じつはこれまでこういった
いわゆるお祭りもの、クロスオーバーものに、
ほとんど出てきてないんですね。
『バーチャファイター』シリーズ=セガの3D対戦型格闘アクションシリーズ。
- 寺田
- そうですね。いろいろと理由もあって。
- 岩田
- それが突然、こんなにたくさんのキャラクターが出演する
プロジェクトに参加することになったわけですね(笑)。 - 森住
- 最初はいわゆる初期の「帝都シリーズ」(※10)で、
という提案をさせていただいたんですけど、
結果的には、すべてのメインヒロインを
出させていただくことになりました。
「帝都シリーズ」=帝都・東京を舞台とした『サクラ大戦』の第1作と『2』を指す。
- 寺田
- そこは我々から「各作品から平等に登場させたい」って
逆提案させていただいたところなんです。
『サクラ大戦』シリーズは歴史の長いシリーズなので、
各作品ごとにメインヒロインがちがいますし、
お客さんの層もかなり幅広くいらっしゃるので。 - 岩田
- それぞれに「これがいちばん!」っていう
熱いファンがいるから、
ヒロインが一人だけじゃダメなんですね。 - 寺田
- そうですね。とはいえ、
こういうゲームでキャラを増やすのは
かなり難しいこともわかっていたんですが・・・、
結果、みごとに全部入れていただいて。 - 塚中・森住
- はい!
- 岩田
- 「これだけでいいですから貸してください」だったのが
「これとこれも全部入れてください」って
話が大きくなって返ってきたということですね(笑)。 - 塚中
- 本当に、ありがたいお申し出だったなと思います。
そうすることで、よりファンの方のご期待に
応えられるものになりました。 - 森住
- 『Ⅴ』までのメインヒロインが全員登場というのは、
それもまた夢の共演なんですよ。
帝都、巴里(パリ)、紐育(ニューヨーク)という、
それぞれ舞台を異にしていたヒロインたちが、
ここに集うわけで・・・! - 寺田
- 舞台や外伝的作品以外で、
リアル頭身キャラクターでここまでそろうのは
今回がはじめてですね。
みんながいちばん見たかった
夢の形を実現できたんじゃないかと思います。 - 土屋
- そういった意味では、カプコンからも
当時未発表だった
『バイオハザード リベレーションズ』(※11)を
入れてもらったんですよね。
『バイオハザード リベレーションズ』=『BIOHAZARD REVELATIONS』。2012年1月にニンテンドー3DS用ソフトとしてカプコンより発売されたサバイバルホラー。派生作品をのぞいたシリーズの第8作目。
- 森住
- そうですね。
発売前の開発資料をそのままいただくわけにも
いかなかったので、PVを何度も見て研究して。
発売されたゲームをやってみたら
「武器が変わってる!?」とかありました(笑)。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- お話を訊きながら思ったんですが、
こういうことって、できるときは本当にスーッと、
進んでいくんですね。 - 塚中
- そのとおりですね。
できないときはもう延々とはまりますけれど、
一瞬でできることがたしかにあります。 - 岩田
- 「さぞ紆余曲折があったんだろう」って
思っていたんですけど、
拍子抜けするほどスムーズじゃないですか。 - 塚中
- 振り返ってみれば、
ハードルはすごく高かったはずなんです。
でも、奇跡的にいろいろうまく進んでいるんですよね。
もちろん、どう進めるべきか悩みましたし、
準備は用意周到に行いましたけど、
それが全部、実を結んでいる気がします。 - 森住
- 説得するための材料づくりを必死にやったんです。
原作のつくり手のみなさんが大事に育てた
キャラクターをお預かりする立場として、
それに応える熱意と責任を
持たないといけないですから。 - 岩田
- そうですね。
- 森住
- そのためには、文章だけじゃダメなんです。
ですから今回は、企画が通るか
まだわからない段階から現場を動かして、
キャラクターの原画を描き起こし、
ゲームのバトル画面のイメージをつくりました。
それを見せながら、
「これだけのキャラクターが、
こういう画面で活躍する企画なので、
ぜひお貸しいただけないでしょうか?」
という具体的な提案をさせていただきました。 - 岩田
- たぶん、ポイントがふたつあるんじゃないですかね。
「やる気を見せる」ということと、
「元のつくり手が共感できる表現かどうか」という点です。
そこで「この人たち、わかっているな」って、
一発で見せなければいけないわけですよね。
それができるかできないかの差って、
とてつもなく大きいと思います。 - 森住
- そのとおりです。
最初にそれを全部クリアする
必要がありました。 - 岩田
- そこはある意味、大きな賭けですよね。
なんの許諾も得ず、
いきなり原画を描くという・・・(笑)。
- 森住
- はい(笑)。
- 寺田
- まあ、その時点では非許諾ですからね。
わたしが最初見たとき、もう絵があったので、
「あれ、もうできているんだ・・・?」って、
普通に思ってしまいました(笑)。 - 森住
- 『サクラ大戦』シリーズは最初、
さくら(※12)の原画を描き起こしたんですけど、
シリーズによって絵柄が微妙に変化しているので、
最初のセガサターン版の絵柄で描き起こして・・・。
さくら=真宮寺さくら。『サクラ大戦』第1作および『2』のメインヒロイン。
- 寺田
- ああ、そういうこだわりが、
いいところを突いてくるんですよねぇ(笑)。 - 森住
- 目つきが、ちょっとちがうんです。
後期だとちょっとタレ目になるんですけど、
「ここはやっぱり初期のネコ目だろう」
と考えたんです。 - 寺田
- はい(笑)。
- 森住
- 長いシリーズはどうしても途中で
絵柄が変わっていくものなので、
どこを元にするかは作品によってちがいますね。
たとえば『ストリートファイター』シリーズなら、
リュウ(※13)はシリーズ最新の『IV』(※14)合わせで、
描き起こしています。
リュウ=『ストリートファイター』シリーズの主人公キャラクターの一人。
『IV』=『ストリートファイターIV』2008年にカプコンよりアーケードにリリースされた対戦型格闘ゲーム。2009年2月に家庭用ゲーム機に移植された。
- 岩田
- あの、『サクラ大戦』シリーズは初期の絵で、
『ストリートファイター』シリーズは『IV』合わせというのは、
どういう基準で決めるんですか? - 森住
- 基本的には、そのシリーズのファンが、
いちばん印象に残っているであろうものです。
『ストリートファイター』シリーズに関しては、
現在も展開中ですので、
いまのユーザーのみなさんになじみのある『IV』のリュウで、
という考え方をしました。 - 岩田
- はい。
- 森住
- 各版権ともにいろんな状況があるんですが、
基本はお客さんの視点に立ちつつ、
わたしの感覚も含めて選んだところはあります。 - 岩田
- 29作品全部に対して、
判断と提案をしていったわけですね。 - 森住
- そうですね。
ファンの目線を知るために、
一からゲームをやり直すんです。
半年ほど、延々と・・・。
- 塚中
- もちろん、それが我々だけの
思い込みかどうかっていうのは、
都度確認させていただきながら、ですが。 - 岩田
- ファンの視点とつくり手の視点は、
必ずしも一致しない場合もありますよね? - 土屋
- それでいうと、じつは僕はもともと、
『無限のフロンティア』など
森住さんのディレクションされたゲームを
一ファンとして遊んでいたんですね。
それで最初に企画書を拝見したとき、
「これ、ディレクターは森住さんですか?」って
塚中さんにその場で聞いたんです。 - 岩田
- 先に、言い当てたんですか?
- 土屋
- そうです。
- 岩田
- それはすごいですね(笑)。
- 土屋
- 自分が一ファンとして見ていて、
異世界やちがう世界のキャラクターを
同じ地平に立たせるということを
「きっちりやられているなあ」と感じていたので、
「森住さんならまかせられる」と思ったんです。 - 森住
- ありがとうございます。
ちょっと恥ずかしいですね(笑)。 - 一同
- (笑)
- 土屋
- その後、顔合わせさせていただいたときにも
いまおっしゃったような、
すべてのゲームをご自身でプレイし直しながら、
お客さん目線で「なぜこの作品なのか」という
明快な答えをすべて持っておられたんです。 - 岩田
- たしかに、森住さんはなぜこれを選んだのかを聞くと、
その理由を全部、とてもくわしく説明してくれそうですね(笑)。 - 土屋
- 本当にそうでしたね。
『プロジェクト クロスゾーン』の顔合わせのはずが、
結局ふたりで1時間以上話し込んでしまって(笑)。
それですごく安心できたというのもありましたね。