『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第21回:『PROJECT X ZONE』
3. 「手を組むからには」
- 岩田
- 塚中さん、今回は他社のキャラクターを
お借りしてという文脈なので、
ついつい「その調整が・・・」という話になるんですが、
バンダイナムコゲームスさん自身も、もともと
バンダイさん、ナムコさん、バンプレストさんと
長い歴史を持った3つの会社からできていますから、
同じような調整は社内でもあったんですよね? - 塚中
- はい。よくぞ聞いていただきました(笑)。
- 一同
- (笑)
- 森住
- 話す機会がなかなかないんですが、
同じようにたいへんですよね。 - 塚中
- もちろん我々の社内も、
各ブランドごとに文化もちがいますから、
その調整は時間をかけてやらせていただいています。 - 岩田
- クロスオーバーのトーン&マナーも、
『スーパーロボット大戦』のときとはまた
ちがうことがまざっているじゃないですか。 - 塚中
- そうですね。
- 岩田
- ロボット同士ならまだ、
並んだときにある種、兄弟や親戚のような
共通点はありますけれど、
今回はちょっとその次元を超えてるわけで。 - 塚中
- そうですね、でも意外と、
“ゲームキャラクター”という記号でならば、
しっくりくるところがあるんです。 - 岩田
- あー、そこはわかります。
わたし、『スマブラ』開発の当事者でもありましたから。 - 一同
- (笑)
- 塚中
- じつは開発のうえではジャンルのちがいによる難しさ、
みたいなものはなかったんです。
むしろ「カプコンさんやセガさんのキャラクターを
本当にお借りできるの?」っていう
声のほうが強かったです。 - 岩田
- 社内の人から、「まさか、ダマしてないでしょうね」って
たしかめられるということですか? - 塚中
- ええ、まさにそんな感じで(笑)。
でも逆に、カプコンさんやセガさんのおかげで、
社内を説得できた部分もあると思います。 - 岩田
- たしかに
「セガさんから『サクラ大戦』シリーズの
全メインヒロインが出てくるのに、
バンダイナムコゲームスの登場作品が
本気じゃなくていいのか?」
みたいな空気になりますよね(笑)。 - 塚中
- はい(笑)。
- 土屋
- それでいうと、打ち合わせでわたしが
バンダイナムコゲームスさんに行ったことがあったんですが、
その場に『鉄拳』シリーズの原田プロデューサー(※15)が現れて、
「本当にあなたがやるんだね? ちゃんと見る人が見るんだね?」
「そうなら僕も『鉄拳』シリーズをきっちり見ます」
って言われたんですよ。
『鉄拳』シリーズの原田プロデューサー=原田勝弘さん。バンダイナムコゲームスの対戦格闘アクション『鉄拳』シリーズを手がける。過去、社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター篇 第12回:『鉄拳3D プライムエディション』に登場。
- 森住
- へえ・・・知らなかった!
そんなエピソードがあったんですね。 - 土屋
- はい、じつは(笑)。
- 岩田
- 「協力しつつ、同時にライバル関係でもある」
「相手が本気を出しているのを見ると、
こっちも本気を出さざるをえない」っていうことですね。 - 土屋
- そこは少年漫画的なノリなんでしょうね(笑)。
「手を組むからには全力以上の力を出す」というのを
みなさんからすごく感じました。
- 岩田
- 盛り上がりますね、そういう展開は。
- 塚中
- ただのキャラクターの貸し借りではない、
見えないエネルギーが動いてる気がします。 - 岩田
- でも、そんなキャラクターが60体以上いるわけで、
それをうまくクロスオーバーする世界が
いったいどのように考えてつくられているのか、
すごく興味があるんですけど。 - 森住
- えーとですね、まず、
キャラクターたちをカテゴリー分けするんです。
どこの世界に属するのかを考えながら。 - 岩田
- カテゴリーは何種類くらいあるんですか?
- 森住
- 8つから9つくらいになります。
まず現実世界に近いものと、そこに隣接する
『サクラ大戦』シリーズや『戦場のヴァルキュリア』(※16)のような
時間的にパラレルワールドの世界。
『ゼノサーガ』シリーズ(※17)や
『ロックマン』シリーズ(※18)のようなSFや未来の世界。
『ワルキューレの冒険』シリーズ(※19)のような天界・神話の世界や、
『魔界村』シリーズ(※20)のような悪魔たちの世界。
そして『テイルズ オブ』シリーズ(※21)や
『シャイニング・フォース』シリーズ(※22)など、
完全に独立したファンタジーの世界。
こんな感じに分けていって・・・。
『戦場のヴァルキュリア』=セガより発売されているアクティブ・シミュレーションRPGシリーズ。
『ゼノサーガ』シリーズ=バンダイナムコゲームスより発売されているSFテイストのRPGシリーズ。
『ロックマン』シリーズ=カプコンより発売されているSFテイストのアクションゲームシリーズ。
『ワルキューレの冒険』シリーズ=ナムコ(当時)より発売された、ファンタジーアクションRPGシリーズ。
『魔界村』シリーズ=カプコンより発売されているホラーテイストのアクションゲームシリーズ。
『テイルズ オブ』シリーズ=バンダイナムコゲームスより発売されているファンタジーRPGシリーズ。
『シャイニング・フォース』シリーズ=セガより発売されているファンタジーRPGシリーズ。
- 岩田
- はい。
- 森住
- そのあと、それぞれのキャラクターで
クロスオーバーできるところ、
たとえばリュウとアキラ(※23)は
同じ格闘家として知り合いであるとか、
『ダイナマイト刑事』シリーズのブルーノ(※24)は、
刑事である春麗(※25)と同じ事件に関わったことがある、
といったような相関図をつくっていきます。
アキラ=結城 晶。『バーチャファイター』シリーズの主人公の一人。
『ダイナマイト刑事』シリーズのブルーノ=セガより発売された刑事アクションシリーズの主人公。
春麗=『ストリートファイター』シリーズの主人公キャラクターの一人。
- 岩田
- なるほど。
- 森住
- その段階で例外になっているキャラクターは、
たとえばタイムスリップでやってきて、
親の敵を追うキャラクター同士なら
そこを絡ませたりして、相関図をつくります。
そこから最終的に元の世界に戻っていくという
大筋のストーリーの目的がありますので、
じゃあその方法は装置なのか、魔法なのか、
というようなメモ書きをざーっと重ねて・・・。 - 岩田
- あの、質問なんですけど、
世界がちがうと意味のないものって
出てきますよね。 - 森住
- そうですね。
ただそこは、逆の考え方もありまして。
「組み合わせが意外なほどおもしろい」
というものもあります。 - 岩田
- でもその「まぜておもしろい部分」と、
「秩序をどこまで守るか」の境界線は、
どうやって決めているんですか? - 森住
- やっぱり、それぞれのゲームを
プレイしたうえでの判断にはなります。
全部遊んでいるからこそわかるものがありますから。 - 岩田
- 「それぞれの世界や
大事にしているものへのリスペクトを忘れない」
というところですか? - 森住
- あ、そうですね。
- 塚中
- そこでひとつ大事なことは、
「全員が主役であること」だと思います。
そこは崩してはいけない、明確な境界線なんです。 - 岩田
- とはいえ、全部主役にするのは・・・たいへんですよね。
- 森住
- 『プロジェクト クロスゾーン』は章立てで物語を進めるんですけど、
格闘系のキャラが根幹にくる話、
ファンタジーのキャラが根幹にくる話という具合に、
ステージごとに区切られて、
それぞれ見せ場をちゃんと設けられるんです。 - 岩田
- シミュレーションRPGという構造で、
区切りのある章立てで見せられることが、
この空前のクロスオーバーを実現するうえで、
けっこう重要な要素なんですか? - 森住
- 逆にそこがあればできるんです。
キャラクターがきっちりそろった段階で、
このプロジェクトは
ほぼ最後まで見通すことができました。 - 岩田
- なるほど。
- 森住
- ですので、最初の企画の相談が
いちばん重要なポイントだったと思います。
反則スレスレで原画を描き起こしたのも
やっぱりそこがすべてなんだと
読んでいたからなんです。 - 寺田
- わたしは、企画書を見させてもらったときに、
「シミュレーションRPGというジャンルを選んだのはさすがだな」
と思いました。シミュレーションRPGって、
ディレクター視点で言うと、
ユニットの能力やパラメーターでキャラクターを差別化しやすいんです。
- 岩田
- 個性が出しやすいんですね。
- 寺田
- そうです。ユニット同士が連携して協力したりする点も、
視覚的にすごくわかりやすい。
キャラクターの絆みたいなものも明確に表現できるんです。 - 岩田
- ユニットとして個性が出しやすくて、
それぞれ秀でたところを持たせられるし、
場面ごとにそれぞれを主役にできるという点が、
すごく相性がいいということですね。 - 寺田
- そうなんです。
キャラクターを大事にしたゲームにしようという心意気を、
企画書から感じました。 - 塚中
- 物語性があるクロスオーバー物って、
過去、我々がやっているやりかた以外に、
あまりないと思うんです。
アクションとかで対戦する形であれば、
キャラクターが立っていれば
ある程度は成立するとは思うんですけど。 - 森住
- でもたぶん、このスタイル以外には
なかなか難しいと思います。
寺田さんもおっしゃったとおり、
ひとつの物語でみんなが並び立つ表現は、
逆に個性が均一化されてしまうことでもあるので。 - 岩田
- 特定のキャラクターを中心に、
ゲストとして参加させるのなら、
いろいろつくり得るとは思いますけどね。
だから「全部を主役にしましょう」って、
言うのは簡単ですけど、
じつはものすごくたいへんなことですよね(笑)。