『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第21回:『PROJECT X ZONE』
5. 考古学のような開発
- 岩田
- どうしても絵の話が中心になってしまいますが、
それぞれの楽曲や、セリフや、固有名詞などの
シナリオ的なものも、相当あきれるようなことに
なっている気がするんですけれど(笑)。
そのあたりはどうですか?
- 塚中
- 楽曲の話をすると、
やはり各作品に印象的な曲というのは
当然あります。
- 岩田
- でも、つくり手の思いと、
遊んだ人の印象とのギャップも
あったりしますよね。 - 塚中
- そうですね。けっこう難しいです。
- 森住
- わたしの場合は
純粋にファンの立場で聴きたい曲、
プラスそのゲームでよく聴く曲、
という2通りの選びかたをするようにしています。 - 岩田
- それも森住さんのゲーム経験の結晶化ですね、やっぱり。
- 森住
- そうですね。
よく聴く曲というのは、
結局全体を通してプレイしたり、
リアルタイムでゲームのPVなどを見ていないと
空気感がわからないものではありますね。
たとえば『ストリートファイターIV』であれば、
PVでよく使われている楽曲があるんですけど、
あの曲っていうのはある意味、
「リュウのテーマ」よりもよく聴くんです。
『鉄拳』シリーズとのコラボレーションでも
使われていたので、これは必須だろうと。 - 岩田
- つまり「なんでこの曲選んだんだろう?」って
思われないような、
第三者的な視点も必要になるわけですね。 - 塚中
- そういう意味では『サクラ大戦』シリーズはもう、
各タイトルの主題歌がいちばん有名なので、
悩むところはありませんでした。 - 寺田
- 今回、主題歌以外に
森住さんがセレクトされたのが、
第1作の「メインテーマ」っていう
曲なんですけど・・・。 - 森住
- 最後の出撃のときや、
けっこう重要な出撃シーンに、
かかっている曲です。 - 寺田
- はい、そうですね。
『サクラ大戦』シリーズの曲はたくさんあるんですけど、
じつはわたし、個人的にこの「メインテーマ」が
いちばん好きだったんです。だから
「選んだ人はマニアックだなあ。
相当遊んだ人が選んでいるにちがいない」って、
ひそかに思っていたんです(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 森住さん、そういうふうに、
それぞれのファンの人が思ってくれたら、
本望ですね(笑)。 - 森住
- そうなると、わたしもうれしいです。
- 塚中
- まだあきらかにしていない楽曲もあるので、
そこは楽しみに待っていただいて、
遊んだとき「ああ、これを選んだのか!」って
感じてもらえたらいいなあと思っています。 - 森住
- あとシナリオ上のセリフについてですけど、
基本的には原作のゲームをプレイしながら、
再現したいセリフをテキストのデータベースにして、
シナリオを書く際や、バトルのときの掛け合いに、
反映するようにしています。
必殺技とかも必須なんですが、
意外と、覚えていたつもりでも、
微妙に言い回しを間違っていたりするんです。 - 塚中
- それがあると非常にかっこ悪いので(笑)、
分厚いメッセージ台本の監修をしていただいて、
全部つぶしていきました。 - 土屋
- その部分に関して言うと、
カプコンのタイトルって、シリーズを重ねる中で
設定に齟齬があったものが多くて・・・。 - 寺田
- うちにもありましたよ(笑)。
- 土屋
- あるキャラクターの一人称が、
シリーズの途中で急に変わるんですね。
どの作品かは、ここで言わないですけど(笑)。
なぜ一人称が変わったのかを、
この機会にさかのぼって調べていったら、
「じつは担当者的には納得いってなかった」
という事実がわかってですね(笑)。
- 森住
- ああ、だから戻ったんですね。
- 土屋
- はい(笑)。
「急に一人称が変わったのは意味があるんだろう」って、
解釈されて統一されていたんだと思うんですけど、
じつは担当者の気の迷いというか・・・。 - 岩田
- そういうのって、森住さん的には
「ぜったいに何か理由がある」って、
見逃すわけがないですよね。 - 塚中
- 今回、そういった点をつぶしていくことで、
各作品に対してより理解が深まったというのはあります。 - 森住
- あと、各作品のシナリオのキーワードも
ゲームをプレイしているときに、
コツコツメモります。
世界の名前や、技術、○○装置などですね。
時間はかなりかかるんですが、
あとで資料から設定を探すより
はるかに効率よく作業できますから。 - 岩田
- だてに半年間、ずっとゲームを
遊んでいただけじゃない、
ということですね。 - 森住
- はい(笑)。
- 寺田
- そうやって細かく調べてもらって、
メッセージ台本をいただくんですけど、
それが本当かどうか、
こちらで調べるのがたいへんなんです(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 昔のことですしねえ(笑)。
- 寺田
- 「この設定本当かなあ?」って、
当時の設定資料をいっぱい調べているうち、
1メッセージに1時間とか、かかったことありますね。 - 森住
- 本当に細かいことだったりするんですけど、
「この単語の最後は、プかブ、どっち?」とか、
資料によってバラバラだったりしますから。 - 寺田
- いまではもう、
本当の正解は我々もわからない、
なんてこともざらにありました。 - 岩田
- そこは昔の文献を調べるように・・・、
考古学みたいですね。 - 森住
- ああ、そうですね!
考古学、けっこうたいへんなんですよ。 - 岩田
- いや・・・楽しそうです(笑)。
- 一同
- (笑)
- 土屋
- つくった本人が
「どっちだったか思い出せない」って、
資料をひっくり返して
「合ってる!」とかいうのもありましたね。 - 森住
- 一応、わたしの記憶やデータベース以外にも、
そのためのスタッフがあらゆる資料を総動員して
チェックしてから出しているんです。
取扱説明書、攻略本、資料集などなど・・・。
ネットの情報は不確実なものもあるので、
確認用としては見ていないです。
最終手段は、ゲーム本編になりますが。 - 寺田
- さすがだなと思いました(笑)。
- 土屋
- うちもまったく同じです。
- 森住
- でも結局、我々は設定を考えるわけではないので、
そこを徹底するしかないんですね。
決めなきゃいけない設定は、
原作元さんのほうで決まっていますから。 - 岩田
- キーワードひとつを盛り込むために、
かなりのエネルギーが
費やされているということはわかりました。
一方で「ほんとに楽しそうにつくられているな」って
感じが伝わってきます。
- 塚中
- 我々はその作品やキャラクターが好きで、
今作では、そういった数々の設定をお借りしていますから。
ゲーム好きな人間にとっては
ある意味幸せなことだと思います。 - 岩田
- つくっている側が楽しんでいるかどうかは、
モノを通じて伝わりますからね。 - 森住
- そうですね。
わたしは昔のレトロゲームとかが大好きで、
それこそファミコンや
PC88(※27)の時代から遊んでいるんですけど、
当時のゲームってそれこそ数人でつくられていて、
「これがやりたかったんだろうなー」って
つくり手の気持ちがわかるものが多かったんです。
いまはなかなか、ゲームの規模が大きくなって、
つくり手の顔が見えづらくなっていますが、
今回は意外と少人数でつくってますので、
そういうところでの我々の努力と楽しみが、
うまくお客さんに伝わってくれたら
開発者冥利に尽きますね。
PC88=PC8801シリーズ。1980年代にNECより発売されていたパーソナルコンピューター。