『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第22回:『エクストルーパーズ』
4. カジュアルの定義
- 岩田
- 先ほど「カジュアルな遊び」というお話が
ありましたけれど、
そのために具体的にどんなことが話し合われて、
どういった策をとられたのか、
もう少しお話を訊かせてもらえますか。 - 小嶋
- そうですね。
単純に難易度の調整などは
後々まで引っ張ってたいへんだったんですが、
まずそもそも「カジュアル」の定義があいまいで、
スタッフそれぞれの「カジュアル観」が、
最初、すごくズレていたんです。 - 岩田
- 「カジュアル観」ですか。
- 安保
- はい。そこでチーム内できっちり、
“カジュアルの定義ミーティング”をやったんです。
カジュアルというお題に対して
いろいろキーワードを出して、
「これはちがう」「いや、こうだ」ってやりながら。
最終的に「カジュアルとはこういうことです」と
明確に定義付けして、
チーム内で意識を統一したんです。 - 岩田
- そういった定義付けは
いつもされているんですか? - 安保
- 大なり小なりありますけど、
危なさそうなときは必ずやりますね。
世代が離れてくると、同じ言葉を使っていても、
認識がちがってくることが多いんです。 - 小嶋
- 『モンハン』でもありました。
「恐竜と怪獣のちがいは何か」とか・・・。
「ここは『ジュラシック・パーク』(※18)みたいな世界だよ」
って言ったら、若いスタッフが真顔で
「ライドとか出てくるんですね!」って言うんです。
『ジュラシック・パーク』=スティーブン・スピルバーグにより1993年に公開された映画。バイオテクノロジーによって現代によみがえった恐竜たちが描かれるパニックサスペンス。
- 岩田
- ははは(笑)。
映画じゃなくてUSJ(ユニバーサル・スタジオ・
ジャパン)を連想したわけですね。
完全に世代の差です。 - 小嶋
- そのときはみんなから
総ツッコミを受けていましたが(笑)。
まあ、それは極端な例ではありますけど、
共通項を持たないと、結果がブレてしまうんです。 - 安保
- 今回のマンガデモについても、
世代でイメージするマンガがちがうので、
若いスタッフ向けに映像を用意して、確認しました。
こういった問題はたぶん、
どこの会社にもあるとは思いますけれど。 - 岩田
- でもきっと、それが積み重なって、
会社のDNAの継承になっていくんでしょうね。 - 小嶋
- そうですね。
- 岩田
- カジュアルを推し進めるにあたって、
ほかに何かされたことはありますか? - 安保
- 先ほどもちょっと話したんですけど、
社内のふだんアクションゲームを遊ばない人に、
敵をロックオンするシステムの検証を含めて、
テストプレイしてもらったんです。
そのときは3人とも女性だったんですけれども。 - 岩田
- その方たちは、どんなふうな反応でした?
- 安保
- 敵をロックオンするシステムは、
「カジュアルロック」「ホールド式ロック」
「トグル式ロック」(※19)と、複数方式を用意していて、
自分の好みで選べるようにしていたんですが、
三者三様で、見事に使いかたがわかれていたんです。
これはどういうことかというと、
「それぞれが自分に合ったスタイルをみつけて
遊んでくれている」ってことなんです。
だから「これはいけるぞ」って確信しました。
「カジュアルロック」「ホールド式ロック」「トグル式ロック」=「カジュアルロック」はロックボタンを押さなくても自動的に近くの敵を狙ってくれる方式、「ホールド式ロック」はボタンを押している間ロックオンする方式、「トグル式ロック」は一回押すとロックオン、もう一度押すとロックオフと切り替える方式のこと。
- 岩田
- 「はじめて遊ぶ人がそれぞれちがうスタイルで遊ぶ」って、
おもしろいですね。
普通、初心者向けのシステムの多くは、
みんながその用意された枠に入ってしまって、
結局、個性が出なくなるときがあるんです。 - 安保
- たぶん、操作とかスタイルというカテゴリーなら、
自分がなじむやりかたを自分で決められるので、
そこでうまくわかれるみたいですね。
じつはこのロックオンシステムに関しては、
ゲームをつくる過程でチーム内で議論があって、
ひとつにできなかったんですよ。
それで逆に「ぜんぶ用意してやろう」って、
突き詰めていったんです。 - 岩田
- 一見、決めきれなかったことが、
じつは中身を豊かにできた要因のひとつに
なっているわけですね。
- 安保
- はい。これはわたしが
『鬼武者』をやっていたときにも
「もっと近くのやつを優先してくれ」とか、
「いや、正面の敵をロックオンするべきだ」とか
同じような経験があったので・・・。 - 岩田
- ああ、そこからつながっているんですか。
- 小嶋
- さらに言うと、うまい人は場面によって
ロックオンを使い分けたりするんですよ。
最終的には向いているほうにロックオンせず撃ったり、
狙いたいやつはロックオンして狙ったり、
腕の上達によって段階的に
組み込むことができるものになっていますね。 - 岩田
- 「カジュアルでも遊べる」ことに重きを置くと、
一歩まちがうとヌルくなる危険性もあると思いますが、
今回、そこはどのように
バランスをとられているんですか? - 小嶋
- 武器の選択なども含めて、
「戦略的にこれしかない」という
つくりにはしていないんです。
初心者の方が遊びやすいような仕組みは
多く盛り込んでいますけど、
状況を見極めて、遊ぶ人の力量に合った
高度なテクニックを使えるようになって、
よりかっこよく、気持ちよく戦えることが
実感できるアクションになっていると思います。 - 安保
- 僕のほうで意識したのは、体力ですね。
カジュアルな人からすると
「体力ゲージに気が行き届かない」
という意見があって。
それで自動回復にしてみたら、
今度はヌルすぎて緊張感がなくなってしまうんです。
「この間をどう詰めたらいいだろう」と。 - 岩田
- ハラハラする感じは残したいけれど、
厳しすぎると上手じゃない人は
すぐ「無理!」というふうになりますからね。 - 安保
- 開発の現場にいると、
みんながうまくなっていて、
つい調整したものが難しくなってしまうので、
そこは極力客観的に、つねにブレーキをかけていました。
ときどき外部の方にもプレイしてもらって、
適度なバランスになるよう、
体力の具合だったり、回復する量を、
かなり最後のほうまで調整を続けました。 - 岩田
- そこは結局、職人のように
調整するしかないんですか? - 安保
- ただ調整をするにしても、
感覚だけだと鈍るんで、
データはぜったい必要ですね。 - 小嶋
- そうですね。感覚は危険です。
- 安保
- あとは全体のバランスで言うと、
「ストーリーミッション」はどんな人でも
最後までクリアできるような難易度ですが、
そのほかにも「VRミッション」(※20)
と呼ばれるフリーのミッションがあります。
協力プレイや対戦プレイが可能で、
最大3人まで一緒に遊べます。
「VRミッション」=本編とは別のフリーミッションモード。ニンテンドー3DS版ではローカル通信を利用した最大3人で一緒に協力プレイと対戦プレイが可能。
- 岩田
- シングルプレイとは
一味ちがった遊びが楽しめるわけですね。 - 安保
- そうです。「VRミッション」で入手した
アイテムや経験値は、ストーリーモードに
反映されますので、先に進めなくなったら、
ほかのプレイヤーとミッションに挑戦し、
アイテムを入手したり、経験値をためたりする、
といった使いかたもできます。
この「VRミッション」では、
かなり歯ごたえのある難易度のミッションを用意していますので
刺激がほしい方にぜひ、チャレンジしてもらいたいですね。 - 岩田
- 「強者の館はこちらです」ということですね(笑)。
「社長が訊く」はゲーム好きの方も
多く読んでいただいていますから、
そのあたりのお話も、もう少しお訊きしたいですね。 - 安保
- えーとですね、
これはまだ公表していないのですが、
クリア後の「VRミッション」というのがあるんです。
通常は武器を選んで、ミッションに持ち込んで使うんですが、
ひとつの武器を強くすることで、
ある程度、力押しでいけるんです。 - 岩田
- はい。
- 安保
- ただ、それとは別に、
クリア後のやりこみ用として用意したのが、
「エクストリームミッション」と呼ばれる連戦ミッションです。
このミッションでは、一度使った武器は
連続して使えないルールになっています。
つまり特殊な「連続ミッション」になっていて、
最大10連続のミッションとかもあります。 - 岩田
- ほとんど、修行ですね(笑)。
- 安保
- つまり、「それを極めよう」と思ったら、
強くした武器を10種類用意しておかないと、
クリアできないんです。
しかもそれぞれ武器を使いこなせないといけないわけで、
相当ハードなミッションだと思います。
そういった挑戦状的なミッションもありますので、
「骨太なアクションが好きで、腕に自信のある方は
ぜひそちらも楽しんでいただければ」と思います。