『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第23回:『レイトン教授VS逆転裁判』
1. 『レイトン教授』の秘めたライバル
- 岩田
- 今日は、ニンテンドー3DSソフト
『レイトン教授VS逆転裁判』のお話をお訊きします。
レベルファイブさんの『レイトン教授』(※1)、
カプコンさんの『逆転裁判』(※2)という
一見まったく別の成り立ちを歩んできたシリーズが、
メーカーの枠を越え、ひとつになって登場するわけで、
「これはどう考えてもお訊きすべき」と思い、
それぞれの生みの親に、お越しいただきました。
日野さんは「社長が訊く」には
2度目の登場(※3)になりますね。
『レイトン教授』=『レイトン教授』シリーズ。ナゾトキ・ファンタジーアドベンチャー。レベルファイブより1作目『レイトン教授と不思議な町』が2007年2月、ニンテンドーDS用ソフトとして発売。現在第5作まで発売されているほか、2009年にはアニメ映画も劇場公開されている。
『逆転裁判』=『逆転裁判』シリーズ。法廷バトル・アドベンチャー。カプコンより1作目『逆転裁判』が2001年10月、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売。現在第4作まで発売されているほか、スピンオフ作品として『逆転検事』シリーズ2作品がニンテンドーDSで発売されている。
2度目の登場=2011年2月にニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたシリーズ5作目『レイトン教授と奇跡の仮面』で、社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター篇に登場。
- 日野
- はい、よろしくお願いします。
- 岩田
- そして巧さん。
- 巧
- はい、はじめまして。
- 岩田
- はじめまして。
先日は「ニンテンドーダイレクト」の映像(※4)に
ご出演ありがとうございました。
「ニンテンドーダイレクト」の映像=2012年10月25日に放映されたインターネット中継「ニンテンドーダイレクト」の中で公開された「カプコン 巧舟さんに訊く レイトン教授VS逆転裁判 制作秘話」に登場。
- 巧
- いえ、こちらこそ。
ちょっと緊張しています。 - 岩田
- どうぞ、かたくならずに。
今日はよろしくお願いします。 - 巧
- よろしくお願いします。
- 岩田
- まずやはり最初に、この普通なら
ありえない企画がどのようにはじまったのか、
というところから、お訊きしたいのですが。 - 日野
- はい。ちょっとさかのぼるんですが、
最初の『レイトン教授』をつくったとき、
『脳トレ』(※5)を意識したというのは
前回の「社長が訊く」でお話ししたとおりなのですが、
そのときじつはもうひとつ、
最大のライバルとして意識していたのが
『逆転裁判』だったんです。
「どうやったら打ち負かせるだろう?」と
かなり研究をしていたんです。
『脳トレ』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年5月発売。
- 岩田
- すぐとなりに生みの親がいるのに、
「打ち負かす」とまで言いますか?(笑) - 巧
- ははは(笑)。
- 日野
- まあ、そのくらいの意気込みでした(笑)。
僕自身『逆転裁判』が大好きで、
ずっと遊ばせてもらっていたんです。
そのうえで『レイトン教授』をつくるときに、
改めてシリーズをプレイしなおして、
いいところと悪いところを検証して・・・。 - 巧
- 個人的には「悪いところ」が気になりますね。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- まあ今日は『逆転裁判』の悪いところを
語る場ではありませんから(笑)。
でもそういう意味では、
以前に「社長が訊く」でお話しされていた、
「『脳トレ』の次のソフトをつくりたい」という思いと共に、
「『脳トレ』と『逆転裁判』がなかったら、
『レイトン教授』は生まれなかった」
とも言えるわけですね。 - 日野
- そうなりますね。
その頃からつくり手の巧さんにも注目していて、
『レイトン教授』を発売したあとも、
「いつか『逆転裁判』とコラボできたら」と
ひそかに思っていたんです。
ただその前にはまず、
その提案がみとめてもらえるように、
『レイトン教授』をしっかり育てなきゃいけないわけで、
その思いはずっと胸に秘めていたんです。 - 岩田
- それを具体的にカプコンさんに
お話しされたのはいつ頃だったんですか? - 日野
- いまから約3年前の、2010年の頭ですかね。
- 巧
- じつはその1年くらい前、
日野さんがカプコンにいらっしゃったとき、
その席で僕は日野さんから、
構想を打ち明けられているんです。
僕はこのときのことを“お好み焼き屋事件”と
呼んでいるんですが(笑)。 - 日野
- え? 事件になっていたんですか?(笑)
でも、たしかにお伝えしたのはそのときが最初で、
「『レイトン教授』と一緒にやりませんか?」って
直接、巧さんにお話ししたんですよね。 - 岩田
- 日野さんと巧さんは、
それまで面識はあったんですか? - 日野
- ちゃんとお会いしたのはそのときがはじめてでしたが、
以前から巧さんには
『レイトン教授』のソフトをお送りしていて、
お礼状をいただいたりしていたんですね。
1作ごとに「今回はこうでしたね」みたいな、
ていねいな感想をいただいていたんです。 - 岩田
- 面識はなくても、つながりはあったんですね。
- 日野
- はい。ただ、そのとき巧さんに話したことは
まだ夢物語のようなレベルでしたので、
そこから形を整え、紆余曲折を経て、
正式な企画としてスタートするのは
2010年の1月頃になります。 - 岩田
- そうしてはじまった企画は、
どのように巧さんとつながっていくんですか?
- 巧
- 僕はその当時『ゴーストトリック』(※6)という
ゲームをつくっていたので、
じつは最初の立ち上げには、かかわってないんです。
でも「はじまったらしい」とは聞いていて、
「へえ、どんなゲームになるのかな」と
一歩ひいて、見ていたんです。
それが(2010年)5月頃、プロデューサーに
焼き肉屋に呼び出されて・・・。
『ゴーストトリック』=2010年6月にカプコンから発売されたニンテンドーDS用ゲームソフト。記憶を失ったゴーストが自らの死の謎を追う、ミステリーアドベンチャー。
- 岩田
- 出ました、カプコンさんの伝統(※7)(笑)。
「上司がご飯をおごるときは要注意」
というやつですね。
カプコンさんの伝統=社長が訊く『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター篇 第22回『エクストルーパーズ』より。カプコン社内で上司が部下にプロジェクトの立て直しなどを依頼するとき、食事をごちそうするというエピソードから。
- 巧
- よくご存じですね(笑)。
そこではじめて具体的な状況を聞き、
「監修をしてほしい」と言われて
引き受けることになったんです。 - 岩田
- まあ、『逆転裁判』の生みの親に
「監修してほしい」というお願いは、
ごく自然なことではありますよね。 - 巧
- はい。ただ正直に言うと、その段階では
僕はちょっと、否定的だったんです。
僕の中で『逆転裁判』は、
「その世界だけで完結していてほしい」
という気持ちが強かったので。 - 岩田
- ちょっと抵抗があったんですね。
その否定的な気持ちは、
いつ、どのように変わっていくんですか? - 巧
- きっかけという意味では
“魔女裁判”というキーワードが
僕の中に思い浮かんだときですね。
「魔法が実在する世界で、なるほどくん(※8)が
裁判をしたら一体どんなことになるんだろう?」
と考えついたところで、
イメージがふくらんでいきました。
なるほどくん=成歩堂龍一。『逆転裁判』シリーズ初期3部作の主人公。若き弁護士。
- 岩田
- そこに、いままでにない
新しいドラマが生まれる可能性を
見いだしたわけですか。 - 巧
- はい。せっかくやるなら
『逆転裁判』本編ではできないことをやるべきだし、
そういった世界観と親和性の高い
『レイトン教授』のキャラクターが結びついたら、
「おもしろいことになるにちがいない」
と思ったんです。 - 岩田
- 否定的だからこその発想で、
逆に「これしかない」というアイデアを
思いついたんですね。 - 巧
- 僕の個人的な考えで
水をさすわけにはいきませんからね。
はじめてレベルファイブさんに
ごあいさつに行くことになったとき、
「何も手みやげなしでは失礼かな・・・」と思って、
そのアイデアをお話ししました。 - 岩田
- その段階でそこまで用意するというのは、
気持ち的には完全に
乗り気に見えますけれどね(笑)。 - 日野
- クリエーターとしての
本能みたいなものじゃないですかね。
何かを要求されたときに、
まだ乗り気ではないにしても
「自分ならこうするぞ」みたいな
心意気ってあると思うんですよ。 - 巧
- たしかに、
「ニコニコ談笑するだけというわけにはいかないだろう」
というのはありましたね。
でもそのときは、それだけ提案したら
「じゃあ後はよろしくお願いします」って
帰ろうと思っていたんですよ。
ところがその話をしているうちに、
どうも自分がシナリオを
書くことになっているんですね。
「あれ、なんか変だぞ?」と思っていたんですが、
その場の空気にのまれて、
シナリオに参加することになっていました。
- 岩田
- 「監修だけだったはずなのに」と思いながら?(笑)
- 巧
- はい。たぶんプロデューサーと
レベルファイブさんとの間で
密約があったんじゃないかと思っています。 - 日野
- まあ・・・最初の作戦は成功でした。
- 一同
- (笑)