『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第23回:『レイトン教授VS逆転裁判』
4. 「こんなことをした以上は」
- 岩田
- 今回のチームの編成で、
日野さんと巧さん以外のスタッフさんは、
カプコンさんとレベルファイブさんで
どのように分担されているんですか? - 日野
- 大きく言うと、プログラムはレベルファイブで、
アートディレクションはカプコンさんが担当しています。
シナリオ、音楽はお互いが
それぞれのパートを担当しています。 - 岩田
- へえ~。普通はだいたいどちらかが
全体を主導して段取りを組むんですけど、
シナリオや音楽を一緒につくっているというのは
おもしろいつくりかたですね。 - 巧
- 音楽は『レイトン教授』パートと『逆転裁判』パートで
いったん別々にはつくるんですが、
使えるモノはお互いクロスオーバーして
使ったりしていますね。 - 日野
- さらに言うと、プログラマーは
レベルファイブ本社の福岡なので、
東京・大阪・福岡で、
3点間会議を何度もやっていました。
けっこう、ぶつかりあっていましたね。 - 巧
- そうでしたね、かなり。
- 岩田
- お互いにゆずれないところが
いちばんはげしくぶつかる場面というのは、
どこらへんが多いんですか? - 日野
- やっぱりキャラクターの部分ですね。
レイトンのグラフィックに関しても、
相当ぶつかりあっていました。 - 岩田
- わたしは映像を見せていただいて、
「あ、意外になじんでいるなぁ」
って思ったんですけれど
そのまま並ばせたわけではありませんよね。
あそこにいたるまでに、
涙ぐましい努力があったんじゃないですか? - 巧
- 流れましたね、いろんなものが(笑)。
お互いのキャラクターの頭身を、
伸ばしたり、縮めたり・・・。 - 岩田
- やっぱり調整されているんですね。
- 日野
- 僕から言わせてもらうと、
「レイトン勢が『逆転裁判』に合わせた」
と思っていますけれど(笑)。 - 一同
- (笑)
- 日野
- レイトンって本当は
四~五頭身くらいなんですけど、
今回はかなり頭身が増えているんです。 - 巧
- たしかに、僕がいま
オリジナルの『レイトン教授』シリーズを見ると、
「あれ? なんかちがう」って感じますよ。 - 日野
- そこで違和感が出てしまうと、
困るんですけどね(笑)。 - 巧
- 僕は2年間ずっと
これを見ていましたからね(笑)。
やっぱり、オリジナルのキャラクターを
デザインされた方はすごいこだわりがあって、
「レイトンのここはゆずれない」とか、
カプコンのデザイナーといろいろたたかって。
時間をかけてお互いの合意点を模索して、
ようやくいまの形になりました。 - 日野
- そこはクリエイティブの根幹ですからね。
今回の件ではないんですけど、
たとえば「レイトンは帽子の裏側を見せない」
という暗黙の設定があって、
アニメではそういったところを
細かく直したりしているんです。
新しいアートをつくる過程には、
とにかく細かい手間と時間を費やしました。 - 岩田
- 同格で並び立つものなので、
自分たちだけでぜんぶは決められないし、
ゆずれないものもあるわけで、
そこは相当難しいところですよね。 - 巧
- 町並みのグラフィックにしても、
最初に「中世」という話はあったんですけど、
その定義付けもちょっと難航しました。
『レイトン教授』のもともとの舞台となる
ファンタジックなロンドンと、
今回のラビリンスシティという異世界を
どう差別化するのか、かなり悩みましたね。
最終的には、ある程度リアルでありつつも、
どこかファンタジックなテイスト、という
「絶妙なバランスになったな」と思っていますけど。 - 岩田
- でも、できあがりを見ると
すっと入りこんでいけますよね。
それは「自然になった」ということですよ。 - 巧
- そう言っていただけるとうれしいです。
ずっとつくって見ていると、
どうしてもわからなくなることがありますから。 - 岩田
- ちなみに町に住んでいるキャラクターに関しては
どちらかが主体になっているんですか? - 巧
- 最終的には、どちらかをイメージさせる絵柄の
キャラクターになっていますね。
「第3の新しいタッチをつくろうか」
という案もあったんですけど、
そこに住んでいる人の顔が見たことのない感じだと、
ふたつの作品が一緒になっている意味が
揺らいでしまうので・・・。 - 岩田
- そこは不思議なんですけど、
わたしはどちらかにかたよっているような
印象を受けなかったんですよ。 - 巧
- 一人ひとりをよく見ると、
「これはどっち側」っていう要素がありますが、
うまく共生できているんでしょうね。 - 岩田
- ああ、まざっているんですね。
- 日野
- いい感じにまざって、
住み分けができているんです。
ちなみに今回の新ヒロイン、「マホーネ」(※16)は
完全に『逆転裁判』側ですよね(笑)。
「マホーネ」=ラビリンスシティに暮らす少女。ロンドンでレイトンに助けを求め、また、魔女の疑いをかけられ、成歩堂に弁護を依頼する。
- 巧
- まあ、そう見えますね(笑)。
- 日野
- あとは裁判に登場するキャラクターでも
シルエットがおもしろいタイプも出てきて、
「『レイトン教授』と融合したことによって
生まれたキャラクターなんだな」と
感じられるものも多くあると思います。 - 岩田
- そういうバリエーションをつくったことが、
どちらかにかたよったイメージを
感じさせない理由なんですかね。
でもじつはすごく難しいことですよね、それは。
- 巧
- まったく、そのとおりですね。
いま自分で何気なく口に出してみて、
いかに難しかったのかを、すごく感じています。
実際にがんばったのはアートディレクターですけど。 - 一同
- (笑)
- 日野
- 画だけでなく、音関係も
それぞれのシステム音を融合させたりして、
かなり試行錯誤しましたよね。
あと僕は個人的に、巧さんのボイスのこだわりに
かなりびっくりしました。 - 巧
- そうなんですか?
- 日野
- 最初の収録で
「異議あり!」とか「待った!」という
数個のセリフを何度もくり返して、
2時間くらいかけて録るんですよ。
あれはちょっと収録をアテンドした側としても
ヒヤヒヤして見ていました(笑)。 - 巧
- そういえば、もともと
『逆転裁判』の初期のボイスって、
開発スタッフが自分たちで声をあてていたんです。
30回、40回と録音して、
ベストの1回をチョイスしていたので、
それと同じような感覚だったのかもしれません。
失礼しました。 - 岩田
- プロの方にも同じことを要求したんですね。
まあ、万事、時間もかかるわけですね(笑)。 - 日野
- はい。こんなことをした以上は、
もともと時間が必要なタイトルではあったんですよ。 - 岩田
- 日野さんにも「こんなことをした以上」という、
自覚はあるんですね(笑)。
やっぱり日野さんからすると、
ずっと叶えたかった夢でもあったわけですし、
そこで何か新しいものが生まれなければ
「やる意味がない」と考えられているわけですよね。 - 日野
- そうですね。
- 巧
- 「新しいもの」という意味では、
カプコン側からすると、
そもそも『逆転裁判』のキャラクターが、
もとの2D絵から3Dポリゴンかつ立体視になり、
さらにはアニメで描かれるところまで、
ぜんぶはじめてのチャレンジなんです。
だから、なるほどくんを3Dで表現する研究だけでも、
けっこう時間がかかりましたね。 - 岩田
- でも、それでできあがって
なめらかに動くものを見ると、
もとに戻れない魅力がたしかにありますね。 - 巧
- そうですね。
とくに今回、立体視の視差をつけて見ると
裁判所の圧倒的な空気感とか、
臨場感を感じられるんです。
僕はつくる側ではあったんですが、
そこは遊ぶ側として、すごく感動しました。
とくに法廷のシーンなどは、
その場にいるような熱気を感じられると思います。
今回つくってみてはじめて、
「こんなに3DSと親和性が高かったんだ」と知って、
運命的なものまで感じました。 - 岩田
- つくってみてから
必然ともいえる発見があったわけですね。 - 巧
- そうですね。あと、個人的には深い立体視でつくった
町並みもすごく気に入っています。
自分たちが立体視が大好きなので、
調整を工夫してかなりこだわっているんです。
ぜひ立体視で、じっくり楽しんでいただきたいです。 - 岩田
- 「立体視によって、そこに世界が実在する感じを、
なまなましく表現することができた」
ということですね。 - 日野
- 本当にいろんな意味で、大作になりました。
- 巧
- ボリューム的にもかなりの大作です。
カプコン側のプロデューサーが
「いくら遊んでも終わらない」
って言ってますから。
もちろん、いい意味で。 - 岩田
- どのくらい遊べるんですか?
- 巧
- さっき聞いたら、
「いま27時間」って言ってましたね。
ていねいに遊ぶと30時間くらいあるみたいです。
- 岩田
- たしかに、このジャンルのゲームとしては
異例の物量ですね。 - 日野
- シナリオの後半、総量の目処が出た時点で、
「これはちょっと多すぎるかも」って
うすうす気がついてはいたんですけど、
「ここまで来たら、あとにはひけない・・・」と思って、
そのまま突っ込んでしまいました。 - 一同
- (笑)