『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第24回:『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』
2. 「短い時間を集めると強くなる」
- 岩田
- 堀井さんが『VII』の
オリジナル版をつくった時、
容量が増えてできたこと以外の
新しいチャレンジとして、
どんなことを盛り込まれたんですか? - 堀井
- ボクは当時、『MYST』(※13)という
海外のアドベンチャーゲームが気に入っていて、
「こんな謎解きもおもしろいな」と思っていたんです。
というのも、その頃は
「みんなレベル上げの戦闘に飽きてきたんじゃないか?」
という思いが、ちょっとあったんですね。
『MYST』=アメリカのゲームメーカーCyan社が1993年に家庭用パソコン「マッキントッシュ」向けとして開発・発売したパズルアドベンチャー。その後、さまざまなプラットフォーム向けに数多く移植されている。当時先進的だった3Dで描かれる美しい世界観と、難解な謎解きで知られる。
- 岩田
- たしかに、RPGの序盤は、
「とりあえずレベル上げしておこう」
みたいなところが、
当時のお約束になっていましたからね。 - 堀井
- そこで『VII』は、ゲームをはじめると
謎解きをメインに展開する構成にしたんですね。
だから冒頭の5時間くらいは、
戦闘なしで物語を進めるというふうに。 - 岩田
- ああ、あれは『MYST』の
影響を受けていたんですか。 - 堀井
- はい、やってみたかったんです。
まあ、いま振り返ると
「あれは必要だったかな?」とは
思いますが(笑)。 - 岩田
- たぶん、それまでわりと
何をするかはっきりしていた
『ドラクエ』の世界で、冒頭からある種、
経験のないアドベンチャー的な謎解きが
はじまったことに、とまどうところは
あったのかもしれませんね。 - 堀井
- ボクとしてはそれほど難しくした気はないんです。
ただ石版の数が多かったので、どうしても
見落としてしまう場所が発生したんですね。
たとえば、よくある7つの間違い探しなどで
7個のうち6個まで見つかっても、
最後の1個がどうしても見つからない現象によく似ています。
さらに人によって、
見落としやすい場所がちがっていたりして。
- 藤本
- 「ここは探したから、石版はないはず」
といった思い込みも、
謎解きの勘どころを鈍らせるんです。
まさか普通の民家のテーブルの上に
ぽんと石版があるとは思わなかったり・・・。 - 岩田
- たしかに(笑)。
- 堀井
- だから、今回はその反省をふまえて
もう石版では迷わないようにしています。 - 藤本
- 「迷わない、不安にさせない、
わかりやすい『VII』をつくろう」
というのが、今回の3DS版の
最初のコンセプトでした。
- 岩田
- 今回『VII』をその3DSでつくるにあたって、
みなさんそれぞれの想いがあると思うんですが、
どんなことを考えて、はじめられたんですか?
先ほどリベンジとおっしゃっていた
眞島さんからお聞きしましょうか。 - 眞島
- 僕が最初に思ったのは、
「当時のお客さんといまのお客さんの
『VII』を見る目はぜんぜんちがう」
ということです。 - 岩田
- それは、どういう意味ですか?
- 眞島
- 前回『VII』をつくった時は、
「迷うことが楽しく、歯ごたえあるRPG」が
コンセプトだったんです。
当時、圧倒的に容量が増えたぶんだけ
冒険する場所の規模も大きくなり、
数にして1000近いエリアが存在したわけで
「そこまで広い世界を行き来するのは
ものすごく迷ってしまうだろう」
と、当初から想定はしていたんです。 - 岩田
- なるほど、先ほど藤本さんがお話しされた
コンセプトとは、「迷う」ことに対する
考えかたがちがっているんですね。
「迷うことをいかに味わって楽しんでもらうか」
ということを目指していたわけですか。 - 眞島
- はい。そこでグラフィック的には、
それまでのシリーズである程度パターンで
統一されていた町の壁などのデザインを、
個々にガラッと変えて、それぞれの町の雰囲気を
差別化したつくりにしました。 - 岩田
- 数が多くて、歯ごたえがあるぶん、
一つひとつの町や場所に個性を立てて
それぞれの印象を際だたせつつ、
大きく広がった世界観や、
その多様性を楽しんでもらおうと考えたんですね。 - 眞島
- そうですね。そこを今回は、
画全体のスケールやキャラクターの頭身などは
リメイクにあたり描き直してはいますが、
もとの考えかた自体は、大きくは変更していません。
ただ、いまのお客さんはどちらかというと、
「面倒くさそうだ」と感じ取られた時点で
離れてしまう可能性があると思ったんです。
だからその点は、「前回とちがったアプローチを
しないといけない」と最初に考えました。
- 岩田
- ゲームの進行や難易度に関して、
お客さんが感じるストレスだったり、
そこにエネルギーを費やすモチベーションが、
当時の基準とちがうんですね、そこは。 - 眞島
- ちがいますね、やっぱり。
ですので、もともとのエッセンスである
「探して迷う」ことの楽しさは大事にしつつ、
そこに導く間口の部分について
工夫する必要があると考えました。 - 岩田
- なるほど。藤本さんはどうですか?
- 藤本
- わたしはまず『VII』と3DSは、
「すごく相性がいいぞ」と思いました。
『VII』のお話って基本的に
ショートストーリーの連続なんですね。
だから携帯機で隙間の時間でゲームを遊ぶ
いまのお客さんのスタイルにとても合うんです。 - 岩田
- 「携帯機だからこそ引き立つ
『VII』のおもしろさが出せる」
と思ったわけですね。 - 藤本
- はい、そうです。
- 堀井
- それはボクもすごく思いましたね。
DSで出した『IX』(※14)は、携帯機の
長所をかなり活かしています。
携帯機だから、普通にトータルで300時間以上とか
遊んでも、それほど苦痛ではなかったり。
ちまちまと遊べるんですね。
『IX』=『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』。2009年7月にニンテンドーDS用ソフトとして発売。
- 岩田
- そうですね。それはまさに
「短い時間を集めると強くなる」
という、新しい発見なんですよ。 - 堀井
- しかも遊んでいる本人は
意外とそんなにやった気はしてないという。
いまの時代って、テレビの前に集中して座るのは
つらく感じる人もいると思うんですけど、
携帯機ならテレビを見ながらできるし、
どんな場所でも、気楽に遊べるでしょう。 - 岩田
- 堀井さんがお話しされたとおり、
人ってテレビの前から解放されると、
遊べる時間は明らかに増えるんです。
ちょっと話がズレますが、
「ゲームがテレビから自由になったらいいのに」
と考えたことがきっかけで生まれたのが、
まさにWii U GamePadなんですよ。 - 堀井
- なるほど。そうなんですね。
- 岩田
- でもたぶん堀井さんは、
『IX』の経験を自身の実感として、
携帯機と『VII』の親和性のイメージを持って
今回のリメイクをはじめておられるんですね。 - 堀井
- それはありますね。
- 杉村
- わたしは最初、3DSでやることが決まった時、
「細切れの時間で遊ぶことになるので、
それがプレイしにくくなる原因にならないように
工夫しなければいけないな」と思ったんです。
だいたいの人は「どこまでやったっけ?」って
なるじゃないですか。 - 岩田
- たしかに再開した時、
何をするかがわからなかったりすると、
それでプレイするのが面倒になりますよね。 - 杉村
- そこを補助するために、今回は
「“あらすじ”のシステムを充実させよう」
と思ったんです。
- 藤本
- でも、それだけでも膨大な作業でした。
1年くらい、かかったんじゃないですか。 - 杉村
- そうですね、かなり。
でも最終的にはストーリー仕立てで
過去の冒険が整理されて読めるので、
とても実用性の高いものになったと思います。 - 岩田
- 「こうしたらいいね」っていう一言が
ものすごい作業を生むわけですけど、
それは一方で計り知れない価値を
生むことでもあるんですよね。
そういう意味で“あらすじ”というのは、
携帯機でRPGを遊ぶうえで、
とても重要な役割を持っていると思います。