『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第24回:『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』
3. リメイクの強みと難しさ
- 岩田
- 携帯機で遊ぶ『ドラクエ』という意味では、
『IX』の時のすれちがい通信(※15)で、
すごいことが起こりましたよね。
あれはいかに奇跡的なことであったかを
前回の「社長が訊く」で堀井さんにいろいろ
教えてもらいましたけれど、
今回そういった通信をつかった
新要素などもあるんでしょうか?
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができるニンテンドーDS、ニンテンドー3DSの通信機能。
- 藤本
- はい、まず真っ先に決まっていたのは、
“移民”のシステムです。
これはもともとメモリーカードを通じて
ほかのプレイヤーと町の住人を交換しあうという
仕組みがあったんですね。 - 岩田
- もともとメモリーカードで
データの行き来ができたんですか? - 藤本
- はい。ただ当時のメモリーカードは
だいたいはハードにささったままで
持ち歩く習慣があまりなかったんですが、
それがすれちがい通信なら簡単にできるわけです。 - 岩田
- なるほど・・・。
ということは当時から堀井さんは
そういった社会的なつながりというか、
人と人のそれぞれのゲームの世界を
行き来するイメージを持って、
『VII』をつくられていたことになりますよね。
- 堀井
- せっかく持ち出せるメモリーカードがあるから、
ちょっと変わった、おもしろいことがしたかったんです。
結局、当時はあまり活かせる機会がなかったんですけど、
いまならみんな3DSを持ち歩いていますし、
「きっとうまくいくんじゃないかな」って・・・。 - 藤本
- その移民のシステムにモンスターパークという
やり込み要素を掛け合わせることで、
両方がより楽しい遊びになるんじゃないかと思い、
でき上がったのが“すれちがい石版”という
すれちがい通信で交換する遊びです。
自分になついたモンスターを飼う
モンスターパークという施設があるんですが、
そこにいるモンスター3匹を冒険に出して、
新しい石版を掘りに行けるんですね。
それをほかの人と交換していくと、
いろんな石版ができる仕組みになっています。 - 眞島
- 選んだモンスターによって自動的に、
個性的な名前の石版ができるんですよ。
「遠くのほのぼのとした洞窟」とか、
意味がちょっとよくわからないものとか(笑)。 - 杉村
- スライムだと「プルプルした洞窟」とか・・・。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- それがまたおもしろい名前が付いて、
ほのぼのとしたり、ちょっと笑えたりするんですね。 - 眞島
- まったく予想できない
組み合わせが出てきます。
でもそういった仕掛けによって、
石版にも愛着を持ってもらうというか、
青い石版、赤い石版という無個性なものではなく、
偶然性から生まれる新しい個性を
共有して楽しめるようにしたかったんです。 - 岩田
- ゲームの中で各プレイヤーがそれぞれ
ちがう体験をしているものが、
交換されたり、共有されたりすることで、
世界が広がって、
新しい一面を見せる感じがあるんですね。
それが『IX』で起こったことなわけで。 - 藤本
- 『VII』は自分で3匹のモンスターを選んで、
ある程度狙った石版をつくれるんです。 - 岩田
- 『IX』のすれちがい通信の
「地図を交換し、価値あるものを探しに行く」
という純粋にランダムな遊びの構造が
「自分でいろいろ試しながら、
それが広がって明らかになっていく」
というおもしろさになったということですかね。 - 藤本
- そうですね。
- 岩田
- そのほかリメイクにあたって
「ここは大きく変えた」という
ポイントはありますか? - 杉村
- 先ほどお話に出た冒頭の構成は、
ガラッと変わっています。
最初の島で、あるものの数や
場所は同じなんですが、流れやテンポは
だいぶ変わっていると思います。 - 藤本
- あとシステム的には、転職システムを
オリジナルから大きく変えています。
『VII』では職業が50種類以上あって、
シリーズの中でもいちばん多いんですが・・・。
- 岩田
- ああ、そんなにあるんですね。
- 藤本
- オリジナル版だと
前の職業で覚えた特技は、
転職してからも引き継いでつかうことができたんです。
だから転職をくり返すと、いろんな特技を覚えて、
どんどん強いキャラクターに
することができたわけです。
でもそうすると、強いことは強いけれど、
もとの職業の個性がなくなって
みんな同じような能力の
キャラクターになってしまうんですね。 - 岩田
- 逆に、無個性になってしまうわけですか。
- 藤本
- そうですね。
そこはやっぱりいまつくるなら
「転職したらその職業だけでしかできない」という
システムにするべきだろうということで、
かなり大きく変わっています。 - 岩田
- そういう、すでに実績もあって、
こだわりある方もいるかもしれないものって、
「変えたほうがよくなる」と思うと同時に
「変えるのは怖い」という、
気持ちの葛藤ってありませんか? - 藤本
- それはすごくあります。
ただ今回の『VII』でいうと、
これはリメイクならではの強みなんですけど、
実際に前回のオリジナル版を遊んだ人の声を
かなり参考にしているんです。 - 岩田
- きっと『VII』はオリジナル版当初、
それまでになく一気に大きな試みを盛り込んだので、
よい評価をたくさんいただくと同時に
「こうだったらもっとよかった」みたいな
反対の意見も数多くあると思うんですね。
なにせ、400万本以上売れていますから。 - 藤本
- そうですね。それをふまえて、
今回の転職システムに関していうと
「改善してほしい」という声のほうが
大きい感触があったんです。
もちろんボク自身も何度もプレイし直して、
「やはりこれは変えたほうがいい」と考えて、
今回ガラリと変えることにしました。 - 眞島
- リメイクという意味でいうと、
以前アルテピアッツァとして
『VII』の直前にスーパーファミコンで
『III』のリメイク版(※16)も担当しています。
『III』はもともとバトルやパーティ、
転職などあらゆる点でシステムの完成度が
高かったこともありますが、
リメイクすることでさらにやり込みの魅力を
きわめられた作品なんですけど、その体験をもとに、
「今回『VII』をどう発展させるべきか」
を考えられたことが、今回、
すごく大きなポイントになっていると思います。
スーパーファミコンで『III』のリメイク版=『スーパーファミコン ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』。1996年12月に発売。
- 岩田
- オリジナルから単に移し替えるだけではなく、
無数のフィードバックの吟味と
とてもたくさんの検討があるんですよね。
そのうえで土台を残しつつも、いまの時代や仕組み、
そして「どうしたらお客さんにいちばん響くか」を
ゼロから考え直してつくっているわけですね。 - 藤本
- はい。そこに尽きます。
そこの期間だけでも10か月くらいかけて、
リサーチと検討をくり返してきました。 - 眞島
- そういう意味では『ドラクエ』はいつも
つくりはじめる前に合宿をして、
どんなものにするかゼロから考えるんです。
そこでは本当に毎回、
「えっ、そんなことから考えるの?」というような、
シリーズの根本的なことから話し合うんですね。
そういったところも『ドラクエ』らしさを生む
ひとつの理由だと思っているんですが、
今回の『VII』もそれに近いレベルの
検討を最初に行っていますから、
単なる移植でもバージョンアップでもない、
いまの時代に即した進化を遂げていると思います。