『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第24回:『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』
4. 「なんかわかっちゃうんだよね」
- 岩田
- せっかく眞島さんから
『ドラクエ』らしさというキーワードが出たので、
みなさんが思う『ドラクエ』らしさを
お訊きしてもよいでしょうか?
堀井さんを前にして語るには、
ちょっときびしい質問かもしれませんが・・・。 - 藤本
- きびしいですね(笑)。
- 岩田
- 堀井さん、いつでもダメ出しOKですよ。
- 一同
- (笑)
- 藤本
- ちょっとちがうかもしれないですけど、
わたしは、自分の娘を見ているとき
「『ドラクエ』っぽいな」と思っていたんです。 - 岩田
- それはなぜですか?
- 藤本
- 生まれてすぐ、本当に毎日
いろんな新しい出来事があるんですけど、
その体験をしてどんどん成長していく様子が
『ドラクエ』でレベルが上がる感覚に
そっくりなんですね。 - 岩田
- 序盤はちょっとスライムと戦うだけで、
すぐレベルが上がる、みたいな感じですか?(笑) - 藤本
- はい(笑)。レベル10とか20くらいになると、
中ボスみたいなのが出てくるじゃないですか。
現実に娘のまわりでそんな出来事があると、
ボスを倒したときの達成感みたいなものがあるんです。
だからちょっと大げさかもしれないですが
『ドラクエ』=人間の生きかた、
とも思えるんです。 - 岩田
- 藤本さんが感じた
その『ドラクエ』らしさの観点でいえば、
今回の手ごたえはどういったところにありますか? - 藤本
- そういう意味ではやっぱり、
先ほど話した転職がまさにそうですかね。
実際の人生と同じように、
それまでの経験はいったんリセットになるので
転職はけっこう悩むと思うんですけど、
けっしてそれまでの経験はムダではないし、
そこで決断した道をきわめていくことで
新しい楽しさが見つけられると思うんです。 - 岩田
- なるほど。ちなみに、
そういう改変を行う場合は堀井さんに
「こうしたいですけどいいですか」という感じで
最終的にお伺いを立てるんですか? - 藤本
- そうですね。転職システムは、
3パターンほど案を考えたんですが、
最初はぜんぶ却下されました・・・。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- でもそこで堀井さんは、
自分がこれだと思うものがないとき、
一緒に解決策を考えてくれるんですよね。
これまで堀井さんと一緒に仕事をされたみなさん、
同じくそう話されていました。 - 藤本
- そうなんです!
「これだとこういうお客さんにはきついから、
こう変えたほうがいいんじゃない?」
っていうようなやりとりが、よくあります。 - 岩田
- まるで「何かが降りてきた」かのように
答えが導き出されるのを
みなさん目の当たりにされているから
「ああ、これは堀井さんじゃなきゃだめだ」って
思い知るんですよね。 - 藤本
- はい、まさにそのとおりです。
- 岩田
- 堀井さんにとって、
それは簡単なことなんですか? - 堀井
- うーん・・・。
なんか、わかっちゃうんだよね。
- 一同
- (爆笑)
- 岩田
- いや、でも不思議な説得力がありますよ、
「なんか」というのも。
そうでないと30年近くもの間、世の人々から
「この人のつくるものは絶対におもしろい」って
言われ続けることは不可能ですから。
- 眞島
- 堀井さんってもちろん
ある種の天才だと思うんですけど、
それと同じくらい「ほんとに普通の人だなあ」と
思うところもあるんですよね。
何かを決めるときなどでも、
プロ的な掘り下げかたをしないというか・・・。 - 岩田
- どんなに知識を持っていても
それにおごることなく、
何も知らない人の気持ちがわかるんですよね。 - 眞島
- “天才的な普通の感性を持つ人”です(笑)。
これだけ長い間、この業界でモノづくりをしていると
その業界の基準で考えてしまうところが
誰しも当然あると思うんですけれど、
そこがほんとに、おどろくほど
“普通”なんですよ。 - 藤本
- テストプレイの時にも
「そういうプレイの仕方するんですか!?」って
おどろくことがよくありますね。 - 岩田
- 「はじめて遊ぶ人の目線でモノを考える」
ということは、ほとんどのつくり手が、
意外とできていないことだと思うんです。
わたしもうちの会社で宮本(茂)と話していると
「なんでこの人はそんなことに気がつくんだろう?」
と思うことが何度もあります。 - 藤本
- おんなじですね、きっと。
- 岩田
- 堀井さんと長く仕事をされてきた
杉村さんから見ると、
そういうときの堀井さんはどう見えるんですか? - 杉村
- たぶん、自分にきびしいんだと思います。
普通のつくり手は自分がやりたいことや
お客さんに「こういうふうに遊んでほしい」
というものがどうしてもあるので、
たとえば町の隅っこにいる
キャラクターにまでは気は配らないと思うんですけど、
「ここに来る人もいるから大事にしよう」って
隅々にまで同じくらいの気持ちをこめることって、
どれだけ自分にきびしいかだと思うんですね。
- 岩田
- それを続けていくと、
一切妥協ができなくなりますよね。 - 杉村
- そうなんです。だからある意味、
わたしの中での「ドラクエらしさ」は、
“究極のお客様サービス”と思っています。
それを続けることはすごく大変だと思うんですけど、
そういう努力や苦労の跡は
お客さんや周囲に一切見せないという。 - 岩田
- たしかに「自分を追い込んでます!」という
オーラを出されないですよね、堀井さんは。 - 杉村
- でもそこはやっぱり、
人を楽しませたいことへの欲求を、
根底にお持ちだからなんでしょうね。 - 岩田
- 「なんかわかっちゃうんだよね」
っていう言葉は、天賦の才能に恵まれた人が
あたかも何の苦労もなく勘でわかるというふうに
聞こえるけれど、そうでないことは、
そばで見ていた杉村さんにはよくわかるわけですね。 - 杉村
- はい。
- 岩田
- わたしはいまのお話を聞いていて、
『ドラクエ』らしさのひとつが、
言葉でわかった気がします。
「つくり手の事情を優先しない」ことですね。 - 藤本
- たしかに、ときどき堀井さんから
「ご都合主義になってるよ」って、
忠告されることがあります。 - 岩田
- どんなものでもコンピューターでやる以上、
つくり手の都合や制約だらけなんですね。
それを堀井さんは『ポートピア』(※17)をつくっていた時代から、
制約の中でやるきびしさを身にしみて体験しているけれど、
「お客さんにその都合は関係ない」ということを
ずっと『ドラクエ』の中で
表現されているんじゃないですかね。
だからある意味『ドラクエ』をつくるということは、
つくり手としてはちょっと修行のような部分が、
あると思いますし。
『ポートピア』=『ポートピア連続殺人事件』。堀井雄二さんがデザインしたアドベンチャーゲーム。1983年にエニックス(現スクウェア・エニックス)よりパソコンゲームとして発売されたオリジナル版は堀井さんがプログラム・シナリオ・グラフィックをすべてひとりで制作。その後1985年にはファミコンに移植され発売されている。
- 杉村
- でも、幸せな修行ですよね。
なかなかそこに力を入れるってことはできませんから。 - 岩田
- そこは『ドラクエ』の場合、
受け入れてよろこんでくれる人の数が
ケタ違いに大きいわけで、
ものづくり冥利に尽きることだと思います。
自分たちがつくったものが世の中に広がって、
みんなが笑顔になっていただけるうれしさは、
何物にも変えられませんから。
だから堀井さんが毎回身を削りながらつくって、
それでも次、次と続けられるのは、
お客さんの声がなかったらできないと思うんです。 - 藤本
- 堀井さんは、それこそぜんぶ
お客さんの声を見られているんですよ。 - 堀井
- うん。ボクはけっこう、
まじめなお客さんだと思うよ。
かなりやり込むし。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- たぶん“まじめなお客さん”の部分が不変だから
「普通の人はこう感じるはず」ってわかるんでしょう。
それはハッピーなことばかりではないけれど、
それらぜんぶ含めて、次へのヒントであり、
エネルギーになっているんですよね。