『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第3回:『ウイニングイレブン 3DSoccer』
1. スタジアムで起こるすべてを表現したい
- 岩田
- 今日はKONAMI(※1)のゲームソフト全体を統括され、
また、『ウイニングイレブン』シリーズ(※2)の生みの親で、
エグゼクティブプロデューサーをつとめられている
榎本さんにお越しいただきました。
ニンテンドー3DSの『ウイイレ』最新作、
『ウイニングイレブン 3DSoccer』(※3)の発売を控え、
つくり手としてのお話も含めて
さまざまなお話をお訊きしたいと思っています。
今日はご足労いただき、ありがとうございます。
- 榎本
- よろしくお願いします。
KONAMI=株式会社コナミデジタルエンタテインメント。
『ウイニングイレブン』シリーズ=1995年7月、1作目の『Jリーグ実況ウイニングイレブン』からスタートしたサッカーゲームシリーズ。以下『ウイイレ』。
『ウイニングイレブン 3DSoccer』=2011年2月26日、ニンテンドー3DSと同日発売予定の『ウイイレ』シリーズ最新作。
- 岩田
- 榎本さんは1958年生まれだそうですが、
わたしは1959年生まれなので、ほとんど同世代ですね。
おそらく、わたしたちの体験には多くの共通点があると思うんです。
われわれはビデオゲームの黎明期を経験した世代で、
過去25年間、ビデオゲームがどのように
変化してきたのかを見てきました。
- 榎本
- はい。
- 岩田
- 当時、ビデオゲームのつくり方が確立されていなかったので、
わたしたちの世代にはゲーム制作の師匠がいませんでした。
だから、なんでも自分で考えて、やりながら身につけていく、
というものづくりのスタート地点においても、
きっと共通の体験があるように感じています。
- 榎本
- そうですね。ものづくりが確立されていないころは
どれだけ、ものをつくって壊すかをくり返し、
自分のイメージの思いどおりになるまで何回やりつづけるかで、
やりたいことを達成できるかが決まっていたように思うんです。
いまみたいにツールがそろっていて、リアルタイムで
つくったものが絵になることがありませんでしたから。
- 岩田
- 逆にいまのゲームづくりは、
つくったデータをすぐにソフトに反映するためにツールを整備して、
いかに無駄な人手を介さずにデータを組み込んで、
より多くの試行錯誤をするかを工夫してつくりますよね。
それは、われわれの世代がデータひとつ入れ替えるにも
人手を介さないと何もできなかったので、
自動化するにはどうするかを考えてきた歴史の結果ですよね。
ところで、榎本さんは、もともとサウンドを担当しておられたそうですね?
- 榎本
- そうです。『ウイイレ』のサウンドを担当していました。
1994年ごろ、サッカーに詳しかったこともあって、
そのままゲーム全体の制作部長になって、いまに至ります。
どっぷり『ウイイレ』で来ているというところですね。 - 岩田
- 今日お訊きしたいテーマのひとつは、
『ウイイレ』はなぜ『ウイイレ』になったのかということなんです。
いま、榎本さんは「サッカーに詳しかったから・・・」と
すごくさらっとおっしゃいましたけど、
わたしは『ウイイレ』が登場して
サッカーゲームのなかで大きな位置を占めるブランドに成長する過程で、
明らかにサッカーゲームそのものが、大きく変化した気がするんですね。
そこにはどんなことが起こり、どんなことを乗りこえて、
いまの『ウイイレ』シリーズのブランドの確立につながったのか、
というところに興味があるんです。
- 榎本
- 『ウイイレ』プロデューサーの高塚(※4)が言うには
「サッカーゲームの攻撃と守備は格闘ゲームに似ている」と。
「要するにボールを取りあうか、殴りあうかの違いだ」と言うんです。
高塚新吾氏=『ウイニングイレブン』シリーズの総括プロデューサー。
- 岩田
- それはすごく面白いですね。
わたしは、サッカーゲームと格闘ゲームを
関連づけて考えたことがありませんでしたが、
サッカーを格闘技に見立てると、攻撃と守備の読みあいは、
確かに格闘ゲームと同じ構造になりますね。
相手がこう攻めてきたら、こう蹴るぞ、という・・・。
- 榎本
- はい。そのバランスをとるのが、彼はすごくうまかったんです。
格闘ゲームも同様に、攻めと守りのパターンだと思うんですけど。 - 岩田
- 確かにサッカーも格闘も、攻めと守りが一体ですよね。
大きなダメージを与えるものは逆に隙もできてしまう。
だからどう読みあい、駆け引きするかがポイントになるんですね。 - 榎本
- はい。それともうひとつのポイントは
それまでのサッカーゲームは、構造上、
ボールと選手がくっついていたんです。
つまり、選手の近くにボールがくると
自然に選手の足元へピタッとくっつくんですね。
だから選手とボールをどうやって離すかがポイントでした。
- 岩田
- では、はじめて選手とボールを離して、
攻守の駆け引きを深くつくり込んだものが
『ウイイレ』だったということですか?
- 榎本
- はい、それがスタートでした。
- 岩田
- なるほど。でも、そういう変化のあとも
『ウイイレ』は絶えず進化している印象があります。
毎年、厚みと深さが変わっていく秘密はどこにあるんでしょうか?
- 榎本
- まず、とにかく制作スタッフがあらゆるサッカーの試合、
とくにヨーロッパの試合を何度も見るんです。
サッカー自体がどういうプレーで構成されているかを理解しないと、
ゲームに落とし込めないんですね。
われわれの最終的な到着地点は、本物のサッカーと同じことを、
テレビゲームを通じて体験することであり、
スタジアムで起きるありとあらゆることを
ゲームのなかで表現することが、最終目的地なんです。
- 岩田
- つまり、どんなシーンでも本物のサッカーに起こることなら、
どうすれば『ウイイレ』に入れられるかを考えつづけている、
ということなんですね。
それは本当にみなさんがサッカー好きでないと
つづけられないですね。
- 榎本
- そうですね。短い期間ですが、制作の準備段階で徹底的に、
再現したい試合のビデオを見ます。 - 岩田
- でも、どこまでが事前にプレイヤーが考えて練習してきたことで、
どこからが瞬時の判断で奇跡のように成立したことなのか、
わからないことがスポーツにはさまざまありますよね。
サッカーはとくに偶発性から発生する局面の変化が激しいですから。
たとえば、ひとつのパスで試合の雰囲気が
ガラリと変わる様子をたくさん見ますよね。 - 榎本
- はい。ただ、それが毎回起こるとゲームバランスを
崩してしまいますから、どのくらいの確率で、
どういうポイントで発生すべきなのかということが
攻めと守りのバランスだと思うんです。
たくさん起こると試合の点数が入りすぎてしまい、
AI(※5)の穴になってしまいますから。
AI=Artificial Intelligenceの略で人工知能のこと。ゲームでは、コンピューターに人間のプレイヤーのような判断、思考、行動をプログラムで実現させる技術のことを指す。
- 岩田
- うまくバランスをとらないと、サッカーとしての
リアリティがなくなってしまうんですね。
実際、つくり手のみなさんから見て、いまの『ウイイレ』では
やりたいことのどれくらいができているんですか? - 榎本
- いや・・・ぜんぜんできていないと思います。
- 岩田
- ああ、『ウイイレ』はある意味、ライフワークそのものなんですね。
- 榎本
- はい。本当に10何年やってきても、
本物のサッカーにはまだまだ届いていないと感じています。