『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第3回:『ウイニングイレブン 3DSoccer』
2. 技のモーションは開発スタッフが撮っている
- 岩田
- サッカーは、試合で11人動かなければいけませんが、
実際にはゲームで直接操作できるのはひとりだけなので、
残りはAIで動かなきゃいけませんよね。
ということはAIづくりがサッカーゲームのキモになるんですか? - 榎本
- そうですね。基本的に、AIは絶対です。
じつはわたしは、いまの世界全体におけるビデオゲームのなかで、
コンピューターのAIはまだまだ発展途上だと思うんです。 - 岩田
- 確かに、グラフィックスがもはや写真のように
表現できるようになったことと比べると、AIはまだまだですね。 - 榎本
- だから、人と戦うほうが面白いと言われるんです。
じつは『ウイイレ』の場合、AIは基本的に守備が主体なんです。
サッカーゲームなので、たとえば退場者が続出して
10対8になってしまうと、サッカーではなくなってしまいます。
だからまず、守備を崩壊させずに
どう攻めるかのバランスが大切なんです。
それともうひとつ、AIで重要なのは選手のアニメーションです。
会社のなかにモーションキャプチャーのスタジオがありまして、
じつは技のモーションはすべて、開発スタッフの動きを撮っているんです。 - 岩田
- えっ!? それはすごいですね。
まるで専門のサッカープレイヤーの動きを
取り込んでいるような印象を受けていました。 - 榎本
- Jリーガーの方や専門の方にお願いしたこともありますが、
あまり危険なことを何回もやってもらえなかったりして、
リテイクが思うようにできないんです。 - 岩田
- ああ、確かに、プロの方にとっては身体が資本で
なによりも大切に守るべきものですからね。 - 榎本
- そう、マネージャーに止められちゃうんです。
だから、社員がモーションキャプチャーのセンサーを
つけて撮ることが、いちばんなんです。
確かにプロ選手とアマチュアの筋肉には差があるので、
たとえばキックするスピードの差は明らかなんですが、
ほしい動きは何度でも徹底してやりたいので。 - 岩田
- 結局、くり返しのしつこさや、量や情熱が、
ゲームの質を変えるんですね。
- 榎本
- そうです。やはりどこで妥協するのか、ということです。
撮ったものをあとで修正することもできるんですが、
もう1回、撮り直したほうがいいんですよ。 - 岩田
- おそらくスタッフには、すごくサッカーが上手な方も
いらっしゃるんでしょうけど、けっこう、とんでもないことですよね。
いまのお話は、西洋にはない文化のような気がします(笑)。 - 榎本
- キーパーなども何度も跳ぶので、
プロの方ならケガをする心配があると言われてしまいます。
また、ずっとやっていると体力的にも大変なので。
社員ならできるスタッフが交代してつづければいいわけで、
何度でも撮り直せます。 - 岩田
- 確かに、つづけて何度もはできないですよね(笑)。
瞬間的にすごいエネルギーを出すわけですから。 - 榎本
- そうです。だからキャプチャーに参加しているメンバーは、
制作だけではなく、自分たちの動きが、自分たちのつくっている
サッカーゲームに入っているんです。 - 岩田
- それは違うモチベーションになりますね。
わたしは、机に座っていることの多い仕事でも
ゲーム開発の現場はけっこう体育会系だと思っているんです。
『マリオ』(※6)や『ゼルダ』(※7)のチームも同様で、
お客さんが失敗したら何度もチャレンジをうながすあたりの考え方も
体育会系そのものだな、と思うんです。
でも『ウイイレ』チームは実際に体を動かしているところが、
もっと体育会系ですね(笑)。
『マリオ』=『スーパーマリオブラザーズ』シリーズ。1985年9月に、ファミリーコンピュータ用ソフトとして1作目が発売された。
『ゼルダ』=『ゼルダの伝説』シリーズ。1986年2月に、ファミリーコンピュータ ディスクシステム用ソフトとして1作目が発売された。
- 榎本
- まあ、そういうふうにやらないと、ゲームに画像を入れてみて
思いどおりの動きではなかった場合、
「明日の朝からもう一度撮影するから」という
スピード感が出なかったんです。
- 岩田
- AIで再現したい動きを撮影して、ゲームに入れて確認して、
つながりが悪ければもう1回撮影して・・・というサイクルを
1年間でものすごい量をこなしてきたことも、
『ウイイレ』が短期間でこれほど進歩している
理由のひとつなんでしょうね。
みなさん、サッカーに詳しくなるんじゃないですか? - 榎本
- はい。はじめたころはサッカーを知らない人もいましたが、
いまはライフワーク的に、自宅に帰っても普通に試合を見ています。
そういう人たちでないと、ファンのみなさんが喜ぶシーンを
つくれませんから。 - 岩田
- AIの原理を考えている人は、プレイヤーが何を考えているか、
どこで判断をしているのかを、ものすごく考えますよね。
サッカーゲームづくりを極めていくと、試合の見え方が変わりませんか? - 榎本
- ええ、変わります。
- 岩田
- きっと、試合を見るのがより面白くなるんでしょうね。
- 榎本
- 試合を見ていて次のプレーを予測するんですが、
それが裏切られると、まだまだ可能性があるんだなと感じます。
「この選手はいままで見たことのないことをやるな・・・」とか。 - 岩田
- 時代とともに、サッカーの質も変わりますよね。
新しい選手が登場して、新しいことができるようになり、
新たな戦術が発明されるとサッカーの流れが変わると思うんですが、
そういうこともいち早くわかるんじゃないでしょうか。 - 榎本
- そうですね。戦術について言えば、
たとえばゾーンプレス(※8)は
ある選手を攻略するために生まれた戦術でしたけれど、
じつはすべての選手に有効だと、どこかで気づくわけです。
ゾーンプレス=サッカーにおけるディフェンスの戦術のひとつ。
- 岩田
- そういう歴史があったんですね。
- 榎本
- はい。そうやってスタンダードになっていきます。
いまではもう、当たり前な戦術になりましたけどね。