『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第3回:『ウイニングイレブン 3DSoccer』
3. サッカーゲームのイノベーション
- 岩田
- サッカーゲームがどんどん進化するなか、
Wiiで『プレーメーカー』(※9)が生まれました。
これはボールを持っているプレイヤーの操作が中心だった
サッカーゲームを、どう変えていくかという
大きなチャレンジだったと思うんです。
だから『プレーメーカー』は新しい発明であり、
新しい流れをつくられたと思うんですが、
榎本さんはどのように考えていましたか?
『プレーメーカー』=『ウイニングイレブン プレーメーカー』シリーズ。2008年2月、Wii用ソフト『ウイニングイレブン プレーメーカー2008』が1作目として発売。Wiiリモコンの機能を使い、ボールを持っている選手とは別の選手に指示を出したり、スペースへ走り込ませたりできる。
- 榎本
- キッカケは、当時の『ウイイレ』のAIに
満足していなかったことなんです。
そこでいままでつくってきた『ウイイレ』の
できないことをリストアップして、新たな進化形として
チャレンジするところからスタートしました。 - 岩田
- いわば、従来の『ウイイレ』に対する挑戦状だったんですね。
年々よくはなっていくけれど、どこかでそれをやらないと、
超えられない壁があると感じたんでしょうか。 - 榎本
- そうです。当時のAIでは、理想的な場所にパスを出したいと
イメージしても、選手がいないんですよ。 - 岩田
- 多分、『プレーメーカー』以前のサッカーゲームでは、
スペースにパスを出して、そこに選手が走って・・・ということは
なかなか起こりえないですよね。 - 榎本
- たまたまAIの選手が来ているときはあるんですけど、
意図してやっているわけじゃないので。
既存のコントローラでチャレンジしても難しかったんです。 - 岩田
- 榎本さんがそういうことを考えておられたタイミングで
「ココ!」って画面上の場所を自由に指定できる
Wiiリモコンが登場したんですね。
ただ、実績もあって慣れている開発の人たちが
方向転換することは、とても大変だと思うんですよ。 - 榎本
- それはもう、大変でした。
「いままでの作品を否定するのか」とも言われましたから・・・。
でも決してそういうことではなく、『ウイイレ』には従来とは別の、
新しい進化の道もあるんじゃないか、ということなんです。
それがWiiの入力装置との出会いによってイメージできました。
- 岩田
- Wiiなら新しい操作体系がつくれると感じたからこそ、
「『ウイイレ』の将来に必ずプラスの影響があるはずだ」、
「トライする価値がある」と考えたんですね。 - 榎本
- そうです。
- 岩田
- それは、制作全体を俯瞰(ふかん)する役割の
榎本さんしかできないことですね。
人間は変わることに不安と抵抗があって当たり前ですし、
新しすぎることに対しては「無理だ」とさえ言います。
それでもチャレンジする決断をしたのは、どうしてなんですか? - 榎本
- やはり現行のAIでは、そのシステムを実現できなかったんです。
だから刺激を与えるためにWiiのチームをつくって、
既存のチームにもっとダイナミックな変化を求めたわけです。 - 岩田
- その意図は何年後かに、自社だけでなく、
世のなかのサッカーゲーム全体に、影響を与えた気がします。
そうすることが局面を変えると、確信があったんですね。 - 榎本
- そうです。さらに上をめざすには変化が必要なんです。
「われわれの最終目標はスタジアムで起こることすべてを
再現すること」なのに、こんなところで停滞してるわけには
いかないんじゃないかと。 - 岩田
- 榎本さんが『プレーメーカー』でされたチャレンジは、
サッカーゲームにとってのイノベーションだと感じています。
イノベーションは、一般的には「技術革新」と訳されますけれど、
本当は、世のなかの大多数の人が
「常識で考えて不可能に決まっている」と思っていたことを実現して、
いわば、不可能だったことを可能にして、
価値のある変化だったと認めてもらったものが、
あとづけでイノベーションと呼ばれていると思うんです。 - 榎本
- はい。
- 岩田
- ところで、優秀なサッカー選手は「まるで空に目があるようだ、
なんであそこにパスを出せたんだ?」とよく言われていますよね。
それが『プレーメーカー』の変化につながる気がするんですが、
AIを変えるということは、より視野の広いサッカー選手に
したいというお考えでもあったんでしょうか? - 榎本
- そうです。視野の広いサッカー選手は、
本当に一瞬だけ顔を動かして空間を見ているんです。 - 岩田
- 一瞬だけ見ることで、そのボールがどうなるか、
その後の何人ものプレイヤーの動きがどうなるか、
頭のなかで全部展開しているということですね。
- 榎本
- そういうことです。やはり僕らがつくるゲームでも、
顔を向けないでパスを出すことはありません。
そういうところの、ちょっとしたこだわりですよね。
リプレイで見ると、少しだけ顔が動いてからパスを出すんです。
そういうディテールも含めて、スタジアムで起きていることなので。 - 岩田
- なるほど。スタジアムで起きていることを
すべて再現することの本気が、ものすごく伝わってきますね。 - 榎本
- でも、われわれが最終目標にいったとき、
サッカーはまた新しく変わっていますから・・・。 - 岩田
- だから挑戦はおわらないんですね、きっと。
- 榎本
- ええ、そう思います。
そうなってもらわないと、仕事がなくなっちゃいますから(笑)。