『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第4回:『リッジレーサー3D』
5. レースゲームの原点として
- 岩田
- さて、すれちがい通信で交換したゴーストとの対戦が楽しめて、
ボリューム感もたっぷりになった『リッジレーサー3D』ですが、
最初に発表されたのは2010年のE3(※17)でしたよね。 - 坂上
- はい。
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。
- 岩田
- そこで、ちょっとストレートな言い方になりますが、
最初に発表されたスクリーンショットを見て、
実は「がっかりした」という人もいるように感じていて、
わたしも「これはどうも誤解されてるみたいだぞ」と思ったんです。 - 坂上
- そうですね。
- 岩田
- ところが、開発の後半になればなるほど、
ビジュアルがどんどん強化されてきて、
「こんなにできるのなら、最初からこれを出せばいいのに」と、
わたしも言いたいくらいに感じてしまったんです(笑)。
こういったことは今回の3DS版だけでなく、シリーズを通じて、
ほかのハードで出たときにもわりと感じていることなんですけど、
『リッジレーサー』のチームというのは
後半の追い込みがいつもすごいですよね。
なぜ、そうなるんですか? - 坂上
- えー、ぶっちゃけ言いますと、現場のスタッフは
マジメというか、ハッタリが苦手なんです。 - 岩田
- 実現できないかもしれないスクリーンショットは
出したくない人の集まりということですか? - 坂上
- そうなんです。
- 岩田
- あー、正直なんですね(笑)。
- 坂上
- そう、正直すぎて、僕も怒るくらいなんです。
『リッジレーサー』のチームというのは、
開発の過程のものを、そのまま出したがる傾向にあるんです。
まるで進捗報告のように(笑)。 - 岩田
- あははは(笑)。
まるで業務報告のような感じでスクリーンショットを出されるんですね。
でも、終盤の爆発力は本当にすごいと思うんですよ。
短期間でこれほどのことができるのはどうしてなんですか? - 坂上
- 『リッジレーサー』の開発というのは、
まず最初に、基本となるゲームシステムの環境をしっかりつくってから、
そのあとで、「これができる」「これは入れよう」
みたいなつくり方をしているんです。
その一方で、ビジュアルなどの準備も同時に進めていて、
終盤になってから、それらを一斉に
ガーッとぶち込んでいくようにしているんです。 - 岩田
- でも、そのようなつくり方をしていると、
プロデューサーとしては不安になったりしませんか? - 坂上
- もちろん心配です。
そこで「どうなの・・・?」と聞くと、
「最後の3日間を見てください」とか言われるんです。
そう言われても「3日間でどうにかなるわけないじゃないか!」
とは思うんですけど、実際に3日たったら
明らかに違うものになったりするようなことが
けっこう起こったりするんですね。 - 岩田
- 業務部の人たちからも聞いているんですが、
ショーの直前とかも、わりとそうみたいですね。 - 坂上
- はい、そのとおりです(笑)。
- 岩田
- そのつくり方が
『リッジレーサー』チームの個性なんですね(笑)。
さて、そうやって終盤にガーッと詰め込まれた
『リッジレーサー3D』ですが、
お客さんに対して、どうオススメされますか? - 坂上
- 今回はある意味、初心に返って、
『リッジレーサー3D』を開発しました。 - 岩田
- 「初心」というのは、どういう意味ですか?
- 坂上
- 先ほども言いましたけど
“疾走感”にのめり込めるものをとことん追求しようと。
レースゲームはほかにもいろいろ出ていますけど、
ドライブゲームだったり、
シミュレーションになっているゲームがほとんどで、
それはそれでもちろん魅力的なんですけど・・・。 - 岩田
- 正確な物理シミュレーションではなく、
『リッジレーサー』は“疾走感”を第一に考えているので、
ある意味、そこは開き直って、
リアルなところをあえてデフォルメしたり、
「のめり込めるもの」「これが面白い」
という部分を強調しているんですね。 - 坂上
- はい。もともと『リッジレーサー』は
アーケードからはじまったゲームですし、
これがレースゲームの原点だと思っているんです。
レースゲームの楽しい部分は、
全部ここに詰め込んだつもりですので、
いわゆる正真正銘のレースゲームの根本にある
スピーディな“疾走感”を
たっぷり楽しんでもらいたい、という気持ちです。
あとは、すれちがい通信で入手したゴーストと自分のペースで対戦して、
ポイントもしっかりためてください。
実際に、社内ですれちがい通信のテストをしたんですけど、
3DSの緑のランプが点灯すると、すごくうれしいんですよね。
どうしてそんなにうれしいんだろうと思うくらいに(笑)。
- 岩田
- たぶん、向こうに顔の見えない人がいて、
その人と自分が本当にあるとき、同じ場所にいたんだ、
ということに対してワクワクするんじゃないでしょうか。 - 坂上
- そうですね。ホントにそう思います。
しかも、その同じ場所にいた人が
自分と同じものを嗜好しているというのがわかるというか、
そこにいるとわかるだけでもうれしいですよね。 - 岩田
- そうですね。
- 坂上
- あと、言おうか言うまいか、
ちょっと迷った話がありまして・・・。 - 岩田
- はい、どんなことですか?
- 坂上
- 少し前の話なんですけど、
『アイドルマスター』の音楽関係の人と話をしていて、
3DSの『リッジレーサー』の話になったんです。
すると、その人は「ぜひ買います」と即答するくらいの
ファンだったんですね。
そこで、「どこがいいんですか?」と聞いたら、
「『リッジレーサー』って、目を閉じて遊べるんです」
と言うんです。 - 岩田
- 目を閉じて遊ぶんですか?
- 坂上
- はい。やっぱり音楽関係の人なので、
何周かやっているうちに、
コースをBGMの音で覚えるそうなんです。 - 岩田
- へえ~。
- 坂上
- この音が鳴ったら、コーナーだとか、
それはもう、かなり極限の遊び方なんですけど、
そういうこともできちゃうゲームなんです。
ただ、「目を閉じても遊べます」と言うと、
せっかくの3Dが関係ないしと思いまして(笑)。 - 岩田
- あははは(笑)。
だから言うのを迷われていたんですね。 - 坂上
- そうなんです。
なので、最初は3Dの世界を堪能して、
そのあとで、そういう遊びにもチャレンジしていただければと。 - 岩田
- 3Dで「クルマがそこにある」という存在感も
感じてほしいですしね。 - 坂上
- はい。
- 岩田
- わたしは今日、坂上さんから話をお訊きして、
すごくスッキリしました。
なぜ、『リッジレーサー』と『アイドルマスター』のプロデューサーが
同じ人につとまるのかという謎が解けましたので(笑)。 - 坂上
- ありがとうございます(笑)。
実は・・・僕が高校生のとき
マンガ家をめざしていたこともあったんです。
それで、アニメスタジオで
アルバイトをしていたこともありまして、
あのようなアニメ調のゲームをつくることになったのも、
そのことがたぶん影響しているのではと・・・。 - 岩田
- 全部つながってますね。
人生に無駄なしですね(笑)。
- 坂上
- そうですね(笑)。
当時は無駄ばっかりだったんですけど・・・。 - 岩田
- でも、のちのち役立つわけじゃないですか。
- 坂上
- すごい時間がかかりましたけどね(笑)。
- 岩田
- 今日は楽しいお話をありがとうございました。
- 坂上
- こちらこそありがとうございました。