『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第5回:『スーパーストリートファイターIV 3D EDITION』
6. 誰かが乱入
- 岩田
- さて、ようやくニンテンドー3DSの話をお訊きします(笑)。
はじめて3DSをご覧になったとき、どういう印象でしたか? - 小野
- じつは最初に見せていただいたとき、僕は参加してなかったんです。
てんやわんやしていた時期でしたので(笑)。
ちょうど同時期に、『ストリートファイター』チームはiPhoneアプリで
『IV』の配信準備をしていたんです。
気軽にできる、というまったく同じ意図で。
でもまだリーチが届かず、何か伝えたいことがある。
そんなとき、ようやく3DSを見せてもらって「なるほど」と。
それで「これはイケる」とマッチしたんですね。 - 岩田
- スタートが早かったわけじゃないのに、
ハードとの同時発売をめざしたというところに、気合いを感じました。 - 小野
- たしか、任天堂さんへ
『スーパーストリートファイターIV』の参入宣言をしたのは
2010年のE3(※29)の2~3週前でした(笑)。
「よし!」と思い立って「まずE3に出すつもりでつくろう」と。
3DSは、3D表現だけではないところに惹かれたんです。
それはたとえば通信です。
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。
- 岩田
- 先ほどおっしゃった、コミュニティを広げたかったことと、
3DSでやれることの相性がすごくよかったんですね。
- 小野
- はい。3Dは興味を惹くための、ひとつの玄関だと感じます。
でも僕はそこ以上に、3DSにはいろいろな機能が充実していて、
多くのソリューションが手に入ることによって、ゲームを通じて
いろいろな人と対話ができそうだと感じたんです。
それで対話をするなら、やっぱり『ストリートファイター』で、
いろいろな間口での対話を実現させてみたいと思いました。 - 岩田
- はい。
- 小野
- 3DSなら、通常の通信対戦がもっと快適にできるし、
手のひらの上で、誰とでも、いつでも、本当にサッとできるんです。
すれちがい通信ならもっと手軽にできるということで、
単純に格闘させるのではなく“フィギュア対戦”(※30)
という違う入り口をつくってみました。
どんなところでもこの3DSを使うことで、
間口が広がっていくことを訴えたかったんです。
“フィギュア対戦”=ニンテンドー3DSのすれちがい通信対戦機能で、フィギュア同士のバトルが展開。
- 岩田
- 3D表示で立体的に見えるという魅力だけでなく、
なるべく話題にしてもらえるポイントをつくることで、
『ストリートファイター』復活プロジェクトの流れのなかに、
すごく自然に入り込んだんですね。
今回、カプコンさんチームの通信仕様への意気込みが熱く、
任天堂の技術スタッフも、それに応えねばと、
すごくチャレンジングで面白い仕事だったようです。 - 小野
- 僕もワクワクしたんですよ。
未完成のものに対して、どこまで追求できるのか。 - 岩田
- また、つめ込み根性が出ましたね(笑)。
- 小野
- 先日、ギリギリになって「3DS内蔵の歩数記録と連動できます」と
言われたんですけど、「早く言ってよ~」と思いつつもですね、
早速、フィギュアを買うコインにエクスチェンジさせました(笑)。 - 岩田
- 小野さんはプログラムを知っているから、
限られた日程のなかで、どこまでが可能かが判断できるでしょう。 - 小野
- はい、そこはリスクにならないんです。
まあ、本当にドキドキしたのはですね、
任天堂さんのハード部門の方と、OSの部門の方と、僕らのところでの、
「本当はこうなるはずだけど、わからない!」っていう事態が
うごめいたときで、その瞬間、僕は
「来た来た来た、これが開発よー!」って心で叫びました(笑)。
- 岩田
- それが、ハードとの同時発売ソフトの醍醐味ですよね。
- 小野
- そうなんです。いまでこそ言えることですけどね(笑)。
そこをワクワクするスタッフたちとつくれて、よかったです。 - 岩田
- 大変だったし、修羅場だったけど、そのワクワクを共有して、
いっしょにつくれたところは、手応えがあって面白かったですね。 - 小野
- 3DSがいかに楽しいのか、いかに可能性があるのか、
社内のスタッフにも、社外にも感じてもらいたいんです。
もっと言うと、お客さんたちに新しい経験ができることを
感じてもらうためには、この機能をただ使うのではなく、
どこに使わせたいかっていうところまで、
スタッフに考え抜いてほしいと思っていて。 - 岩田
- 3DSのさまざまな機能を、ゲームのどこに使ったら
お客さんが受け取ったときにワクワクするか、ということですか? - 小野
- そうです。たとえば、コインのエクスチェンジ先がゲームのなかと
リンクしているより、歩数記録とリンクしているほうが、
カジュアルに3DSを持ち歩く方たちには響くと思うんです。
その方たちにとっては、ゲーム内の何かがもらえるよりも、
パッと見て、すぐ結果がわかるものであるほうがいいんです。 - 岩田
- それがまた、明日もいろいろなところをウロウロして、
たくさんすれちがうぞっていう動機になりますね。 - 小野
- そうなんです。だからそこをきちんと見ながらパスを送ることに関して、
スタッフもいい経験ができたと思います。 - 岩田
- 通勤や通学で毎日同じバスに乗ると、ときどきすれちがう人がいて、
その人と、すれちがい通信機能でフィギュア対戦ができますよね。
いったいどういうことが起こるのか、いまからワクワクしますね。 - 小野
- たとえば “アーケード待ちうけ”(※31)をプレイ中、
電車やバスのなかで誰かが乱入してきて、
「誰かがやってる!」というふうにコミュニティが
生まれていくことを、僕は非常に楽しみにしています。
今回、より多くの人にこの可能性を知ってもらうチャンスが、
この『スーパーストリートファイターIV 3D EDITION』
だと思っています。はい、この長時間の対談の中で
やっとコマーシャルできました(笑)。
“アーケード待ちうけ”=ひとりプレイしながら、ローカル通信やインターネット通信による対戦相手の乱入を待つことができる。
- 岩田
- ほかに何か言い忘れていることはありませんか?
- 小野
- むしろ、今日は話しすぎて、あふれているような(笑)。
- 岩田
- いえいえ(笑)。今日はありがとうございました。
- 小野
- ありがとうございました。
あの、失礼を承知で・・・この『バルーンファイト』(※32)のパッケージに、
岩田さんのサインをいただいてもいいですか? - 一同
- (笑)
『バルーンファイト』=1985年1月にファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。岩田がプログラムを担当した。