『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第6回:『Project ラブプラス for Nintendo 3DS(仮称)』
3. 天職だった
- 岩田
- 『ガールズサイド』の制作人数はどれくらいでしたか?
- 内田
- 内部のメンバーはサウンドスタッフを入れて数名でした。
- 岩田
- ええっ? たった数名で絵を描いて、音楽もつくって、
シナリオも書いていたんですか? - 内田
- はい。コアとなる部分は自分たちでやろうと決めていましたので。
量産作業になったところで、外部の方にやっていただきました。
シナリオも7割方、自分で書いちゃった記憶がありますね。 - 岩田
- 結果的に「女性向けの『ときメモ』はうまくいくはずはない」
という偏見は、すぐになくなったんですか? - 内田
- はい。思っていたより、はるかにヒットしたんです。
全国的に売り切れてしまって、
2週間以上在庫がない状態がつづきました。
当時、ネットの掲示板でも話題になっていたんですが、
『ときメモ』をプレイされていた男性のお客さんも
やられていたようでした。 - 岩田
- えっ、男性にも遊ばれていたんですか?
どういう気持ちでやるんでしょうね・・・? - 内田
- 実際、プレイヤーからは主人公の女の子は見えないんですが、
“主人公の女の子を育てていくゲーム”
というアプローチでやっていただいていたのかもしれないですね。 - 岩田
- ああー、そういうことですか。
- 内田
- でも、もちろん、圧倒的に女性の方にプレイしていただいたんです。
お客さんも最初は半信半疑で遊ばれていたと思いますが、
「かわいい」とか、「泣ける」とか、
「エンディングで号泣しちゃった・・・」っていうのが
ネットの力が強まっている時代でもありましたので、
瞬く間に口コミでバーッと広がりました。 - 岩田
- 時代とも相性がよかったんですね。
1年半という期間に、逆風と絶賛の
両方を味わうような体験ですね。 - 内田
- ええ、本当にそうなんです。
それが僕のゲームデザイナーとしての成功体験でしたので、
どんなにつらくてもお客さんに「泣ける」とか「かわいい」とか
言っていただいた瞬間に、全部むくわれるんですよ。
- 岩田
- そういうセンサーがあるのも、“天職”なんだろうと思いますね。
ゲームをつくるときは、いわば自分のエネルギーを
どんどん放出している状態ですよね。
一方でお客さんが喜んでくれているのが伝わると、
たまらなくうれしい気持ちになって
その気持ちがエネルギーとなって充電できるんです。 - 内田
- ひとつ、僕のつくり手として原体験となったことがあるんですが、
僕が最初に担当したゲームのプログラムは
『がんばれゴエモン』(※12)というシリーズソフトの1作で、
発売日にお店へ見に行ったんですね。
そしたら小学生くらいの兄弟が、お年玉のぽち袋をにぎりしめて、
『ゴエモン』ともう1本の別のソフトを見比べながら、
どっちを買おうか10分くらい、ふたりで話し合っているんですよ。
『がんばれゴエモン』=1986年にファミコン用ソフトとして1作目が発売された。
- 岩田
- どっちかひとつしか、買えないんですね。
- 内田
- そうなんです。
結局、『ゴエモン』を買ってくれたんですが、
そのときうれしかったのと同時に、ものすごく悔しかったんです。
なぜなら、あの兄弟のお年玉は、年間のおこづかいのなかで
ものすごい割合を占めるじゃないですか。
それを『ゴエモン』に投資してくれたんですね。
でも僕は当時、正直言って、自分の力を
100%出し切れていなかったように思うんです。
なぜもっとやれなかったのか悔しかったんです。
そのことが、つくり手としての原体験になっていると思います。 - 岩田
- なるほど。
- 内田
- そういうこともありまして、『ガールズサイド』は
自分が最初にデザインするゲームということで、
「ここで死ぬ気でやらなかったらダメだ」という思いがありました。
だからネットの掲示板などでほめられているのを見たとき、
本当に救われた気がしました。 - 岩田
- ありえないと思ったことがじつは可能だったことに、
運命的なものを感じずにいられませんよね。
内田さんのいろいろな過去の体験と趣向が
組み合わさって、掛け算になってできた作品なんですね。
『ガールズサイド』が認められてからはどうでしたか? - 内田
- 次に考えたのが『ランブルローズ』(※13)というタイトルでした。
それでもそこそこ評価をいただけて、
そのころから、社内で「新しいことを考えさせると面白いヤツ」
という位置づけになりました(笑)。
『ランブルローズ』=2005年に発売された女子プロレスゲーム。
- 岩田
- 『ランブルローズ』も強烈な個性があったので、よく覚えています。
それにしても、人の記憶に残る新しいものを複数つくっている
ということは、やはり“天職”なんでしょうね。
- 内田
- ありがとうございます。
「これ面白いから、次もつくってよ」と
言っていただけるゲームをつくれることは、
本当に幸せなことだなと思っています。