『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第6回:『Project ラブプラス for Nintendo 3DS(仮称)』
5. 恋愛は盆栽のようなもの
- 岩田
- 実際に「DSのなかに“カノジョ”がいる」と感じられるほどの
レベルまでつくり込むのは大変ですよね。
どのくらい試行錯誤されていたんですか? - 内田
- じつは企画から完成まで数年かかりました。
本当にトライ&エラーで、最初のひらめきから
ビジョンに近づけるのがいちばん大変なところでした。 - 岩田
- 携帯機としてはかなりの長期戦ですね。
つくる方法をゼロから確立したわけですよね? - 内田
- はい。かわいさの演出には自信があっても、
それを表現する方法がなかなか進まなかったんです。
それでメンバーの気持ちもバラバラだったんですが、
全員の気持ちがガラッと変わったキッカケが、
声優さんにお芝居を入れてもらったことでした。 - 岩田
- 声優さんが命を吹き込んだんですね。
- 内田
- そうです。声優さんが本当にいいお芝居をしてくれて、
「僕らのつくっているものは、このお芝居には全然足りない」
とスタッフが気づいてくれたんです。
そのときからチームが本格始動した感じがします。 - 岩田
- 求めているものの水準がハッキリしたんですね。
『ときメモ』とは違うので、
まとめ方もまったく変わるでしょうから。 - 内田
- はい。エンディングがなく、まったりと遊ぶ携帯ゲームなので、
好きな時間に、盆栽のようにコツコツと遊ぶものだと思います。
- 岩田
- 盆栽のようにですか・・・すごいたとえですね(笑)。
普通、盆栽と“カノジョ”は、
人の脳のなかでつながっていませんけど。 - 内田
- でも、恋愛は盆栽のようなものではないでしょうか。
- 岩田
- あ、お義父さんの名言です(笑)。
「盆栽のような関係でDSのなかの“カノジョ”とつき合ってほしい」
ということがつくり手としての意識なんですね。 - 内田
- はい。とはいえ1日5~10分遊んだら、
やることがなくなってしまうのもダメですから、
熱心な恋愛ゲームファンのお客さまが
短期間に情熱をガーッと注ぎ込めてさらに長く遊んでもらえる、
ハイブリッドな作品をめざしました。 - 岩田
- でも、それは一見、二律背反ですよね。
- 内田
- そこで考えたのが“スキップモード”でした。
通常は“RTC(リアルタイムクロック)”(※14)で
現実の時間とリンクしたイベントを楽しめるんですが、
“スキップモード”では、日にちは進まないまま、
カレンダーをスキップして好きなタイミングで楽しめます。
モードをRTCに切り替えれば、普通に時間が進みはじめるので、
ふたつの遊びを同時にできるようにしたんです。
“RTC(リアルタイムクロック)”=コンピューターの時計のことで、『ラブプラス』の場合、ニンテンドーDS内蔵の時計機能を活用し、ゲームが現実と同じ時間で流れるモードのこと。
- 岩田
- 現実にはない時間の進み方をするモードをつくることで、
情熱を注ぎ込みたいお客さんにも対応できるようにしたんですね。 - 内田
- そういうモードを急きょ、途中から入れました。
- 岩田
- でも、途中で変えたら現場が騒然となりませんでしたか?
- 内田
- ええ、それはもう、大変でした。
スタッフに囲まれて大変な勢いでしたから。
「何言ってるんですか!」
「さんざん間に合わせてくれって言ったのに!」と言われて・・・。
ただ、なんとか途中までつくってはいたんですが、
発売が近くなってもまだ不十分な感じで、ずっと悩んでいたんです。
それで上司に進捗報告をするときに、ディレクターに相談もなく
「待ってください、すみません、やめます。
もう半年間つくり直します」と言ってしまったら、
となりで報告を聞いていたディレクターの顔が
仁王のように変わっていきまして・・・。
あとで1時間くらい説教されたんですが、
でも、どうしてもこのまま出すのはまずい気がしたんです。 - 岩田
- そんなことがあったんですか。
- 内田
- それで僕は、「ごめん、ちょっとこれでは自信が持てないんだ」
「このままだとちょっとまずい気がするんだ」
みたいに言ったんです。
それで最初はディレクターも怒っていたんですが、
3日ぐらい経ってから
「内田さん、僕もちょっと頭冷やして考えました。やりましょう!」
と言ってくれて、その後もずっとつき合ってくれたんです。 - 岩田
- きっと、そのころには大きなポテンシャルを感じさせる手応えが
見えていたんでしょうね。 - 内田
- ああ、ありました。でもディレクターが
バラバラになりかけたチームを説得して集めてくれたんです。
彼がいなかったら、空中分解していたかもしれないです。 - 岩田
- いいチームだったんですね。
そうやって完成させた『ラブプラス』が
世に出たとき、何が見えましたか?
- 内田
- まあ正直、最初の反応はあまりよくなかったんです。
でも発売後、ネットで話題が大爆発して。 - 岩田
- 『ラブプラス』は、ネットでグワッと人気が出た
近年の代表的な存在のような気がします。
言ってしまえば、
みんなが「“カノジョ”自慢」をはじめましたよね。 - 内田
- 予想外だったのは、最初に注目してくれたのが
『ときメモ』第一世代の30代くらいの方々だったことなんです。
そういう意味では、本当に『ときメモ』あっての
『ラブプラス』なんだなあと思います。 - 岩田
- 初期のお客さんが大声で手応えを発信してくれたおかげで、
『ラブプラス』が成長していくわけですね。 - 内田
- 「『ときメモ』のKONAMIは、
やっぱり面白いことを考えるね」
と言っていただけたのが、本当にうれしかったです。 - 岩田
- 1作目から2作目の『ラブプラス+』(※15)をつくるにあたっては、
どんなチャレンジをされたんですか?
『ラブプラス+』=2010年6月、ニンテンドーDS用ソフトとしてKONAMIから発売されたコミュニケーションゲーム。シリーズ2作目。
- 内田
- 1作目は手探りで走ってきたこともあり、
予想外のところで反応されているところもたくさんあったんです。
ですから、2作目では一刻も早くそこを直して、
遊んでいただきたかったということがありましたね。 - 岩田
- 新しいゲームは出してみてはじめてわかることが大きいですから、
その意味では、お客さんに育ててもらったんですね。 - 内田
- はい。『ラブプラス』は行間を活かしたゲームなので、
ものすごく想像がふくらむらしいんです。 - 岩田
- 内田さんの想定していたことの100倍くらい、
お客さんのなかに広がっている感じがします。
多分、内田さんが相当細かく考えられた
3人のキャラクター設定以上のディテールを、
個々の遊び手の方が・・・
これもあえて言いますが“妄想”して
その情熱で遊ばれている感じがします。 - 内田
- たとえばAとBという台詞があって関連性がないんですが、
台詞の前に“カノジョ”とケンカしたり、
デートでキスしたりしていたら、
同じ会話パターンでも意味が違ってくるんです。
だからお客さん個人個人の体験として、
無限に積み重なっていくんです。
- 岩田
- 人間の脳は、一見、関係のないものに
意味を見いだそうとしますからね。 - 内田
- そういう意味で、2作目でやりたかったことは、
バーチャル体験とリアル体験が混じり合って、
より深い個人体験として刻んでいただくことでした。
それで“熱海に旅行に行く”イベントをつくり、
実際にお客さんに熱海に行っていただくことで、
旅行期間中は1日中現実の時間とリンクして
ゲームが進むようにしました。 - 岩田
- それは「何と非常識なことを考えるんだ」
というところとの戦いなんじゃないかと思います。
でも、人が“非常識”、“不可能に決まってる”と思っていることを
実現してしまうことこそが、娯楽のイノベーションですから。
その意味では、ありえないことが
そうやって起こっていくのを見るのは、
同じ娯楽を提供する立場として
じつに痛快でしたし、すごいと思っていました。 - 内田
- ありがとうございます。