『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第6回:『Project ラブプラス for Nintendo 3DS(仮称)』
6. 「今回の“カノジョ”は、カレシを認識するんです」
- 岩田
- いま、内田さんはニンテンドー3DS用ソフトとして
『Project ラブプラス for Nintendo 3DS(仮称)』(※16)を
制作されていますが、内田さんが
3DSをはじめて見たとき、どう思われましたか?
『Project ラブプラス for Nintendo 3DS(仮称)』=ニンテンドー3DS用ソフトとして制作中のコミュニケーションゲーム。シリーズ最新作。
- 内田
- “裸眼立体視”っていうお話をうかがったときに、
「え? どういうこと? 意味わかんない」ってはじめは思ったんですが、
実際のものを見せていただいたとき、ものすごく感動しました。
そうしたらその後、E3(※17)で3DSの一報を聞いたお客さんたちが、
「お義父さんは(3DSで)『ラブプラス』を当然考えているだろう」と(笑)。
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。ここでは2010年6月に開催されたE3を指す。
- 岩田
- お義父さんとしても考えざるを得ない、ということですね。
でも『ラブプラス』にとってひとつの悩みは、
立体視は横方向に画面を置かないと使えないので、
いわゆる“ラブプラス持ち”(※18)ができないんですよね。
ラブプラス持ち=本体を縦方向にする持ち方。
- 内田
- はい。立体視に関しては確かにそうですが、
3DS本体の“ジャイロセンサー”(※19)を使えば
横持ちと縦持ちの切り替えができますから、
立体視を補って余りある魅力が出るはずなんです。
立体で見たいときは横持ちで、
大きく見たいときには縦持ちで、と好き勝手にできるのも
ジャイロセンサーならではの特徴のひとつなんですよね。
いま開発の真っ最中ですが、ジャイロセンサーだと
ちょっとこう・・・ついのぞき込んでみたくなったりして、
楽しいんですよね(笑)。 - 岩田
- “帰ってこられなくなる度”が増していますね(笑)。
- 内田
- つまり、“ジャイロセンサー”と聞いて考えたときに
“カノジョ”はそこにいるんだから、「自分が動けばいいじゃない!」、
後ろ姿を見たいんだったら、「自分が回っちゃえ!」ということなんです(笑)。
いま、そういうのを試しているんですけど、本当に面白いんです。
ジャイロセンサー=物の角度や回転速度を検出し、姿勢制御などに利用される計測器のこと。ちなみにジャイロ(gyro)は「輪」や「回転」の意味。
- 岩田
- それからAR(※20)技術に
面白そうな可能性が秘められていますね。
AR=Augmented Reality(拡張現実)の略。現実の映像に仮想の情報を重ね合わせる技術。
- 内田
- 3DSにカメラが搭載されているので、
『ラブプラス』の“カノジョ”とお客さんが
記念撮影をできるのは、本当にありがたいです。
それにしても立体写真の面白さは、本当に驚きますね。 - 岩田
- 立体視とAR技術が組み合わさった
何ともいえない存在感がありますよね。 - 内田
- 静止した3Dの世界に自分が入る奇妙さもありますよね。
まるで時間を止めるSFの空間に、
自分が紛れ込んだイメージがあると思うんです。
世界が静止していても、自分だけが動ける奇妙さというか・・・。
いわば、異次元空間をのぞき見てしまったような
怖さがあるように感じます。 - 岩田
- ありえないものをのぞいているから、
不思議な感じになるんですかね。 - 内田
- それから『nintendogs』(※21)でも、
ワンちゃんがパーッと走ってきてモニターに手をかけたとき、
「あっ、ここの空間にいるんだ」ってイメージが
端的に伝わってきたんです。
完全にディスプレイだったモニターが
あっちとこっちの世界を隔てるガラスになった感じがしました。
『nintendogs』=『nintendogs + cats』。2011年2月26日、ニンテンドー3DS用ソフトとして、3DS本体と同日に発売されたコミュニケーションソフト。
- 岩田
- 別の世界とこの窓がつながっている感じですよね。
その感覚を“どこでもドア”(※22)と表現された方がいるんですけど、
わたしも「ああ、なるほどなあ」と思いました。
ところで『ときめきメモリアル』の『ガールズサイド』をつくった内田さんは、
『ラブプラス』の『ガールズサイド』をつくらないんですか?
どこでもドア=藤子・F・不二雄の漫画『ドラえもん』に登場する秘密道具。ドアを開けるだけで行きたい場所に行ける。
- 内田
- えー・・・じつは、『ガールズサイド』のお客さんから、
ものすごく聞かれるんです(笑)。
どうしたらいいのか、ずっと考えていまして。
多分、単純に『ラブプラス』の性別を変えればいいわけではなく、
かといって、お客さんがおっしゃることを全部まとめても、
本当に望まれていることかといえばそうではない。 - 岩田
- おそらく“驚かないと心は動かない”ですからね。
- 内田
- 「自分が望んでいたのは、こういうことだったんだ」
という発見を提供することができないと、意味がないですからね。
それをいま研究している最中なんですが、
自分のなかでちょっと答えが見えてきたところです。 - 岩田
- おおっ、注目発言ですね。
いままでの流れからいうと、
内田さんはつくってしまうような気がします。 - 内田
- 『ラブプラス』も糧にした、
集大成としてつくることになると思います。
いままでわりとオーソドックスな恋愛ゲームを
つくってきたなか、3DSになったことで、
僕のなかでもパラダイム(概念)が大きく変わったんです。 - 岩田
- そのキッカケは何でしたか?
- 内田
- やはり、3DSのディスプレイのなかに
別の世界があるというリアリティを強烈に感じたことです。
それから、毎日いっしょに過ごしていくというところです。
この感覚を『ラブプラス』にも取り入れるつもりですので、
いままでとは全然違う作品を提供できそうな予感があります。 - 岩田
- 3DSでパワーアップした『ラブプラス』は、
いったい世の中にどんなインパクトを与えるのか。
ちょっと楽しみなような、でもやはり怖いような気持ちです(笑)。
- 内田
- 今回は、よりコミュニケーションも強化していまして、
たとえば『nintendogs』の“子犬が飼い主の顔を認識する”ように、
今回の“カノジョ”は、カレシを認識するんです。
だからカレシ以外の方が遊ぼうとしたら、
怪訝(けげん)な顔をして「どちらさまです?」みたいに言われて
プレイできないようになっています。 - 岩田
- カレシじゃないと、さわらせてもらえないんですね。
- 内田
- カレシ同士で、3DSを見せ合って
自分の“カノジョ”を紹介し合うこともできます。 - 岩田
- 内容を想像すると、結構シュールですが・・・(笑)。
- 内田
- たとえば僕が「友だちの岩田くんです」と“カノジョ”に紹介すると、
次に会ったときに“カノジョ”が「あ、久しぶり!」と言います。
しばらくすると、“カノジョ”が「岩田くん、何してるかなぁ」と
自分に話題をふってくるんです。 - 岩田
- ああー、それはすごいですね。
- 内田
- そうしてコミュニティが広がっていけばいいなと思います。
- 岩田
- リアルとバーチャルの境界がどんどん溶けていきますね。
ニンテンドー3DSはネットワークが強化されていますから、
通信でもどんどんコミュニティを広げていただきたいです。
3DSの『ラブプラス』後の世界は、どうなるんでしょうか(笑)。
完成を楽しみにしています。
今日はどうもありがとうございました。 - 内田
- どうもありがとうございました。