『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第7回:『DEAD OR ALIVE Dimensions』
3. 5秒で魅力を伝える
- 岩田
- 早矢仕さんがプロジェクトを任されてから、
これまでつくってきたものはどんな作品があって、
その時々で、どんなことを考えてこられましたか? - 早矢仕
- 当時、Team NINJAのなかでは、
もとあるゲームを移植してさらに多くの方に届けるという、
ひとつのラインを横に広げる役割が多かったんです。
といっても単なる移植ではなく、
それ単体でもきちんと価値を持たせる必要がありましたし、
遊んだことがある方にもご満足いただけるものでないといけない。
お客さんに「ここが変わったね」とわかってもらえないと、
買っていただけませんから。 - 岩田
- 「なんでここを変えちゃったんだ?」と言われてはいけないし、
「なんでここを変えていないんだ!」と言われてもいけないので。 - 早矢仕
- そうですね。
開発者として「ここを直したい」「よくしたい」と思っても、
なかなかお客さんに伝わらないところが悩みどころです。
任天堂さんの『マリオギャラクシー 2』(※10)を拝見すると、
“ヨッシーに乗れる”ということが、
『2』の絶対的なアイコンになっていますよね。 - 岩田
- 『マリオギャラクシー』(※11)から『2』になったとき、
確かに、ヨッシーに乗ったマリオが画面に登場することで、
前作と大きく違う印象になっていますね。
『マリオギャラクシー 2』=『スーパーマリオギャラクシー 2』。2010年5月にWii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
『マリオギャラクシー』=『スーパーマリオギャラクシー』。2007年11月にWii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
- 早矢仕
- 「この星のステージで遊べることが前作と違いますよ」では、
パッと見、前作の別のステージといっしょなので、
なかなかお客さんには伝わりませんからね。
『2』の出し方を見て、そんなことも参考にしています。
またそれとは別にDSソフトの『NINJA GAIDEN Dragon Sword』(※12)
というタイトルも担当したんですが、これははじめからではなく
「ちょっとうまくいっていないので何とかしてくれ」
ということで、途中から入ったんです。 - 岩田
- そういう場合、最初からやるより難易度が高いですよね。
『NINJA GAIDEN Dragon Sword』=2008年3月にニンテンドーDS用ソフトとして発売された忍者アクションゲーム。
- 早矢仕
- はい。じつは、これは僕にとって心残りのひとつなんですが・・・。
僕が入った時点で、ゲームはある程度できていたんですけど、
いまひとつ、魅力が足りないと感じたんです。
でも締め切りが迫っていたので、「タッチペンを駆使した
アクションゲーム」としての面白さだけに特化しようとしたんです。
それはある程度達成できたと思いますし、
お客さんからも評価いただきました。
でもそもそも、携帯機の遊び方は、据置機とは
ライフスタイルを含めて違うものになるはずなので、
本当は遊び方そのものを変えなければいけなかったんです。 - 岩田
- 生活のなかにゲームがどのように入るのかは、
据置機と携帯機では違っているんですよね。
基本的に、据置機はまとまった時間に
気合いを入れてテレビの前に座ってはじめるものですけど、
携帯機は持ち歩いて、空き時間にちょっと出して遊んだり、
寝る前に遊んだりといった遊び方をしますから。 - 早矢仕
- そうなんです。ですから、今回
『DEAD OR ALIVE Dimensions』を
3DSで出していくうえで、
そのときのリベンジをしてやろうという想いがありました。
今回はいちから自分で立ち上げられたので、
携帯ゲーム機の遊び方として僕が思っていたことを、
きちんと出せたかな、と思っています。 - 岩田
- 携帯機の『DEAD OR ALIVE』はこうあるべき、
と最初から考えてアプローチできたんですね。
早矢仕さんはこれまで、『NINJA GAIDEN』以外は
据置機を担当されていたんですか? - 早矢仕
- そうです。
据置機と携帯機のやり方の違いは、
頭のなかでその違いを考えながら進めてきました。 - 岩田
- ゲームの進行テンポから何から、全部変わるんですよね。
そもそもゲームの“間(ま)”が違うし、
どういうテンポで何を間に挟むべきかが変わってきますよね。 - 早矢仕
- はい。たとえば携帯機は短いテンポで
区切りを用意しないといけないものですよね。
その視点で言えば、じつは格闘ゲームは
携帯機に合っていると思うんです。 - 岩田
- もともと、アーケードで生まれた格闘ゲームというジャンルは、
短い時間で決着がつくところからスタートしていますからね。
本来は、こまぎれの時間をうまく使うことに
向いているゲームデザインのはずだということですね。 - 早矢仕
- はい。だからこそ、ぜひ3DSソフトは
『DEAD OR ALIVE』でいきたいと思っていました。 - 岩田
- Team NINJAさんにとって『DEAD OR ALIVE』という
ソフトの位置づけや、徹底的にこだわっている部分はどこですか? - 早矢仕
- じつは“5秒で魅力が伝わる格闘ゲーム”
という僕なりのコンセプトがあるんです。 - 岩田
- 5秒。勝負は5秒間なんですね。
- 早矢仕
- はい。それこそゲームセンターに置いてある場合は、
たとえば筐体の画面をパッと5秒くらい見たら、
通りすぎてしまいますよね。
僕はアーケードゲームを直接つくってはいないんですが、
たとえばキャラクターが戦闘中、
ステージから落ちたり、壁に叩きつけられたりする派手な演出が
5秒でお客さんを惹きつける。
そういう格闘ゲームを目指しているんです。
このゲームを知らない人でもパッと見て、
しかも言葉ではなく動いているもので伝わるということが、
僕らの『DEAD OR ALIVE』としてあるべき姿だと、
いつも話をしています。
- 岩田
- 5秒というのは、初期のころから使われている言葉なんですか?
- 早矢仕
- はい。『DEAD OR ALIVE』の魅力をスタッフに語るとき、
みんなが納得しやすいものとして僕が言葉にしたものです。 - 岩田
- 早矢仕さんがつくられた言葉なんですね。
- 早矢仕
- はい、そうです。30秒のCMだといろいろ伝えられるんですが、
5秒は本当に一瞬なんですよ。 - 岩田
- 5秒のハードルは高いですね。
- 早矢仕
- はい。でも僕らのルーツをひも解くと、
やはりゲームセンターでつくった格闘ゲームなので
そういうことなんじゃないかなと意識しています。 - 岩田
- わたしの印象ではTeam NINJAさんのゲームには
“華”のある派手さを感じます。 - 早矢仕
- あ、それはいい表現ですね(笑)。
多分、「5秒」っていうことを別の表現で
置き換えていただいているんだと思います。 - 岩田
- 一方、ただ華のある派手さを追求するなら
ムービー型演出に持っていくという方法もあるんですが、
『DEAD OR ALIVE』の場合は、
あくまでゲームの流れのなかで華を持たせている感じがします。
以前、登場いただいた「社長が訊く」でもお訊きしましたが、
『METROID Other M』(※13)で
サムス(※14)がかっこよく動くのを見て、
「Team NINJAさんがこだわりを持って
表現しているところがここなんだな」と感じましたから。
『METROID Other M』=2010年9月発売にWii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
サムス=サムス・アラン。『メトロイド』シリーズの主人公。