『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第7回:『DEAD OR ALIVE Dimensions』
5. “彼女たち”と“この子たち”
- 岩田
- 早矢仕さんのところに最初に3DSの話が来たとき、
どのように感じましたか? - 早矢仕
- 僕は、携帯機で格闘ゲームをつくりたかったんです。
それで最初にニンテンドー3DSのスペックをうかがったとき、
通信に負荷がかからない設計ですし、
「これは格闘ゲーム向きだな」とすぐに思いました。
いろいろ溜めていたアイデアもありましたので、
『DEAD OR ALIVE』なら、
新しい遊びができるかもしれないとも思いました。 - 岩田
- 具体的にはどこがポイントだったんですか?
- 早矢仕
- 格闘ゲームは人と人との出会いで戦いが生まれるので、
誰かとのつながりがたくさんあるほど、
いろいろな遊び方ができるはずだと思っていました。
3DSなら、すれちがい通信をはじめ、
“人とのつながり方”にいろいろな入り口があるんです。
ゲームセンターやインターネット上で対戦しづらくても、
すれちがい通信であればもっと気軽に遊べますから、
“人と戦う”という経験をもう1回してほしいと思います。
- 岩田
- 本来、人と戦うことは面白いはずなのに、
時間とともにどんどんスキルの差が開いてしまって、
置いていかれた人はやる気を失っていたかもしれませんが、
すれちがい通信なら対戦の敷居が下がりますからね。
早矢仕: はい。今回、すれちがい通信は“STREET FIGHT”(※15)
と言いまして、その人の対戦記録をもとにAIで再現して、
自分のDSに来た挑戦相手と1試合だけ戦えるんです。
そうやっていろいろな人と戦う経験をしてもらいたいです。
それからもうひとつ、今回は“TAG CHALLENGE”(※16)
というふたりで組んで敵と戦うモードに挑戦しました。
格闘ゲームはゲームデザイン上、実力が如実に反映されてしまい
実力差のある人と対戦すると勝敗が一方的になりやすいんです。
そんなときには対戦とはまた違う、ふたりでコンピューターを倒すという
新しいシチュエーションも楽しんでもらえればと思います。
“STREET FIGHT”=「すれちがい通信」ですれちがったほかのプレイヤーから挑戦状が届き、そのプレイヤーの対戦記録をもとにしたAIを持つコンピューターと対戦できるモード。 ※16“TAG CHALLENGE”=タッグを組んで強敵と対戦できるモード。
- 岩田
- きっと、フレームレート(※17)を
きちんと出すのが大変でしたよね。
フレームレート=1秒間に何回画面を描画することができるかを表す指標。
- 早矢仕
- はい。格闘ゲームとして本格的に遊びたい方は、
3D表示をオフにすることで、
2D表示では、3D表示の倍の60フレームで遊べます。 - 岩田
- 3Dのキャラクターを魅力的に楽しんでいただく方法もあれば、
60フレームで、本格的に格闘ゲームを
楽しんでいただく方法もあるんですね。 - 早矢仕
- そこは携帯機で遊ぶお客さんの自由なのでお任せします、
ということで、今回はしっかり提案できたと思います。 - 岩田
- 携帯機だからやれることは、わりと実現できましたか?
- 早矢仕
- はい。友だちと持ち寄るのも携帯機の魅力ですし、
格闘ゲームをあまり知らない方にも触っていただいて、
「格闘ゲームって実は面白いんだな」と感じてもらえればと思います。 - 岩田
- 一方で、長年親しんできた
『DEAD OR ALIVE』のキャラクターが、
画面という小窓の向こう側の世界で
3Dで動いている手ごたえはどう感じましたか? - 早矢仕
- 以前からゲームをつくっているスタッフたちは、
「スプライト(※18)から、3Dモデルになって以来の驚きだ」
と言っています。
「何だかさわれそう」というのは
実際に見ていただけると、より感じてもらえると思います。 - 岩田
- まさに、華のあるキャラクターたちの実在感が増すんですね。
スプライト=キャラクターと背景を、ハードウェア上で合成して描画する手法のこと。ファミコンやスーパーファミコンなどで、この描画方法が用いられていた。
- 早矢仕
- そうですね。たとえば『アバター』(※19)が流行ったとき、
「あんなに青いキャラクターは好きになれない」って
前評判が多かったんですが、いざ映画館に行くと
みんな愛おしくなった、という話を聞きました。
それはやはり、3Dの“いる”という存在感が
効いているからかなと思うんです。
だから今回も、華のある女性たちが“映っている”のではなく、
“いる”というのを感じてもらえることで、
あの窓の向こうに見えるものが、
ぜんぜん違ってくるんじゃないかなと思います。
『アバター』=2009年に3D映像で公開された、ジェームズ・キャメロン監督によるアメリカ映画。
- 岩田
- おそらく今回、Team NINJAさんの
モデリング職人さんたちとアニメーション職人さんたちは、
キャラクターにいっそう思い入れを込めて
チューニングされたんじゃないでしょうか?
- 早矢仕
- はい、そうですね。
じつは僕ら、“キャラクター”ではなく“彼女たち”
という表現を使うんですよ(笑)。 - 岩田
- “彼女たち”ですか(笑)。
- 早矢仕
- どうしても“もの”ではなく“彼女たち”なんです。
だから、発売後にそれを共有してもらえる方が
ひとりでも増えてくれると、僕らもうれしいなと思います。 - 岩田
- 彼女たちから感じる“色気”に、個性があるんですよね。
それもポリゴン(※20)数がもっと少なかった時代から
「キャラクターに色気を込めることに命をかけているな」
と感じられたんです。
Team NINJAさんにとって、
そういうこだわりはどこから来るんでしょうか?
ポリゴン=3次元グラフィックスで、立体の形状を表現するときに使用する多角形のこと。 3Dポリゴンはひとつの平らな多角形で、これを組み合わせることで3Dのモデルが作られる。
- 早矢仕
- 最初は論理的に国籍や性格をはめていくんですが、
あとはその設計図を“彼女たち”に仕上げていく間に、
いろいろなスタッフが思いを込めていくんです。 - 岩田
- それはみなさんで足していくんですか?
- 早矢仕
- そうですね。
もちろん、何人かこだわりを持ったスタッフはいますけれど。 - 岩田
- あえて言いますが、女性の好みは人によって異なりますよね(笑)。
- 早矢仕
- はい。やはり男性陣のスタッフのなかには
「俺はこの子が好きだ!」というものがあって、
キャラクターごとに、
その子にだけ意見を言う人が出てくるんです。
その想いが彼女たちを育てていきます(笑)。 - 岩田
- だから、彼女たちの設定は
表現されている以上に深いものがあるんですね。 - 早矢仕
- 「彼女はこうしないはず」というのは、
単にいままで描いていなかっただけなのかもしれないんですが、
その人にとっては、もうすでに“存在している”彼女なので、
絶対なんですよ(笑)。 - 岩田
- それが収拾つかなくなることがなく、
うまくふくらむのが、価値観を共有している集団なんですね。
ちなみに女性スタッフの方たちは、
そんな男性スタッフたちをどのような目で見ているんでしょう(笑)。 - 早矢仕
- それは・・・ちょっと、怖くて聞けないところですね(笑)。
でも面白いのは、女性スタッフたちは、
男性キャラクターに対して“この子”って言い方をします(笑)。
- 岩田
- “彼女たち”と“この子たち”なんですか(笑)。
- 早矢仕
- はい。「この子たちにはこういう服を着せたい」とか・・・。
- 岩田
- いいなあ(笑)。
みなさん、本当に大好きなんですね。
どうしてこの作品に華が生まれているのか、
今日、わたしは少しだけわかりました(笑)。 - 早矢仕
- やっぱり、魅力的なキャラクターが出てくるゲームというのは、
必ずその裏に、キャラクターを「ひとりの人格」として
見ている人がいることは、われわれ自身が体感しています。 - 岩田
- ものではなく、生きている存在として考えつづけるんですね。
その意見は割れることもあるんですか? - 早矢仕
- はい。ゲームの中身のデザインよりも割れることが多いです。
そうすると、ケンカです(笑)。
ゲームの中身は論理的に説明しやすいところがあるんですが、
好き嫌いはもう・・・感情の問題ですから。 - 岩田
- ああ、もう感情なんですね(笑)。
- 早矢仕
- はい(笑)。