『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第8回:『バイオハザード ザ・マーセナリーズ 3D』/『バイオハザード リベレーションズ』
3. 恐怖と解放のコントラスト
- 岩田
- もう少し踏み込んでお話しすると、
ファンの方々が組織に入ることで、
その方たちは、その会社がつくる製品に理解や愛がありすぎるため、
一般の方たちとの感覚が、だんだんズレていきますよね。
これがいま、ソフトを開発するあらゆる集団にとって
課題でもあると思うんですが、
カプコンさんにはそれが少ないように思うんです。
コアなゲームの魅力が、本質として揺らがずに保たれていますよね。 - 川田
- はい。さまざまなスタイルにチャレンジしてはいますが、
得意なものと苦手なものの自覚を持っているので、
得意なところは積極的に伸ばすようにしています。 - 岩田
- 自分で「ここが得意」と言える集団は、魅力的ですね。
ところで、「最近は日本発のゲームが以前ほど海外で
受け入れられなくなった」という話題がよく出るのですが、
『バイオハザード』の場合は
世界に通用するブランドとして維持されていますよね。 - 川田
- 一方で、われわれから見たとき、
任天堂さんのゲームはとても安定していて、
そこから学ぶべきものを、つねに考えているんです。 - 岩田
- 世の中にたくさんの娯楽がありますが、
安心感とマンネリはまちがうと紙一重で、
同じかたちをつづけると必ず飽きられてしまいますよね。
絶対安心なものをつくると「以前と同じ」と言われ、
冒険しすぎると「変わった」と言われてしまう。
これはシリーズ作をつくるうえで共通の悩みです。 - 川田
- そうですね。
- 岩田
- 任天堂でも『マリオ』(※14)チーム内も
少しずつ世代交代していて、
チーム内でいろいろな世代の方が集まっては
『マリオ』らしさとは何か、と話し合うんです。
それは『ゼルダ』(※15)でも同じです。
きっと『バイオハザード』にも“らしさ”があって、
世代を超えて多くの方がかかわっていくなかで、
受け継がれたり、新しいものを取り入れたりしてきたと思うんです。
『バイオハザード』らしさを、川田さんならどう表現されますか?
『マリオ』=『スーパーマリオ』シリーズ。1985年9月に、ファミリーコンピュータ用ソフトとして1作目が発売された。
『ゼルダ』=『ゼルダの伝説』シリーズ。1986年2月に、ファミリーコンピュータ ディスクシステム用ソフトとして1作目が発売された。
- 川田
- ひとことで言えば “恐怖”につきます。
でも恐怖のみを追求してもダメで、
『バイオハザード』がここまで受け入れられているのは、
グラフィックやサウンドなど、ゲームを構成する要素が
高いレベルで提供できているからではないかと思います。
今回の『リベレーションズ』のように、
ナンバリングとは違う完全新作をつくる柔軟な姿勢も含めて、
多くの方にアピールできる機会になっているのかな、と。
- 岩田
- 先ほど“コントラスト”とお話しされましたが、
“恐怖と解放のコントラスト”が、
すごくハッキリしたゲームですよね。
なぜなら、ひたすら恐怖がつづいたら遊べないですから(笑)。 - 川田
- 先に進めたくなくなりますからね。
- 岩田
- 不思議なのは、「怖いから嫌」と言いながら、
女性の方がコントローラをにぎって遊ぶ矛盾した状態が、
なぜこれほど起こったんでしょうね。
ここに『バイオハザード』の秘密があるような気がするんです。 - 川田
- じつは女性の方のほうが
ホラーに耐性があるんじゃないでしょうか?(笑)
映画やコミックも女性向けのものが多いように思います。
『バイオハザード』の魅力、ひいてはホラー物の魅力とは、
未知なるものへの恐怖なんだと思います。
敵と出会って戦闘するところもゲームの楽しみなんですが、
そこに至るまでの過程で「何か出てきそうだ・・・」
という雰囲気が、ホラーのいちばんの醍醐味だと思うんです。 - 岩田
- 出てくるまでがいちばん怖いですからね。
- 川田
- はい。「出そうだけど出ない・・・」という感覚は、
やみつきになるものなのかな、と思います(笑)。 - 岩田
- 「出そうだけど出ない」は嫌ですよね。
嫌だけど、やめられない。
多分、怖さから解放されたときにものすごい快感があるんですよね。
- 川田
- そうですね。
銃をぶっ放すなど、恐怖からの解放のさせ方も重視しています。
そういうゲーム内のリズムにおいても、
コントラストは重要だと思っています。 - 岩田
- 『バイオハザード』がシリーズを通して支持されつづけるのは、
ホラーゲームのつくり方を、
ほかのチーム以上に何かつかんでいるからでしょうね。
それは、チームに根づく伝統や、
『バイオハザード』らしさを受け継ぎ、
育ててきた人たちの底力みたいなものの気がします。
“部屋に固定されたカメラ”という視点は当時、
背景を動かせないという制約があったから生まれた仕組みで、
その仕組みを活かして『バイオハザード』が進化し、
いまに至るわけですよね。
その後、ゲームそのものの表現力が上がり、
“恐怖と解放のコントラスト”を強化し、
どんどんダイナミックにしていったんですね。 - 川田
- 当時の開発スタッフの理想は『バイオハザード4』のような、
ステージすべてを立体で構成したゲームだったみたいですね。
残念ながら、当時のハードでは理想どおりの絵づくりができなかったようで、
あのような固定カメラ視点でのゲームシステムに至ったと聞いています。 - 岩田
- 『バイオハザード4』でスタイルを大きく変えられましたが、
それが、ファンのみなさんにすごく高く評価されていますよね。
長持ちするフランチャイズは、
根っこのテーマは共通していても
途中で大モデルチェンジするものですが、
『バイオハザード』はそれがうまくできていると思います。 - 川田
- わたしはゲームキューブ版『バイオハザード4』の開発には
直接携わらなかったのですが、
かえってよかったかもしれません。チームスタッフと違って、
客観的にチーム状況を眺めることができていましたから。
ディレクターが強い意志で進めて、
まわりのスタッフも難しい要求にすべて応えて、
それらが厳しいスケジュールのなかで動いていたんです。
なんだかすごいゲームができている、
ミラクルが起きる予感がしました。
- 岩田
- 外から見るからこそ、
かえって様子がよくわかるんですね。 - 川田
- ええ。「これ、遊んでみて本当に面白い?」と、
チームのスタッフによく聞かれました。
彼らはつねに調整をしつづけていますから、
自分たちがつくっているものが面白いかどうか、
客観的に見てもらわないとわからなかったんです。 - 岩田
- ミラクルは、なぜうまく起きたと思いますか?
- 川田
- まずは任天堂さんのゲームキューブというハードに
技術者がずいぶん慣れたうえで制作できたことが
うまくいった理由のひとつだと思います。
もともと制作しやすいハードでしたが、
『biohazard』を制作したノウハウを
しっかり活かすことができたことが多かったと思います。
あとスタッフの育成もうまくいっていたかと思います。
しかし、なんといっても当時ディレクターだった
三上(真司)さんのゲームづくりへの情熱や、
天性の才能がすばらしくて、
それがスタッフの質や開発タイミングと
うまくミックスできたからじゃないかなと思います。 - 岩田
- システムを大きく変えるということは、
いままで自分が使えていた手口を捨てるということなので
すごく不安なはずなんですよ。
でも、そういったミラクルを目の前で見た人は、
自分も何かをやり遂げるチャンスがきっと増えますよね。
なぜなら“不可能が可能になる”ということを
信じられるということは、すごく大きいことなので。
『4』のモデルチェンジは、今後『バイオハザード』が
強いフランチャイズでいられるかどうかを決める、
重要なチャレンジだったんですね。 - 川田
- はい。「フルモデルチェンジをする」という
つくり手の強い意志がありましたから。
ものづくり全体にいえることですが、
「こんなゲームをつくりたい」という強い意志は
なによりとても重要なんだなと学びました。