『ニンテンドー3DS』ソフトメーカークリエーター 篇
第9回:『テイルズ オブ ジ アビス』
4. 9割5分が女性
- 岩田
- 毎回、新しいタイトルの方向性を立てるとき、
おひとりで考えるんですか? - 吉積
- いえ、まずはそれぞれのアイデアを持ち寄ります。
『アビス』の場合、ディレクターの樋口(※6)と、
ダメなヤツが「しょうがねえなあ」って言いながら
世界や仲間を救うような話にしたいと思ったんです。
『池袋ウエストゲートパーク』(※7)っぽい感じで(笑)。 - 岩田
- ああ、なるほど(笑)。
樋口義人さん=バンダイナムコゲームス所属。『テイルズ オブ ジ アビス』『テイルズ オブ シンフォニア』などのチーフディレクターを担当。
『池袋ウエストゲートパーク』=真島誠(マコト)を主人公とし、池袋を舞台に物語が展開する石田衣良の小説シリーズ。
- 吉積
- 『アビス』は、主人公ルークと、彼と裏表をなす
アッシュというキャラクターがいて、
このふたりの関係軸で世界が回るような物語なんですが、
ストーリーやキャラクターといった、
お客さんに伝えたい根幹を2~3人でつくります。 - 岩田
- 多分、少人数でやらないとまとまらないんですね。
そして軸を立ててから分業していくんですね。 - 吉積
- そうです。それ以降もアイデアの持ち寄りです。
たとえばシナリオのほうから、
「こういうキャラクターを出したい」という提案があれば
「こう膨(ふく)らませようか」というふうに
だんだん足していきます。 - 岩田
- 最初に軸を立てる方たちが、
提案されたアイデアを選択して決めるんですね。 - 吉積
- そうです。そもそもの向きがきちんとしていないと、
枝葉の話にいったとき、変に独立した話になってしまうんです。
必ずちゃんとつながっていたり、伏線になっていたりして、
お客さんが混乱しないようなつくりにしたいと思っています。 - 岩田
- 実際に『テイルズ』らしさが吹き込まれるとき、
どういうプロセスが大事だと思いますか?
- 吉積
- う~ん・・・難しいですね・・・。
- 岩田
- 長いシリーズものには、絶対に“らしさ”があると思うんです。
それがないと、それを支え続ける個性は生まれないと思います。
たとえば吉積さんの目から“『テイルズ』らしさ”を判断すると、
それは、どういったところなんでしょうか。
テイルズスタジオに共有している方がたくさんいて、
つくるものが自然と『テイルズ』になるんですか? - 吉積
- ああ、でもつくり方は昔から変わっていないんです。
スタッフは変わっても、そこに対するこだわりを
それぞれが継承されている部分もあるんでしょう。
いまは『グレイセス』(※8)をつくった馬場(※9)が
メインでやることが多くて、はじめは違和感もあったんですが、
最近は『テイルズ』っぽくなってきたと思います。
『グレイセス』=『テイルズ オブ グレイセス』。2009年12月、Wii用ソフトとして発売された“守る強さを知るRPG”。
馬場英雄さん=『テイルズ オブ グレイセス』のプロデューサーを担当。
- 岩田
- なじんできたんですね。
- 吉積
- はい。それが何なのか・・・
言語化するのは難しいんですが。 - 岩田
- 一方で15年もやっていると、
『テイルズ』ファンの方も現場に入ってこられたりしますよね。
で、ファンの方が持っている価値観は、
じつはつくり手の価値観とイコールではない気がするんです。 - 吉積
- ああ、違います。
- 岩田
- いわば、ファンの方が入ってくると、
まさに市場の声に引っ張られるのと同じ現象が
現場で起こるんですが、それはどうされています? - 吉積
- だいたい一喝しますね。
- 岩田
- ははは(笑)。
- 吉積
- 最近、テイルズスタジオに女性が増えたんですが、
『テイルズ』やRPGが好きで入ってくるんです。 - 岩田
- 『テイルズ』は、お客さんの男女比はどれくらいですか?
- 吉積
- アンケートとかを見ると、7割が男性で3割女性。
だけど、ステージイベントをやったり、
グッズを売ったりすると、9割5分が女性のお客さんになります。 - 岩田
- え? 9割5分、ですか。
- 吉積
- はい(笑)。
- 岩田
- ゲームを遊ぶ人は7割が男性なのに、
声優イベントやグッズは9割5分が女性。
はあー、それは別のマーケットに見えますね(笑)。 - 吉積
- ええ。本当に、びっくりします。
それで女性のスタッフが入社してくるんですが、
多くがファンに近い目線での愛情を持ってるんです。 - 岩田
- その愛情は、すごく強くて、善意ですよね。
- 吉積
- でも「こうすべきです」という意見に対しては、
基本、制することが多いです。
強いファン視点の場合はとくにですね。 - 岩田
- それは、先ほどの話題に戻りますが、
シリーズを重ねてつくっていくものは
お客さんのリクエストにただ応えるだけではなく、
お客さんがそのときに想像していなかったものがありつつ、
根幹での“らしさ”は失われないことが大切ですから。 - 吉積
- そうですね。
いろいろな話を参考に聞くことで、
お客さんのリクエストを裏切りにくくなっちゃって、
思い切りができなくなるのは嫌ですから。
どんな場合でも、お客さんの期待を
いい意味で裏切れる腹を持ちながらやりたいです。 - 岩田
- お客さんに喜んでもらえる裏切りでありたいですよね。