『ニンテンドー3DS』
1. 糸井重里、ニンテンドー3DSを触る。
- 岩田
- まずは、糸井さんに
ニンテンドー3DSのデモを見ていただこうと思います。
これは、2010年6月のE3(※1)に出展したもので、
ニンテンドー3DSが専用のメガネを使わずに
立体に見えることを体験していただくための映像です。 - 糸井
- はい。
E3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。
- 岩田
- いま流れているのは、
ふたつのカメラを使って撮った実際の自然画の
動画を立体表示したものです。 - 糸井
- ・・・うん。うん、うん。
- 岩田
- そして、つぎに表示されるのは、
任天堂のキャラクターたちを、
このニンテンドー3DSの中で
リアルタイムに生成しているグラフィックスです。
こちらは、スライドパッドで、
カメラを動かすことができるんですよ。
- 糸井
- あぁぁ、すごいなぁー。
こっちのほうが、おもしろいね、やっぱり。
- 宮本
- 動くと、ぜんぜん違うでしょう?
- 糸井
- うん、うん。
- 岩田
- ニンテンドー3DSには、
3Dボリュームというスライドスイッチがついています。
横の・・・そう、そこです。
それを上下させると、立体度が変化します。
- 糸井
- 「立体度」・・・ああ!
あー、こういうことね! - 岩田
- 映像が「どれくらい立体的に見えるか」
ということを自由に調節できるわけです。 - 糸井
- 「立体度」って概念があるわけね。
これは、3Dの要素を持った機器には
ふつう、ついているものなんですか? - 岩田
- いえ、こういうことをしている
3Dデバイスっていうのは、
おそらく例がないと思います。
これは、このニンテンドー3DSを開発する過程で、
宮本さんを含む複数の人のアイデアで生まれました。 - 糸井
- なるほどー。
つまり、これまでの「立体の度合い」というのは、
一般的には、つくり手のさじ加減で決まってたんですね。 - 岩田
- おっしゃるとおりです。
映像をつくる側が「これくらいにしよう」って
決めているわけです。
ところが、遊び手が、どのくらいの「立体度」を
心地よく感じるかというのは、
人によって、まちまちなんです。 - 糸井
- うん、うん。
- 岩田
- もっと言うと、同じ人であっても、場面によって、
「ここはもっと立体的に」「いまは平面で」というふうに
求める「立体度」が異なることもある。
そういうこともあって、ニンテンドー3DSでは、
「立体度」をお客さんが選べるようにする、
しかも、場面場面に応じて直感的に、
すぐに調節できるようにしようと思ったんです。 - 糸井
- それで、3Dボリュームなんだ。
- 宮本
- そうです。
スライド型のスイッチにすることは、すごくこだわっていて。
やっぱり、そこでは、直感的であることが
すごく大事やと思ったんです。
数字を上げ下げするようなデジタル的な入力にすると、
ぜんぜん味が出ないんですよ。 - 糸井
- ああ、そっか、そっか。
- 宮本
- 「いまは、ここと、ここのあいだくらい」とかね、
「ここで、めいっぱい!」とか、
そういうふうに自分の気分で調整できるようにしたんです。
- 糸井
- さっき流れた、自然画の立体動画も、
「立体度」が調節できたんですか? - 岩田
- いえ、事前に録画してあるものは
「立体度」を変えることはできません。
その動画の「立体度」をオンにするかオフにする、
つまり、立体に見えるようにするかしないか、
くらいの選択しかできないんです。 - 宮本
- リアルタイムのゲームは、このゲーム機の中で
絵をぜんぶ描いてるから
「立体度」の調節が可能なんです。 - 岩田
- だから、まぁ、映画とかは、いくら3Dでも、
つくられた絵を事前に焼きこんでありますから、
こういうことはできないんですよね。 - 糸井
- なるほどねぇ・・・。
じゃあ、ちょっと「立体度」を、
めいっぱい下げてみていいですか。 - 岩田
- どうぞ。
- 糸井
- うーん・・・はいはいはい・・・。
平面になったら、やっぱり、つまんなくなるね。 - 岩田
- そうなんですよ。
- 糸井
- あら! そうなんだ!
そこはちょっと自分の予想と違ったなぁ。
どっちでもいいんじゃないかな、
っていう気持ちが、正直、ありましたよ。 - 宮本
- うん(笑)。
- 糸井
- だって、いままではさ、
二次元なんだけど、表現として三次元のものを、
自分の想像で補っていたわけだから。 - 岩田
- そうです、そうです、
頭の中で立体をつくってたんです。 - 糸井
- うん。その想像力はなめたもんじゃないぜ、
って思っていたんですよ。
ただ、それはそれとして間違ってないけど、
こうしてみると・・・あったほうがうれしいなぁ。
どういうんだろう、想像している3Dと、
実際に立体に見えることは違いますね。
- 岩田
- これまでの3D表現というのは、
カメラが回り込むように動くと
「たしかに奥行きを感じる」というふうに
できていたんですよ。 - 糸井
- つまり、動きの中で3Dとしてとらえてたんだ。
これはもう、パッと見ただけで立体的だものね。 - 岩田
- そうです。見え方が立体になると、
あ、こう変わるんだって、驚かされるという。 - 糸井
- あの、前に、岩田さんに、
ちょっとだけデモを見せてもらいましたよね?
そのときよりもいまのほうが
いい感じに見えてるんですけど、
それはゲーム機のほうが改良されたんですか、
それとも、ぼくのほうが違ってるんですか。 - 岩田
- じつは、これは、
以前、少しだけ糸井さんに触っていただいたときと
まったく変わっていないんです。 - 糸井
- じゃ、ぼくのこころの問題ですか。
- 岩田
- ええ、こころです(笑)。
- 糸井
- ・・・っていうことは、
あのときは、まだ、素直に見られなかったんだね。 - 岩田
- ああ(笑)。
- 糸井
- いや、もちろん、驚きはしたんですけど、
なんていうんだろう、
なんぼのもんや、っていうような、
新しいものを見るとき特有の構えた感じが
ちょっとだけ、あったんでしょうね。 - 岩田
- ああ、そうでしたか。
- 糸井
- うん。あのときもそうとう驚きましたけど、
こりゃぁ、愉快だ、っていう、
わくわくするような気持ちはいまのほうが強いもの。
いや、ほんとに飛び出して見えるぞ、とか。 - 岩田
- ああ、「ほんとに見える」は、
触ってくださった多くの方がおっしゃるんですよ。
私たちはそういう商品を出そうとしているんで、
「ほんとに見える」だけで感動されると
ちょっと困ってしまうんですけど(笑)。
でも、一方で、いままでの3Dデバイスで、
「立体的に見えた!」っていうことを
はっきりと経験していない人も多いみたいで、
結果的に、第一印象として、
「ほんとに見える!」っていう声が多いんですよ。
- 糸井
- つい言いたくなるよね。
メガネが要らないんだ、とか。 - 宮本
- ああ、それもよく言われますね(笑)。
- 糸井
- いや・・・しかし・・・たしかにこれは・・・
ああ、ピクミン(※2)だ! いいねぇ! - 宮本
- ピクミン、いいでしょ(笑)。
ピクミン=2001年10月発売のゲームキューブ用ソフト『ピクミン』、およびそのシリーズ作品に出てくるキャラクター。
- 岩田
- ピクミンは3Dと相性がいいみたいなんですよ。
- 宮本
- そう、ちょこちょこ動くと、またいい感じで。
- 糸井
- たしかに、ピクミンって、こう、
小さいものを這いつくばって近くで見るような
独特の立体感のあるゲームだもんねぇ。
いや、しかし、これは、ほしいなぁ。
買いますよ、社長、これ、なんぼや、社長! - 岩田
- はははははは。
じゃ、いったん3DSを閉じてもらって、
話をはじめましょうか。 - 糸井
- はいはい、よろしくお願いします。
- 宮本
- よろしくお願いします。
- 岩田
- あの、じつは今日は、
ひとつ提案があるんですよ。 - 糸井
- お、なんでしょう?
- 岩田
- 宮本さんにも言ってないことなんですけど。
- 宮本
- なんですか(笑)。