『ニンテンドー3DS』
10. どんなふうに広がっていくのか。
- 宮本
- あの、先日、
タッチジェネレーションズについて
話していたんですけど・・・あ、
「タッチジェネレーションズ」ってわかります? - 糸井
- 『脳トレ』(※27)とか『えいご漬け』(※28)とか・・・。
- 宮本
- そうです、そうです。
『脳トレ』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年5月発売。
『えいご漬け』=『英語が苦手な大人のDSトレーニング えいご漬け』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2006年1月発売。
- 岩田
- 『ニンテンドッグス』とかもそうですね。
子どもからお父さんお母さん、
おじいちゃんおばあちゃんまで、
三世代が一緒に遊べるような、
ゲームの知識や経験を問わない
いくつかのタイトルを
新しいチャレンジとして、私たちはまとめて
「タッチジェネレーションズ」と呼んで
シリーズとして展開していたんです。 - 糸井
- はい、覚えてます。
- 宮本
- はじめてゲームを遊ぶ人たちが
安心して買えるブランド、っていうつもりで立ち上げて、
DSのときは大きな成果をあげたんです。
で、そのタッチジェネレーションズを、
3DSではどういうふうにしていくのかということを
話し合ったわけです。 - 糸井
- うん、うん。
- 宮本
- けど、よく考えると、
タッチジェネレーションズっていうのは、
ニンテンドーDSが、それまでのゲーム機とは
かけ離れた存在として登場したときに、
「ふだんゲームで遊んでいない人も、
このソフトなら安心して遊べるよ」
という意味で名前をつけたわけで、
ペンでタッチして遊ぶという基礎の部分では
DSの延長上にある3DSで
またタッチジェネレーションズをつくっても
あんまり意味がないんじゃないかということになったんです。 - 糸井
- ほう。
- 宮本
- じゃあ、3DSを持ったときに、
あまりゲームのことを深く知らない
新しいお客さんが楽しめるものって
なんだろうと考えたとき、思い浮かんだのは、
やっぱり、立体写真を撮るとか、
3Dの映像を見るとか、そういうことなんですね。 - 糸井
- つまり、ニンテンドー3DSの中に
内蔵されている機能。 - 宮本
- そうなんです。ソフトじゃなくて。
- 岩田
- タッチジェネレーションズが果たすべき役割を
本体だけでまかなえているとも言えるんです。 - 宮本
- もちろん、DSを牽引した
タッチジェネレーションズのソフトの需要は
相変わらずありますから、
それはそれで大事につくっていけばいい。 - 糸井
- なるほど。
- 岩田
- でも、「タッチジェネレーションズ」というのは、
自分たちで立ち上げたブランドで、
ショップにコーナーもつくり、
マークを浸透させてきたんですけど、
3DSを売るときには、
それを使わないようにしようって
会社で正式に決めたんですよ。 - 糸井
- おおー。
- 宮本
- だから、もう、
「タッチジェネレーションズ」って言わないんです。 - 岩田
- 先日、社内の方針を決める会議で、
私からそれを提案して、
「みなさんいいですか」って聞いたら、
全員が、すぐに賛成してくれたんですよ(笑)。 - 糸井
- あ、そう! 営業の人も?
- 岩田
- 営業の人もです。
これはね、自分たちの会社ですけど、
なかなかすごいことだなと(笑)。 - 糸井
- はーーー。
- 宮本
- 「過去のものを引きずりながら、
ちょっとずつバージョンアップしていこうという発想は
新しい文化を生まないんだよ」みたいなことを
営業の責任者が言うんです(笑)。 - 岩田
- そうそう(笑)。
- 宮本
- なかなかすごいなぁと思って。
- 糸井
- すごいですね(笑)。
- 岩田
- 私は、慢心を生んだり、溺れたりしたくないので
自分たちに「成功」という表現を使わないように
気をつけているんですけど、
あえて言ってしまうと、
タッチジェネレーションズというのは
ひとつの成功例だったと思うんですよ。
ですけど、その成功例と同じことをやるのは
なんか、守りに入っているようなムードがあって。 - 糸井
- うん(笑)。
- 岩田
- だからこそ、もう使わないって
決めたほうがみんなが潔く取り組めるんですよね。 - 宮本
- 「このハードそのものが、もう、
タッチジェネレーションズですから」
って言うぐらいの気持ちでね。 - 岩田
- あと、もうひとつ、いえるのは、
「シニアの人がゲームをするって言って
驚いていた話は、もう過去のこと」なんですよ。
すでにもうゲームの経験がない人が、
ゲームと接点を持つようになったし
年齢も性別も経験も超えて、
ゲーム機ってみんなのものになったでしょ。 - 糸井
- うん、うん。
- 岩田
- だから、そういうことをわざわざ言って、
ほかのものと区別する時期は終わったんだよ、
っていうことだと思うんですよね。 - 糸井
- そうですね、
その枠の中で考えさせるような
ことじゃないですよね。 - 宮本
- それは、つくるほうにもいえることで、
たとえばタッチジェネレーションズっていうのは、
それまでのゲームとは違うシリーズだったとはいえ、
やっぱり開発チームがソフトをつくっていたんですよ。
ところが、いま、「いつの間に通信」で配信する
3D映像(※29)の編集とかは、
ぜんぶ開発以外のチームの人がプロデュースしているんです。
「いつの間に通信」で配信する3D映像=日本テレビ放送網株式会社、株式会社フジテレビジョンと任天堂がそれぞれ提携し、テレビ局が制作した3Dのオリジナル映像を、「いつの間に通信」を使って、ニンテンドー3DSに毎日無料で配信を予定する映像コンテンツのこと。
- 糸井
- あー、なるほど。
- 宮本
- だから、つくる人も、
ちゃんと動いていかないといけない。
これまでゲームをつくってきた人たちが
同じように自分たちだけで
つくることを前提に考えてると、
もうスタートした時点から
「新しいソフト」の可能性を
つんでしまうなぁと思って。 - 糸井
- うん、うん。
- 宮本
- いや、まぁ、それは内部の話で、
ここでする話でもないか(笑)。 - 岩田
- ははははは。
- 宮本
- だから、話を戻すと、任天堂じゃない会社が
もっと3DSに関係してきたらおもしろいし、
映画監督とかが真剣に3Dのムービーを
つくってくれたら楽しいことになるなと思うんです。 - 岩田
- それと同じ意味で、
お客さんがどう使ってくれるかということですね。 - 宮本
- そう、そう。
- 糸井
- そこはほんとうに楽しみですね。
- 岩田
- じつは、このところ、任天堂は、
お客さんのクリエイティビティーに
訴えるような企画をたくさん動かしているんですよ。
『じぶんでつくるDSガイド』(※31)なんかもそうですし。
遊び手のいろんな工夫が、まわりの人を巻き込んで
大きな楽しさにつながっていくといいなと思いながら、
その材料をばらまいているという状態。
そこから、なんか大きく化けるような
新しい娯楽の柱が見えてくるといいんですけど。
宮本さんも、「そこになんかあるぞ」って
すっごく期待してますよね。 - 宮本
- そうですね。
そこは、しつこく掘っていきたい(笑)。
『うごメモ』=『うごくメモ帳』。2008年12月に配信が開始された、無料のニンテンドーDSiウェア。タッチペンで手書きメモを作成できる。また、何枚も書いたメモを再生して、パラパラマンガ(動画)をつくることができる。
『じぶんでつくるDSガイド』=『じぶんでつくる ニンテンドーDS ガイド』。2010年11月に配信が開始された、無料のニンテンドーDSiウェア。ニンテンドーDSiまたはニンテンドーDSi LL本体で撮影した写真と録音した音声を組み合わせてかんたんにガイドをつくることができる。
- 糸井
- 理想としては、
ベースになるおもしろさっていうのは、
誰にも口出しさせない、
お客さんがなにか言っても揺るがない、
っていうぐらいに固めといて、
そこから出したあとは、
「もう好きなようにしてください」
っていうようなバランスがいいんでしょうね。 - 宮本
- そうですね。
「遊ぶ人がどんどん足してください」
っていうのが、基本的な姿勢なので。 - 糸井
- で、似てるけれどもダメなのは、
最初に固めておくべきところまで
ぐずぐずにしちゃうっていうパターンで。 - 岩田
- ああー、はいはい。
- 糸井
- みなさん、これでいかがですか、みたいなことを、
ずっと気にしながらつくってると、
お客さんが楽しむ根本のおもしろさが
ちっとも固まらないというか。
それでいうと、ニンテンドー3DSは、
ほんとうに楽しみですね。 - 岩田
- そうなんです。
これがどんなふうに世の中に理解され、
どんなふうに広がっていくのか、
この不思議なうれしさを生みだす機械が
お客さんの手元にポンと渡ったときに、
なにが起こるだろうかっていうのは、
ちょっとわからなくて。 - 糸井
- わかんないですねぇ。
- 岩田
- そのわからない感じに、
わくわくしてるんですよ。