『ニンテンドー3DS』
6. 立体写真は、うれしい。
- 糸井
- 基本的な質問ですけど、
ニンテンドー3DSで動くのは
3DSの専用カートリッジだけ、
ということじゃないんですよね? - 宮本
- 違います。
ソフトはこれまでのDSのものも互換性があります。
新しいカートリッジは3DS専用ですけど、
それが「3D」に対応するかどうかは
基本的にはつくり手の自由です。
それは、DSのソフトでタッチスクリーンを
どのくらい使用するかということと同じことで。 - 糸井
- ああ、なるほど。
- 宮本
- やっぱり、これからはニンテンドー3DS専用カートリッジで
ぜんぶ飛び出すようにしてください、
ってなった途端に、つくり手からすると
ハードルがものすごく上がりますから。
だから、消極的に、ちょっとだけ飛び出してもいいし、
そのへんはソフトによって自由になってたほうが、
つくり手にとっても遊び手にとっても
うれしいんじゃないかと思うんですよね。 - 糸井
- そう考えると、遊ぶときに立体度を調節できる
3Dボリュームというのは大きな発明ですね。 - 岩田
- はい。
3Dになることによって発生したいくつかの課題は、
3Dボリュームっていうアイデアで
まとめて解けたと思うんです。
それも、提案として出たすぐあとに、
プログラマーがボリュームの形として試作してくれて、
これはいいということで商品に組み込んだんです。 - 糸井
- 触ったときの説得力がすごいんですよね。
宮本さんもおっしゃってましたけど、
あれ、数字を入力したんじゃダメなんでしょうね。 - 岩田
- あ、ボリュームじゃなきゃダメなんです。
- 糸井
- わかるなぁ。
デジタルカメラってさ、
写真をこう撮りたいって調節するときに
だいたい数字でやるんですよ。
あれが、やっぱり、おもしろくないんですよ。
- 宮本
- そうそう、わかります。
ズームするときなんかも、
スイッチをジーーーっと押すより
手でこう、ぎゅっとひねるのが
やっぱり一番わかりやすいですよね。 - 岩田
- アナログに触って、
アナログな結果がただちに返ってこないと
うまく調整もできないんですね。
「この画面で調節できます」みたいに
機能としてあってもあまり意味がなくて。 - 糸井
- うん、うん。
そうあるべき姿に収めていかないと。 - 岩田
- あと、ニンテンドー3DSには立体写真を撮るために
カメラが2個並んでついてるんですけど。
- 糸井
- 当然、コストはかかるんでしょうけど。
- 岩田
- かかるんですよ。
それは、カメラの部品代が2倍になる、
という以上にかかるんです。 - 糸井
- そうなんですか。
- 岩田
- まぁ、ニンテンドー3DSのカメラは
小さなものですし、本家のデジカメに比べると
特別すごい解像度でもないですから、
2個つけたところでたいしたことないんじゃないかと
思う人もいるかもしれないですけど、
1個のカメラと2個のカメラって、大違いなんです。
というのは、立体写真をきちんと撮るためには、
2個のカメラの軸がちゃんとそろっていて
同じ方向を向いてないといけない。
1個のときとは、要求される精度が段違いになるんです。 - 糸井
- そうか、そうですね。
- 岩田
- 2個のカメラの角度と軸がそろってないと、
立体写真用のカメラとして役に立たないんですよ。
製造を担当した人たちは、
量産するうえでの一番のハードルになると感じたみたいです。 - 宮本
- 1個だけだったらね、多少、軸がずれていても、
それに合わせて撮ればいいだけなんで。 - 糸井
- そういう苦労って、お客さんには
たぶん、わからない(笑)。 - 岩田
- わからないでしょうね(笑)。
- 糸井
- あのさ、
「カメラは立体じゃなくてもいいか」
とか、なんなかったの? - 一同
- (笑)
- 糸井
- その、ぼくだったら、
きっとやめさせちゃうんじゃないかと思って。
ほら、ぼくみたいな中小企業の社長としてはね、
「おもしろいのはわかるけど、
コストと手間を考えると、
それを追い続けるのは、どうかな?」
みたいに、ついつい思っちゃうんですよ。
立体写真に魅力がないとは言いませんけど。 - 岩田
- その魅力が、コストと手間を考えると、
割が合わないように思えますか? - 糸井
- そうですねぇ。
ぼくが判断を迫られたら、
そういうふうに思っちゃいそうだなぁと。
岩田さんは、そこ、迷わなかったですか。 - 岩田
- ええ。
最初のうちから手応えを感じていましたし、
開発途中で、カメラを立体にした意味が
ますます強く感じられるようになってきたので、
量産が大変だから、コストが上がるからというような理由で
迷うようなことは、まったくなかったですね。 - 糸井
- 根拠としてはやっぱり・・・。
- 岩田
- 「立体写真が撮れたら、うれしいよね」
っていうことにつきるんですけどね(笑)。
立体写真を撮って、それを表示してみると、
やっぱり、みんな喜ぶんですよ。 - 糸井
- ああー。
- 岩田
- これまでは立体写真を撮影しても、
なかなか披露する手段がなかったんですけど、
みんなが持ってるもので
立体写真を撮ったり見たりできたら、
価値が変わるじゃないですか。 - 宮本
- 立体写真の撮れるデジカメもありますけど、
みんなが持ってるゲーム機に
当たり前にその機能がついていると
遊ばれ方がまったく変わってくると思うんですよ。
あと、ゲーム機にそれがついてるっていう
付加価値としてのうれしさも大きいと思いますし。 - 糸井
- なるほどねー。
いや、そう言われるとそうかと思える。 - 岩田
- 宮本さん、ちょっと、手をこう、
突き出してもらっていいですか。 - 宮本
- はいはい。
──カシャ!
- 岩田
- (写真を糸井さんに見せながら)
こんな感じになります。 - 糸井
- ・・・おお、飛び出した!
- 一同
- (笑)
- 糸井
- はーー、うれしいね。
- 宮本
- うれしいんですよ(笑)。
- 糸井
- うれしいかも!
- 一同
- (笑)
- 宮本
- もう、10年以上前にね、
会社で旅行に行ったときに、
誰かがパノラマの立体写真が撮れるカメラを用意してね、
ちゃんと特別なプリントをしてもらって
みんなに配ったんですよ。
それ、意外にみんな持ってるんですよね(笑)。
あと、子どもと恐竜展みたいなイベントに行ったときに
現場で撮ってもらった写真とかも、
ずっと持ってたりね。 - 糸井
- うん、うん(笑)。
- 岩田
- たぶん、世の中に、こういうものが、
まとまって一気に普及することは、
はじめてなんですよ。 - 宮本
- そう、そう。
だから、携帯電話とカメラがくっついて
世の中の写真がちょっと変わったように、
まとまった台数の3D写真機が
世の中にばらまかれたときに、
なにが起こるのかっていうのは、
ちょっとおもしろそうな気がしてるんです。 - 糸井
- いや、聞けば聞くほど、
カメラはあったほうがいいわ。 - 一同
- (笑)
- 宮本
- しかも、岩田さんは、その立体写真を
さらに動画にしようって目論んでる(笑)。 - 岩田
- 将来のバージョンアップで
動画も撮影できるようになったら
楽しいと思うんですよねぇ。 - 糸井
- ぜんぜんわかんなくて訊くんですけど、
立体の写真や動画を撮影したときに、
容量の限界みたいなのは? - 岩田
- ここのスロットにSDカードが入るんですよ。
- 糸井
- あ、SDカードか!
2ギガとかの? - 岩田
- 3DSを買ってくると2ギガバイトのSDカードが
最初から入ってるんですが、
たとえば32ギガバイトのカードを買ってきて
差し替えてもらってもいいんです。 - 糸井
- あ、そうなんだ。そりゃそうか。
っていうことは、いくらでも増えるのか。
冗談でもなんでもなくて。 - 岩田
- ええ。
だから、長い動画とか、たくさんの写真とかも
それなりに入ります。 - 糸井
- じゃあ、旅に持っていって、
3Dで記念写真を撮りまくっても。 - 岩田
- 大丈夫です。
旅の記録が立体写真っていうのは、
けっこううれしいと思うんですよね。 - 宮本
- 料理の写真とかも、
すごくおいしそうですよ、立体で撮ったら。 - 糸井
- そうだねぇ。仕事にも使えるよねぇ。
建築現場とか、立体で記録しておいたほうが
わかりやすいものってたくさんあるでしょう? - 宮本
- たくさんあると思います。
- 糸井
- ねぇ。うーん、すごいなぁ。
思えば、任天堂って、カメラまわりについても、
ずーっとしつこく追い続けてるものね。
ゲームボーイポケット(※20)専用の
カメラとプリンター(※21)出したりとかさ。 - 宮本
- ああ、そうですね(笑)。
ゲームボーイポケット=1996年7月21日に発売された携帯型ゲーム機。ゲームボーイの小型軽量化版。
カメラとプリンター=『ポケットカメラ』と『ポケットプリンタ』。共に1998年2月21日に発売されたゲームボーイの周辺機器。
- 岩田
- あそこまでカメラをおもちゃにするっていうのは、
当時、どこにもない発想でしたからね。 - 糸井
- いやぁ、よくわかった。
立体カメラはあったほうがいい。 - 一同
- (笑)
- 糸井
- なんていうんだろう、
立体写真にしても、3Dボリュームにしても、
同じことがいえるのかもしれないけど、
スペックとして「飛び出して見えます」っていうのと、
実際にその「飛び出して見えるもの」で遊ぶのは
圧倒的な違いがありますね。 - 岩田
- そうなんですよ。
- 宮本
- うれしさが違いますよね。
- 糸井
- うん。
中小企業の社長としても、よくわかった。
諸君、立体カメラは、あったほうがいい。 - 一同
- (笑)