『ニンテンドー3DS』
nintendogs + cats 篇
1. ロゴの「cats」がちっちゃいわけ
- 岩田
- 今日は宮本さんと紺野さんから
『nintendogs + cats』のお話をお訊きしようと思います。
このソフトについては、
「NINTENDO WORLD 2011(※1)のステージで
紺野さんと「生・社長が訊く」を行いましたが、
当日、幕張の会場に来られなかったり、
配信映像をご覧になっていない方もいらっしゃるでしょうし、
やっぱり宮本さんからもお話をお訊きしたいので、
改めておふたりに集まってもらいました。
よろしくお願いいたします。 - 宮本・紺野
- よろしくお願いいたします。
- 岩田
- まず、最初にお訊きしたいのは
6年前にDS版の『nintendogs』(※2)が出てから
「次は猫が出るんでしょ?」とか、
「どうして『nintendogs2』は出ないの?」とか、
いろんな声をいただいたように思うんですが、
そのあと『nintendogs』の続編も、
動物の種類を変えたようなゲームもつくりませんでしたよね?
それはどうしてだったんですか?
「NINTENDO WORLD 2011」=2011年1月8日から3日間、幕張メッセで開催された、「NINTENDO WORLD 2011 ニンテンドー3DS体験会」のこと。ステージでは連日、3DSのソフト開発者の公開プレゼンテーションが行われ、最終日には、岩田と紺野が登壇し、『nintendogs + cats』のプレゼンテーションが行われた。
『nintendogs』=2005年4月発売のニンテンドーDS用ソフト。お気に入りの子犬たちとの触れ合いを楽しむコミュニケーションソフト。
- 紺野
- 実は『nintendogs』が完成したあと、
「猫はどうなんだろう?」ということで
犬のモデルを猫に差し替える実験はしていたんです。 - 宮本
- そうなんです。でもそのときは
試しに猫の絵をはめてみただけだったので、
猫がしっぽを振ってました(笑)。 - 岩田
- あははは(笑)。
- 紺野
- さらに、たとえば「馬はどうでしょう?」とか、
「ドルフィンはどうでしょう?」とか、
犬ではない、ほかの動物を飼うような企画もあって、
「馬なら欧州では絶対売れるはず!」とか、
そういった声もけっこうありました。 - 岩田
- ということは、考えていなかったわけではなくて、
実験もしたし、いろいろと議論もされていたんですね。
ただ、商品として成立する決定的な要素を見つける
ご縁がなかったというだけで・・・。 - 紺野
- はい。さらに、実はWiiで検討したこともあるんです。
でも、マイクがついていないから、犬に向かって
話しかけられないね、ということになりまして・・・。
- 岩田
- へえ~、じゃあ、もしWiiリモコンにマイクがついていたら
Wii版の『nintendogs』があったのかもしれないんですか? - 紺野
- はい。もし、そうだったら進めていたかもしれません。
- 宮本
- けど、Wiiリモコンとテレビとの間に距離があるので、
それで犬をなでる感じがするだろうかとか・・・。 - 紺野
- そうでした。ですから、その都度、
「いいアイデアが出てくれば考えましょう」
と言ってはいたものの、
とくに進めることもなくそのままになっていました。 - 宮本
- それと、そもそも僕のなかにあの当時、
『nintendogs』の次をつくりたいという気持ちが
とくになかった、というのが本音です。 - 岩田
- ご縁も生み出すのは動機なんですかね。
最初の『nintendogs』をつくることになったのは、
宮本さんが犬を飼いはじめたことが動機になりましたけど、
ほかの動物の話をイメージしても、
つくりたいという気持ちは生まれなかったんですね? - 宮本
- そうです。
やっぱり「犬は特別」という想いがありました。
それに犬の後に猫が来たら、「任天堂らしくないやん」と。 - 岩田
- ええ。それはよく話してましたよね。
多くの人がふつうに予想することじゃ、
驚いていただけないですし。 - 紺野
- はい。
- 宮本
- しかも、『nintendogs』では、以前からあった
「育成ゲーム」というジャンルではくくることができない、
新しい何かができたと思っていたので、
サードパーティさんから、それに近い、
いろんな商品が出てくればいいなぁと思っていたんです。
それに、当時はまだ猫を飼っていなかったですし(笑)。 - 紺野
- そうでしたね。
- 岩田
- ところがあるとき、宮本さんが
「実は猫を飼いはじめたんです」と発言したら、
世の中の任天堂に興味を持ってくださっている人たちの間では、
「次は『nintencats』がくるに違いない!」みたいに、
期待する空気が生まれたように感じられましたよね。 - 紺野
- 実際、「次の『nintendogs』をどうするか」というタイミングで
宮本さんが猫を飼いはじめて、
「猫と犬がいっしょに生活するというのは面白いよ」という話を
われわれはさんざん聞かされるようになりました(笑)。 - 岩田
- 宮本さんはもともと、1匹の犬を飼っていましたが、
その後猫がやってきて、両方を飼うようになると、
犬と猫の関係とか、犬と猫の違いとかを
観察されていたんですか?
- 宮本
- うん、そうですね。
猫はこういうものだという話はいろいろ聞いていて、
だから「飼うのは難しいのかなあ」とは思っていたんですけども、
幸いなことにうちの犬が、後から来た猫とうまくいきまして、
それは自分の子どもと思ったのかもわからないんですけど。 - 岩田
- 先輩犬が、後からやってきた子猫のことを
自分の子どものように接してくれたんですね。 - 宮本
- そうなんです。これがラッキーでした。
猫のほうもすごくちっちゃかったので、
犬のことを親と感じたのか、すぐに仲良くなったんです。 - 岩田
- そもそも、犬と猫というのは
仲がよい家と、そうじゃない家があったりするそうですね。 - 宮本
- ええ、顔さえ合わせないという家もあります。
で、うちの2匹が仲良くしている姿を見ていると、
とてもいい絵がいっぱいあるわけですよ。
たとえば、犬がトコトコと歩いてると、
後ろから猫がトットットとついていくとか、
夕陽をバックに2匹で仲良くシルエットになっていたりだとか。
そこで思い出したのが、子どもの頃に観た
ディズニーの『三匹荒野を行く』(※3)という映画なんです。
遠く離れた友人の家にあずけられた2匹の犬と1匹の猫が、
飼い主の元に帰ろうとする冒険の物語なんですけど、
すごく美しかったんですよ、これが(笑)。 - 岩田
- はい(笑)。
『三匹荒野を行く』=カナダのベストセラー小説をもとに、1963年に映画化された作品。また、1993年には『奇跡の旅』として、リメイク版が公開されている。
- 宮本
- なので、ゲームのなかでも
犬と猫が仲良くしている絵があれば、
うれしいかなと思ったんです。 - 岩田
- じゃあ、宮本さんの家で飼った猫が、
先輩犬と馴染まなかったら・・・? - 宮本
- たぶん想像だけでつくってるでしょうし、
そもそも、この商品が生まれなかったかもしれない。 - 岩田
- 今回のようなかたちにはなっていないかもしれない、
ということですか? - 宮本
- ええ。どっちにしろ『nintencats』をつくるのは
任天堂らしくないわけですけど、
世の中には猫が好きな人もたくさんいらっしゃいますし、
そうすると猫をゲームのなかに入れたいけど、実際飼ってみると
猫を飼うことに犬ほどの遊びの要素がない・・・。
そこで、犬と猫の絡みを見せるというのが
ほどよいかな、という結論に至ったんです。
- 岩田
- そういったことは紺野さんに話す前から、
宮本さんの頭のなかで、ある程度決まっていたんですか? - 宮本
- そうですね。
なので、あくまでも『nintendogs』としてつくりましょう、
と言いました。 - 岩田
- メインは犬なんですね。
- 宮本
- はい。犬との生活がまずあって、
何かのかたちで猫が絡んでくるようにしたいと思ったんです。
なので、ゲームのはじめにショップに行って、
「猫を飼いますか? それとも犬を飼いますか?」
という構造にしないようにしました。 - 岩田
- なるほど。
- 宮本
- ですから『nintendogs + cats』というタイトルは、
わりと必然的に決まったんです。 - 紺野
- そうでしたね。
- 宮本
- しかも「cats」の字は、
「nintendogs」よりもちっちゃくしようと。 - 岩田
- 猫はあくまで「プラス キャッツ」としての位置づけ、
ということなんですね。 - 宮本
- だから本当は、猫がいつの間にか現れて、
犬との生活に花を添えるような感じにしたかったんです。 - 紺野
- でも、開発スタッフのなかに大の猫好きがいて、
彼らが「平等に扱ってほしい」と言ってきまして・・・。 - 岩田
- 犬と猫を平等に、ですか。
- 宮本
- さらに、実際につくりはじめてみると、
同じ4本足の動物でも、犬と猫はまったく違うので、
「ぜんぜん違うものをつくらなあかん」と
思うようになったんです。 - 岩田
- 猫は思ったよりも手強かったんですね。
- 紺野
- 本当にそうなんです。とても手強い動物でした。