『ニンテンドー3DS』
内蔵ソフト 篇
6. 悔しさをバネに『顔シューティング』
- 岩田
- 鈴木さんは『顔シューティング』をつくるとき、
どんなことにこだわっていたんですか? - 鈴木
- 僕はかつてハル研究所(※14)の人たちといっしょに
『常識力トレーニング』(※15)をつくっていたんです。 - 岩田
- 今回の『顔シューティング』も
ハル研の人たちといっしょにつくったんですよね。
ハル研究所=『星のカービィ』や『スマブラ』シリーズなどを手がけてきたソフトメーカー。通称「ハル研」。
『常識力トレーニング』=常識力を身につけるソフトとして、2006年10月にDS用ソフト『いまさら人には聞けない 大人の常識力トレーニングDS』、2008年3月にWii用ソフト『みんなの常識力テレビ』が発売されている。
- 鈴木
- はい。『顔シューティング』は、笑いをテーマにしているためか、
「『メイドインワリオ』のチームがつくってるんじゃないの?」と、
よく言われたりするんですけど、
実は『常識力』をつくっていたチームだったりするわけなんです(笑)。 - 河本
- ハル研さんにはずいぶんお世話になりました。
『ARゲームズ』はスタッフの半分がハル研さんですし、
他にもいろいろいっしょにつくりました。 - 鈴木
- で、僕としては、
前回『常識力』をつくったものですから、
「そろそろトレーニングではないゲームをつくりたいなあ」と。 - 岩田
- 同じ方向の商品づくりがつづくと
ちがうことをしたくなるものですよね。 - 鈴木
- はい。トレーニングソフトを遊ばれたお客さんにも、
興味を持ってもらえるゲームらしいゲームをつくりたかったんです。
そんな気持ちを強く持ちながら
『顔シューティング』の開発に入りました。 - 岩田
- 今回のソフトのように、自分や
自分の知っている人の顔が出てくるだけで面白いと思うのですが、
「それだけでは終わらせないぞ」という気持ちで
のぞんだということですね。 - 鈴木
- はい。顔の一発芸で笑わせることは
もちろんできるんですが、それ以上に僕たちとしては
ゲームとしてのオチをつけようということを
最初から決めて制作を進めました。
「へ~」で終わるのではなく、「おっ」と思って、
もう1回やってみたくなるようなことに、
とてもこだわったんです。 - 岩田
- このゲームを遊びこんでいくと、
意外とたくさんの要素が盛り込まれている印象ですね。
- 鈴木
- 当初は顔をモンタージュで変えたりとか、
顔のネタを使った実験をたくさんしていました。
すごい数のネタが出てきたので
全部敵に当てはめていこうというふうに決めて・・・。 - 岩田
- ハッキリ言って、『顔シューティング』も
『ARゲームズ』もそうなんですけど、
本体のオマケにしておくのはもったいないくらいの密度ですよ。 - 鈴木
- はい、結果的にいろんな要素を詰め込めたと思います(笑)。
やっぱりタイトルで『顔』と名乗っているからには、
顔ネタを全部そこにぶち込もうという勢いでつくってきたんですけど、
『合体カメラ』がウケていることに悔しさを感じてしまいまして・・・。 - 岩田
- 『合体カメラ』に負けているということですか?
- 鈴木
- はい。なので、なんとか対抗したいと考えて、
実際に遊んでいて、たとえば目の前にいる岩田さんにカメラを向けると、
自分の顔だった敵が岩田さんの顔にすげ替わってしまうという要素を、
最後の最後に入れました。 - 岩田
- 画面に映っている現実の映像を
リアルタイムに認識することができるので、
それを活かすことにしたんですね。 - 鈴木
- はい。そのように、最後の最後まであがくほど
『合体カメラ』には悔しい思いをさせられました・・・。 - 秋房
- でも、『顔シューティング』にも、
『合体カメラ』で撮った写真が敵として出てきますよね? - 鈴木
- そう、あまりに悔しかったので、『合体カメラ』で撮った写真は、
『顔シューティング』でも使えるようにしました(笑)。
なので、たとえば水木さんと河本さんを合体した顔が
ゲーム中に突然登場するようなこともあります。 - 秋房
- まあ、河本さんと合体した顔であっても、
誰が見ても水木さんなんですけどね(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- それにしても、別に撮ってあった写真が突然現れたり、
部屋のなかの顔が、突然認識されたのを見たときは、
けっこう驚きますね。 - 鈴木
- そうですね。
「あれ? あの顔、どこから来たんだろう?」と
思ってほしかったんです。
どうしても最初に撮影した顔だけだと、
驚いてもらえなくなりますから。
そのような演出ができたのは、『3DSカメラ』があったからなんです。
『ARゲームズ』も同じなんですけど、
スクリーンショットをたくさん撮って、
自分が遊んだ歴史をたっぷり残すこともできます。
- 秋房
- そのスクリーンショットなどの仕様は、
『3DSカメラ』チームで全部引き受けました。
その意味でも、今回のプロジェクトは
全体的に、わりとうまく連携がとれたように感じます。 - 岩田
- 一見、テーマがばらばらなのに、
一方ではいろんなところでつながりが感じられますね。
しかも別のチームに所属しているのに、
ひとつの考えのもとにまとまって
今回はつくられたような気もするんです。 - 鈴木
- それはやっぱり、同じフロアで
いっしょに仕事をしていたからでしょうね。 - 秋房
- となりのチームでは、こんな仕様を入れてるので、
「うちではどうしよう?」みたいなことも
たくさんありましたしね。 - 岩田
- そうか・・・仲間であり、ライバルでもあると。
- 河本
- たとえば『ARゲームズ』でMiiを撮るという機能は、
最初は『3DSカメラ』に入ったほうがいいんじゃないかと思って、
秋房さんのチームに相談しに行ったんです。
ところが時間的にキビシイという話になって、
結果的に『ARゲームズ』に入れることにしたんですけど、
そのような相談を普通にしていましたから。 - 鈴木
- 僕が思い出すのは、『3DSカメラ』のラクガキで、
モコモコペンという機能があるんです。
あれはもともと、ハル研さんが実験していたんです。
それを見て、「これは『3DSカメラ』にあったほうがいいよね」
ということで、ハル研さんから引き揚げて、
秋房さんのところに持っていって、
最終的にインテリジェントシステムズさんにつくってもらったりとか、
今回はそんな感じで、かなりダイナミックに対応していました。 - 岩田
- なるほど。
そのようなことができたのは
長年、本体機能を見てきた黒梅さんの目には、
どのように見えているんでしょうか? - 黒梅
- えー、僕は今日、ずっと聞いてるだけなんですけど、
みんな笑いながら話しているのを見て、
「こんなに仲良かったかな?」って思っているんですが(笑)。 - 一同
- (笑)
- 秋房
- 開発中はやっぱり仲間であり、ライバルですから(笑)。
- 黒梅
- でも、物理的に距離が近くないと、
今回のように大きなものはつくれませんので、
先ほど鈴木さんが言ったように、
内蔵ソフトをつくってくれているメンバーに
同じフロアの同じ部屋に集まってもらいました。
- 岩田
- 全員ではないけれど、極力同じ部屋にしたんですね。
- 黒梅
- はい。それに、1年間いっしょに開発してくれた
ハル研さんもそうなんですけど、
そのような近い環境で開発できたのが
すごくよかったなあと感じています。
それから、
今日は残念ながらこの場に来られなかったんですけど、
環境制作部の古川(聡)さんと正木(貴子)さんが、
「横断部」という名のもとに、
各開発チームの調整役を担ってくれたんです。 - 岩田
- 古川さんは、黒梅さんといっしょに、
UIのことにずっとかかわってきた人ですので、
統一感がいかに大事かということは
身にしみてわかっているんですよね。 - 黒梅
- そうですね。
やはり、これだけバリエーションが豊富で、
数も多い内蔵ソフトを、
ひとつの商品としてまとめて、
お客さんが迷わないようにするためにも
とても大事なことですから。 - 岩田
- 「横断部」のみなさんがバラバラにあるものを
横串をさすように、そろえたんですね。 - 黒梅
- はい。なので、HOMEメニューをはじめ、
今回の内蔵ソフトを含めて、
任天堂らしい商品ができたのではないかと思います。