『いつの間に交換日記』
1. 「この企画、大丈夫?」
- 岩田
- 今日はニンテンドーeショップで
配信がはじまった『いつの間に交換日記』について、
お話をお訊きしたいと思います。
それではまず、みなさんからそれぞれ
何を担当されたか、自己紹介をお願いします。 - 竹之内
- 電遊社(※1)の竹之内と申します。
『いつの間に交換日記』ではプログラムのまとめと、
「いつの間に通信」(※2)のプログラムまわりを担当しました。
電遊社=京都のゲーム開発会社。携帯ゲーム機「ポケモンミニ」のソフト開発や、「ニンテンドーゾーン」や『出前チャンネル』の開発協力、さらにニンテンドー3DSでは本作のほか、「ゲームメモ」の開発を行ってきた。2002年設立。
「いつの間に通信」=ニンテンドー3DSが、インターネット無線アクセスポイントを探して自動的に通信を行い、さまざまな情報やコンテンツを受信する機能。
- 近藤
- 電遊社の近藤と申します。
今回はUI(ユーザーインターフェイス)まわりを中心に、
リードデザインを担当しました。
- 今井
- 任天堂ネットワーク事業部の今井です。
ディレクターを担当しました。
- 北井
- ネットワーク事業部の北井です。
「びんせん」のデザインを担当しました。
今回は開発の終盤に参加しました。
- 岩田
- 北井さんはネットワーク事業部に異動になって
どれくらい経ったんですか? - 北井
- 半年くらいです。
- 岩田
- じゃあ、最後に北井さんが加わったことで、
この商品がちょっと変わった、
という面もあるんですね? - 今井
- そうですね。
- 岩田
- そのあたりの話はのちほど訊くことにして、
そもそもこのソフトができた経緯を
今井さんから話してもらえますか? - 今井
- はい。最初のキッカケは
2008年11月にニンテンドーDSi(※3)が発売されて間もない頃、
「DSiのダウンロードソフトがあまりないよね」
という話をしていたことでした。
ニンテンドーDSi=2008年11月発売。『ニンテンドーDSiカメラ』や『ニンテンドーDSiサウンド』などさまざまな機能が搭載されたニンテンドーDSシリーズ本体。インターネットを通じて『ニンテンドーDSiショップ』につなぐことで、さまざまなソフトをダウンロード購入することができる。
- 岩田
- 「DSiのダウンロードソフトが少ない」という話から、
なぜ今回の3DSのソフトにつながるのか、
この記事を読んでおられるみなさんには
かなり不思議でしょうね(笑)。 - 今井
- そうですね(笑)。
まずそのときに、部内でも何かできないかと
みんなで話し合っていくなかで、
「絵日記」のアイデアが出てきたんです。
ダウンロードソフトにちょうどいいですし、
「じゃあ、僕がやります」と自分から手を挙げたのが
このプロジェクトの最初のキッカケです。 - 岩田
- 自分から手を挙げたのはどうしてなんですか?
- 今井
- もともと絵日記の話が出る前から、
「母子手帳」のように子どもの成長の記録をつけていって、
いつか大きくなってそれを渡すようなことができたら
素敵だなと考えていました。
岩田さんはDSiのときに
「マイDS」ということを言われていましたし、
自分の気持ちや大切な人への想いがつまったものがあれば、
きっとそれは大切な宝物、
まさに「わたしのもの」になると思っていたんです。
そこで「絵日記」というアイデアがあがったとき、
わたしの姉に子どもが生まれて
10年間、日記をつけていたのを思い出しました。
姉がやっていたことはまさに
わたしが母子手帳でやりたかったことで、
絵日記なら、タッチペンなら、
きっとそれができると思ったんです。 - 岩田
- いまの時代、パソコンや携帯電話の普及で、
タイプされた文字が当たり前になっていますけど、
どうして手書きの「絵日記」にしようと思ったんですか? - 今井
- 誰にも心当たりがあると思うんですが、
タイプしたメールだと、自分の気持ちを
なかなか伝えきれないことが多いんです。 - 岩田
- たしかに絵文字という発明はあったにせよ、
テキストだと、なかなか気持ちが伝わらない場合がありますよね。
「メールだとケンカになりやすい」
ということも言われますし。
- 今井
- そうなんです。
僕の友だちで、けっこう昔の話なんですけど、
携帯メールで気持ちがうまく伝えられなくてケンカになり、
その電話を泣きながら湖に投げ捨ててしまった人もいました(笑)。
あとで拾いに行ったそうですけれど。 - 一同
- (笑)
- 今井
- でも、そうしてしまうくらい、
テキストだけでは自分の気持ちを伝えきれないんです。
ところが手書きだと、書いた人の個性が出ますし、
何より温かみがあると思うんです。
そこで、手書きにはこだわりつつも、
DSiで開発をはじめた当初は、
自分だけで絵日記をつけるという
とてもシンプルなものをイメージしていたんです。 - 岩田
- 人とやりとりできる「交換日記」ではない、
自分だけの「絵日記」としてはじまったんですね。 - 今井
- そうです。
ですから3カ月で完成させるつもりでした。 - 岩田
- その3カ月が、
なぜか3年になってしまった、
ということなんですよね。 - 今井
- はい(笑)。
で、開発をはじめたとき、
絵日記がどんなものなのかを知るために、
「実際に自分たちで書いてみよう」
という話になったんです。 - 岩田
- それは紙にですか?
- 今井
- はい。紙に書くリアルな絵日記です。
というのも、開発スタッフのなかで、
日記を毎日つけている人は
電遊社さんの近藤さんしかいなかったんです。 - 近藤
- はい(笑)。
- 今井
- それで絵日記をつけはじめたんですけど、
1カ月くらい経ってみんなに聞いてみると、
続けていたのは僕と竹之内さんの
ふたりだけでした。 - 竹之内
- でしたね(笑)。
- 今井
- ですから「この企画、大丈夫か?」と思うと同時に、
「どうしてやめちゃうんだろう?」というのが、
そのときの僕らの大きなテーマになりました。 - 岩田
- いかに日記を続けてもらうか、
ということがテーマになったんですね。 - 今井
- そうです。
- 岩田
- ところで竹之内さん、
まず最初に「絵日記」というテーマを
聞いたとき、どんなことを考えましたか?
まあ、この話を聞いて、
「絵日記のソフトに需要なんてあるのだろうか?」
と思うのは、想像に難くないんですけど。 - 竹之内
- はい・・・正直に言いますと、
タイピングで文字を打つのが当たり前の
このデジタルな時代にあって、
あえて手書きにすることに
「何を求めているのかな?」と、最初は思いました。 - 岩田
- やっぱり(笑)。
- 一同
- (笑)
- 竹之内
- でも、先ほども話にありましたように、
実際に日記をつけてみると、
意外にも続けることができたんです。 - 岩田
- それは、日記をつけることそのものに
面白さを感じたということですか? - 竹之内
- そうです。
日記を書くといろいろな発見があって、
たとえば些細なことなんですけど、
パソコンや携帯電話の
漢字変換機能に頼り切っていて、
漢字が書けなくなっている自分に気づかされました。
それに、タイピングではできない、
たとえばちょっと絵を描き添えたりとか、
強調したいところは大きな文字で書いたりと、
手書きだととても簡単にできちゃいますし、
自分の思い出もしっかり残りますので、
これは絶対に面白いと思いました。
- 岩田
- だから続けられたんですね。
- 竹之内
- はい。
- 岩田
- 近藤さんはもともと、
ずっと日記をつけていたんですよね。 - 近藤
- はい。このお話をいただいたとき、
すでに6年ほど日記をつけていましたので、
自分にピッタリな仕事だと思いました(笑)。 - 岩田
- 日記をつける面白さはどこにあると思いますか?
- 近藤
- 書いたことがどんどんたまっていくところです。
それで前に書いたものを読み返してみると、
「このときは、こんなことを考えていたんだなあ」と
発見があるんですね。
なので、自分では日記の面白さはわかっていたんですが、
その魅力を人にどう伝えたらいいのか、
どうすれば日記をつけてもらえるのか、
というところで、すごく悩みました。
実際に開発チームのなかで
日記を続けられたのがふたりなわけですから、
“続けるための何か”が、
この「絵日記」には必要だと思いました。