『ポケモン立体図鑑BW』
2. まるでポケモンがそこにいるように
- 岩田
- 今回は図鑑ですから、まずポケモンの
3Dモデルをつくることからはじまったんですよね。 - 石原
- そうですね。
- 岩田
- ポケモンの立体のモデルというと、
本当に大昔の話になりますけど、
N64の時代に『ポケモンスタジアム』(※8)や
『ポケモンスナップ』(※9)などで
わたしは石原さんとご一緒して、
たくさんのモデリングをする仕組みづくりを
お手伝いしました。 - 石原
- そうでした(笑)。
クリーチャーズのなかに
「ポケモンモデリングセンター」というチームをつくって、
そこでたくさんのモデルをつくりましたね。 - 竹内
- そのN64の時代に、
ポケモンのモデリングにかかわったスタッフがいまして、
今回もこの仕事にかかわってくれたんです。
- 岩田
- だから、ポケモンを3D化するという意味では、
長い伝統やたくさんの経験を積んでいるので、
「クリーチャーズさんにお任せ」という感じなんですよね。 - 竹内
- はい(笑)。
『ポケモンスタジアム』=1998年8月、NINTENDO64用ソフトとして発売された対戦&図鑑ソフト。3Dのポケモンで対戦したり、付属の64GBパックから、ゲームボーイカートリッジの「ポケモンボックス」を管理できるソフト。『ポケットモンスター 赤・緑・青・ピカチュウ』に対応。
『ポケモンスナップ』=1999年3月に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたカメラアクションゲーム。
- 岩田
- 今回のその仕事は、何人くらいで行ったんですか?
- 竹内
- 図鑑の開発とは別に、モデラーだけで30人くらいです。
モーション担当も5人ほどいました。 - 石原
- まさに人海戦術です。
- 岩田
- ただ、それほどたくさんのスタッフがいると、
品質をそろえるのが大変だったりしますよね。
とくに『ポケモン』のようなソフトでは
たくさんのキャラクターが出てくるうえに、
お客さんひとりひとりのお気に入りが異なりますので、
特定の1匹だけに力をそそぐこともできないですし。 - 竹内
- そうですね。
実際にはアートチームの中で割り振りを決めていて
わたしは指示してないのですが、
形状が複雑なポケモンは
難しいモデルを描くのが得意な人に、
かわいいポケモンは、それに向いてる人に、という感じで
デザイナーの特性によって割り振っていました。 - 岩田
- まず、“誰に割り振るか”が大事だったんですね。
3DSというハードでつくることに関しては、
どのようなことを感じましたか? - 竹内
- 3DSでは、プログラマブルシェーダ(※10)に準じた
新しいグラフィックス技術が使えるようになりましたので、
とても豊かな表現ができるようになったと思います。
プログラマブルシェーダ=「シェーダ」とは主に光や影などの表現を行うグラフィックス処理回路やプログラムのこと。プログラマブルシェーダとは、このシェーダにおいてどのような計算をするかを自由に設定できるようにした方式で、自由度が高く、いろいろな陰影表現が可能になると言われている。ニンテンドー3DSに搭載されているシェーダはプログラマブルシェーダではないが、プログラマブルシェーダで利用される代表的なシェーダ計算をハードウェアによって効率的に行えるようになっている。
- 小笠原
- それからセルフシャドウを使っているのも、
今回の特徴のひとつですね。 - 岩田
- 「社長が訊く」の読者のみなさんのために、
セルフシャドウとはどんなものなのか、
少し説明していただけますか? - 小笠原
- ふつうCGに影をつけるとき、
モデルが立ってる床や地面につけることが多いですけど、
セルフシャドウというのは文字通り、
自分の影を自分自身に落とすことです。
たとえばポケモンには、大きい耳のタイプが多いですけど、
その
耳の影が、背中にも落ちるようになっています。
- 岩田
- 現実世界では自分自身にも影が落ちるのは当たり前ですが、
そのように細かいところまで、
お客さんに見てほしいということですね。 - 小笠原
- はい。影はARのためにも必要でした。
- 竹内
- 影をいれることで
まるでポケモンがそこにいるような現実感を出すことが
できたんじゃないかと思います。 - 小笠原
- あと、Aボタンを押すと、
それぞれのポケモンのアニメーションが見られますので、
そこもいろんな角度から見てほしいですね。
- 岩田
- そのアニメーションというのは
どうやって決めていったんですか?
ポケモンそれぞれに動きがありますし、
ましてや今回は新ポケモンなので
参考にするものはありませんよね? - 竹内
- 今回はダウンロードソフトなので、
容量にも制限がありますし、
ひとつのアニメーションをつくって、
いろんなポケモンで使い回したほうが
効率よくつくれるんですが・・・。 - 岩田
- でも、「今回はそうしたくはなかった」ということですか?
- 竹内
- はい。やっぱりポケモンにはそれぞれ個性がありますので、
流用や尺の長さなどのしばりを厳しく設けずに
データをつくってもらうようにアートチームにお願いしました。 - 岩田
- 全部同じにするんじゃなくて、
むしろどうしたら個性が立つか、という方向で
アニメーションをつけていったんですね。 - 竹内
- そうです。
なので、個性を立たせるために、
すごく長い尺をとっているものも、まれにあります。 - 石原
- たとえば、あるポケモンには、
2種類のアニメーションがあって、
Aボタンを押して、アニメーションが出て、
もう1回押すと、別のアニメーションになる場合もあるんです。
すると、「このようなポケモンはあといくついるの?」
という気持ちになりますよね。 - 岩田
- だから、集めたポケモンの
全部のアニメーションを見たくなるんですね。 - 石原
- そうです。
しかも下画面の図鑑を見ると、テキストが書いてあって、
そのポケモンにはどういう能力があって、
どんなわざを覚えて、どういうふうに進化するのか、
というところの系譜も、全部わかりますので、
ゲームをしなくても、生き物としての
ポケモンの“ありよう”というか、
ディテールが理解できるんじゃないかなと思います。 - 岩田
- 気になるところをタッチしたら、
さらに詳しい情報に飛ぶような構造になっていますね。 - 小笠原
- はい。たとえば技の名前をタッチしたら、
それがどんな技なのか、とか、
さらに、その技を覚えられる
ポケモンの一覧が見られるようになっています。 - 石原
- で、今回のソフトの特徴のひとつなんですけど、
6カ国語対応になっているんです。 - 小笠原
- それができるようになったのは、
本当に最後の最後でしたよね(笑)。 - 石原
- 最後の最後に僕が、
「6カ国語対応にならないの?」と聞いたら
「えー・・・なります」って言うので、「ぜひ」と(笑)。
そこで、日本語のほかに、英語、フランス語、ドイツ語、
イタリア語、スペイン語に切り替えできるようになりまして、
「言語切り替え」というボタンひとつで、
瞬時に切り替わるのが、すごく不思議な感じなんです。
だから、うちのライセンスチームとかも、
「このポケモンは英語で何て言うの?」というときに、
これを見ながら確認しています(笑)。 - 岩田
- なるほど(笑)。
- 石原
- さらに、デザインに携わっているような人たちも、
「このポケモンの後ろ姿は?」とか
「あのポケモンのしっぽの形は?」というときに、
ぐるぐる回しながらチェックして、
「ああ、そうか、そうか」と(笑)。 - 岩田
- なるほど。
ポケモンのライセンス管理をされているみなさんから見ると、
そういう便利さもあるんですね。 - 石原
- なので、今回の立体図鑑は
業務用としても十分、使えます。 - 一同
- (笑)