『すれちがい通信中継所』
1.DS本体をコインロッカーに
- 岩田
- 「すれちがい通信中継所」のサービスが
8月6日からはじまりましたが、
日本では、このサービスを実施することを
事前にお知らせできておらず、
突然はじまったように感じた方も
少なくないと思っています。
すでに日本では、200万人以上のお客様が
このサービスを利用されているのですが、
このサービスがどのように実現されたか、
ということに関しては、
ちょっと興味深い話が訊けそうですので、
急きょ、このプロジェクトにかかわったみなさんに
お集まりいただきました。
それでは、最初に自己紹介をしてください。
まず、紺野さん、お願いします。 - 紺野
- 情報開発本部の紺野です。
DSの『nintendogs』(※1)、
それに3DSのニンテンドー3DSについても
総合的なまとめ役を担当しています。
今回の「すれちがい通信中継所」についても
深くかかわることになりました。
『nintendogs』=2005年4月発売のニンテンドーDS用ソフト。お気に入りの子犬たちとの触れ合いを楽しむコミュニケーションソフト。
『nintendogs + cats』=2011年2月に、ニンテンドー3DSと同時に発売されたコミュニケーションソフト。今作で子猫とも一緒に生活できるようになった。
- 岩田
- 今回のプロジェクトでは、
紺野さんはどんな役割でしたか? - 紺野
- ひとことで言いますと“言い出しっぺのひとり”です。
日本でもそうですが、とくにアメリカや欧州において、
より多くの人たちに「すれちがい通信」を
楽しんでいただきたいと思いまして、
このプロジェクトを進めてもらうことにしました。 - 山崎
- ネットワーク開発運用部の山崎です。
ここ数年は、3DSとWii Uで
通信周りのシステムを担当してきました。
今回はその一環で、「すれちがい通信中継所」の、
サーバー側の開発チームのとりまとめを担当しました。
- 岩田
- 今回はこのプロジェクトの
リーダー的な役割だったんですね。 - 山崎
- そうです。
- 岩田
- 山崎さんは
「いつの間に通信」(※3)の仕組みをつくるうえでも、
とりまとめを担当していましたよね。
「いつの間に通信」=ニンテンドー3DSが、インターネット無線アクセスポイントを探して自動的に通信を行い、さまざまな情報やコンテンツを受信する機能。
- 山崎
- はい。
- 河原
- ネットワーク開発運用部の河原です。
わたしはこれまでに、
Wiiの『みんなのニンテンドーチャンネル』(※4)や
『Wiiの間』(※5)のように
映像配信系のサービスにかかわってきました。
それから「いつの間に通信」の
サーバー側の担当をしてきました。
今回の「すれちがい通信中継所」では
「中継所」そのものの基盤づくり、
いわゆる“インフラ”を担当しました。
『みんなのニンテンドーチャンネル』=Wiiチャンネルのひとつ。WiiやニンテンドーDSなどに関する動画や、体験版などを楽しめるチャンネル。現在は、サービスを終了している。※5『Wiiの間』=Wiiの間株式会社が運営していた、Wiiチャンネルのひとつ。「ショッピング」「ホームシアター」「いろんな間」の3つのサービスからなる“お茶の間コミュニケーションチャンネル”として、Wiiの間でしか買えないオリジナル商品に加え、グルメ・日用品・ファッション・インテリアなどのショッピングや、映画やアニメ・懐かしの番組などを期間レンタルで視聴できる有償映像サービスなどを提供していた。現在は、サービスを終了している。
- 岩田
- 河原さんはどういう経緯で、
今回のプロジェクトに巻き込まれたんですか? - 河原
- その話をしようとすると、
微妙に長くなってしまうんですけど・・・。 - 岩田
- はい、いいですよ。
- 河原
- 隣に座っている井上さんと僕は、
3年くらい同じチームを組んでいるんですが、
もともとこのチームを組んだ目的は、
今回のプロジェクトのためだったんです。 - 岩田
- 3年前って、3DSが発売前で、
まだ開発していた時ですよね。 - 河原
- そうです。
じつは3DSの発売前から
「中継所」の構想があったのですが、
気がついたときには、なぜか「いつの間に通信」の
サーバーの開発をしていました(笑)。 - 岩田
- いつの間にか「いつの間に通信」(笑)。
- 一同
- (笑)
- 河原
- で、今年の春に、
「中継所」を本格的にやることになりまして、
ついに3年越しの悲願が叶ったという感じです。 - 岩田
- では、同じく3年前から
同じチームだった井上さん、お願いします。 - 井上
- ネットワーク開発運用部の井上です。
「すれちがい通信中継所」では
サーバー側のメインプログラマーを担当し、
クライアント(3DS)側担当の松岡さんと
中継処理の仕組みを検討しました。
わたしも入社以降、
『みんなのニンテンドーチャンネル』と、
3DSとWii Uの「いつの間に通信」の
サーバー開発と運用を主に担当してきました。
それで、河原さんが言ったように、
今回「すれちがい通信中継所」を
3年越しにリリースできて
たいへんうれしく思っています。
- 松岡
- 環境開発部の松岡です。
わたしはもともと、
3DSとWii Uでのローカルプレイ、
ダウンロードプレイなどの本体同士で行う
通信のSDK(※6)開発を担当していましたが、
今年の4月半ばに突然巻き込まれてしまいました。
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SDK=ソフトウェア開発キット(Software Development Kit)。ゲームなどのアプリケーションソフトを開発するために使用するツールのセット。
- 岩田
- じゃあ、3年越しの人と、
突然巻き込まれた人が混ざって、
このプロジェクトをやったわけですね。 - 松岡
- はい。ということで、
今回は3DS本体側のプログラマーとして、
技術的なとりまとめを担当しました。 - 岩田
- さて、「中継所」の話に入る前に・・・
そもそも「すれちがい通信」は
3DSからではなく、
DSですでに実現していましたよね。 - 紺野
- そうですね。
『nintendogs』の時がはじめてでしたから。 - 岩田
- もっとさかのぼると、
ゲームボーイアドバンスの時代から、
「こういうことができたらいいよね」ということで、
「すれちがい通信」の元になる実験をしていましたけど、
どうして『nintendogs』の時に
「すれちがい通信」を活用しようと考えたんですか? - 紺野
- それはよく覚えているんですけど、
宮本(茂)さんがあの当時、犬を飼いはじめたんです。 - 岩田
- はい、そうでしたね。
- 紺野
- それで、犬を連れて散歩に行くと、
公園のような場所に犬好き同士が集まって、
会話をするのがとても楽しい、
という話をしていたんですね。
で、「そのように身近なコミュニティのなかで生まれる
ゆるいつながりのようなものが、
DSでも実現できたらおもしろいね」
ということが、そもそもの発端になったと思います。 - 岩田
- それで、DSの時は
『nintendogs』を持った人同士がすれちがうと、
お互いの飼い犬が遊びに来るようになり、
それが「すごくおもしろい」と言ってくださる
お客さんもいらっしゃいましたけど、
一方で、DS時代の「すれちがい通信」は
3DSと比べると、かなり制約が多かったですね。 - 紺野
- そうなんです。
『nintendogs』をDSで起動した状態にしていないと
「すれちがい通信」ができませんでしたから。 - 岩田
- だから、『nintendogs』で
ずっと遊んでいる方でも、
外出するときに別のソフトを遊んでいると、
すれちがうチャンスはゼロだったんですよね。 - 紺野
- そうですね。
- 岩田
- 一方で、DSの時代にも、
「すれちがい通信中継所」を試しましたよね。 - 紺野
- はい。ちょうど8年前でした。
- 岩田
- 紺野さん以外に
DS時代の「中継所」にかかわっていた人は、
このなかにはいませんか? - 山崎
- 僕がかかわっていました。
- 岩田
- あ、山崎さんが?
- 山崎
- はい。あの時はまず
「すれちがい通信」用のDSを用意しまして。 - 岩田
- あの時の中継器は
DSそのものだったんですよね。 - 山崎
- 最初は「中継所」というものを展開しても
どの程度「すれちがい通信」が成立するのか、
本当に意味があるのかどうかよくわからなくて、
検証のために駅のコインロッカーに入れて
実験したりしていました。 - 岩田
- でも、DS本体を
コインロッカーに入れるわけですから、
電池切れの心配がありますよね?
- 山崎
- そこは、市販の電池式充電器で対応しました。
単三乾電池を3本入れて、それをDSにつないで、
なんとか1日もたせようと(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 当時は、本当に原始的なやりかたで、
手探りで実験している感じでしたよね。