『すれちがい通信中継所』
『すれちがい通信中継所』
- 岩田
- 山崎さんがDS本体を
コインロッカーに入れる一方で、
わたしも、広告宣伝を担当している部署の人たちに、
「どっかに電源がとれる媒体はないですか?」
というのを聞き回ってもらっていたんです。
とにかく、電源がなければ、
毎日電池交換が必要になるので、
現実的な運用はできないとわかっていましたから。 - 紺野
- そうでしたね。
- 岩田
- すると、首都圏の駅にある電光の看板の中に、
電源がとれるものがあるらしいということがわかって、
しばらく「すれちがい通信中継所」を
常設させてもらったこともありました。 - 紺野
- はい。
それ以外にも、全国の主要な駅のほか、
いろんなお店のご協力もいただきました。 - 岩田
- ただ、そうは言っても、
手作業で設置しないといけませんでしたので、
たくさんの拠点に置けるわけでもなく、
当時できたことはすごく限定的だったわけですが、
それでも、『nintendogs』のすれちがいを
多くのお客様に1回は体験してもらいたい、
というつもりでやっていたんですよね。 - 紺野
- はい。
- 岩田
- そのあと、『ドラゴンクエストIX』(※7)が出て、
「ルイーダの酒場」(※8)がすごく盛り上がりましたね。
『ドラゴンクエストIX』=『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』。2009年7月に、スクウェア・エニックスから発売されたニンテンドーDS用ロールプレイングゲーム。すれちがい通信では、自分でクリアした宝の地図を、すれちがった相手にプレゼントすることができた。
「ルイーダの酒場」=『ドラゴンクエストIX』のすれちがい通信を求めるお客さんのためにヨドバシカメラ マルチメディアAkiba店が店舗前に設置したすれちがい通信専用スペース。のちに、飲食のできる同名のオフィシャル・バーも六本木にオープンした。
- 紺野
- そうでした。
- 岩田
- 紺野さんはとても悔しがっていましたけど(笑)。
- 紺野
- それはもう(笑)。
そもそも「すれちがい通信」は、『nintendogs』で
大きくブレイクさせるつもりでしたので、
『ドラゴンクエストIX』で大ブームになったのは、
正直言って、ちょっと悔しかったです。
でも、そのおかげで、たくさんの人たちが
はじめて「すれちがい通信」を体験し、
「これはおもしろい」と
感じていただけたと思いますので、
だからこそ、次の3DSを開発するときに、
最初から本体機能のなかに
「すれちがい通信」を入れることができないか、
というプランが、早めに出てきたんだと思います。
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- 岩田
- そうですね。
『nintendogs』での「すれちがい通信」の体験に加えて、
『ドラゴンクエストIX』でのある種のブームのようなことがなければ、
「すれちがい通信」にフォーカスを当てて、
3DSを開発しなかったかもしれませんし、
今日、このようにして
みなさんが集まることもなかったでしょうね。 - 紺野
- はい。そうだと思います。
- 岩田
- さて、ニンテンドー3DSの発売から
2年と半年くらい経って
今回の「すれちがい通信中継所」の
サービスがはじまったわけですが、
どういう仕組みなのか、説明してもらっていいですか?
これを読んでおられる方のなかには、
どんなことが起こっているのか
よくおわかりではない方もいらっしゃると思いますので。 - 河原
- はい。
今回の「すれちがい通信中継所」の仕組みを
簡単にご説明します。
まず、3DSを持ち歩くだけで、自動的に接続できる
無線Wi-Fiのアクセスポイントが世界中に存在しています。
たとえば、アメリカには
AT&T Wi-Fi(※9)のアクセスポイントがありますし、
欧州でも利用可能なアクセスポイントが多数あります。
日本でも「ニンテンドーゾーン」(※10)として展開している
セブン-イレブンさんやマクドナルドさん、
それに家電量販店などの
「ニンテンドー3DSステーション」などがそうです。
そこでは、手動で接続のための設定をしなくても、
任天堂が提供しているインターネットのサービスが、
自動的に受けられるような仕組みになっています。
AT&T Wi-Fi=アメリカ最大の電話会社AT&Tが運営する、ワイヤレス無線サービス。
「ニンテンドーゾーン」=ニンテンドーDSおよびニンテンドー3DSに内蔵されたワイヤレス通信機能を使って、全国のさまざまな施設からインターネットに接続して、場所ごとのオリジナルコンテンツが楽しめるサービス。「ニンテンドーゾーン」について、くわしくはこちら。
- 岩田
- それらは世界中で10万か所くらいあるんですよね。
- 河原
- そうです。
今回の「すれちがい通信中継所」の仕組みは、
そのように、すでにあるインフラを利用しまして、
自分で持ち歩いている3DSが
それらのアクセスポイントにつながったときに、
自分のすれちがいデータがアップロードされて、
同じアクセスポイントに
先にすれちがいデータをアップロードしていたお客さんがいれば、
その人のすれちがいデータが
自分の3DSにダウンロードされるようになっています。 - 岩田
- つまり、「すれちがい」とは言っても、
そのアクセスポイントを介しての
“擬似的なすれちがい”なんですね。 - 河原
- はい、そのとおりです。
そこにいたお客さん同士で、
同時にすれちがいが発生しているわけではなくて、
過去にその中継所に立ち寄った人と、
時間差ですれちがいを行うという仕組みになっています。 - 岩田
- このサービスの発表後に、
同じアクセスポイントで
いれちがいにやってきた人が通信をするので、
インターネット上のやりとりの中で
「“いれちがい”通信」と呼んでいる方がおられたんですけど、
わたしは「うまいこと言うなあ」と思いました(笑)。 - 河原
- そうですね(笑)。
リリースした当日くらいに、松岡さんも
「これ、いれちがい通信だよね」と言ってました。 - 松岡
- ええ(笑)。
- 岩田
- 別の言いかたで「中継所」の仕組みを説明しますと、
通常の「すれちがい通信」だと、
AさんとBさんがいて、
お互いのデータをやりとりするだけなのですが、
今回の「すれちがい通信中継所」では、
AさんとBさんとCさんがいて、
AさんのデータはBさんに、
BさんのデータはCさんに、というように
バトンのように渡る(※11)んですね。
同じ中継所に、直前に来たお客さんのデータを受け取り、
自分のデータは、次に同じ中継所に来られたお客さんに
受け取っていただくことになりますよね。
バトンのように渡る=「すれちがい通信中継所」を介して受け渡しされる「すれちがい通信データ」のイメージは、任天堂ホームページの「すれちがい通信中継所」ページに掲載しています。くわしくはこちらをご覧ください。
- 井上
- そうです。
- 岩田
- すると、たとえばAさんが
『トモダチコレクション』(※12)で遊んでいて、
“旅人”のデータをアップデートしたのに、
次にやってきたBさんが
『トモコレ』を遊んでいなかった場合、
その“旅人”のデータはどうなるんですか?
『トモダチコレクション』=『トモダチコレクション 新生活』。2013年4月に、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたそっくりトモダチコミュニケーションゲーム。すれちがい通信を使えば、生まれた子供を“旅人”として、ほかのプレイヤーの島を渡り歩かせることができる。
- 井上
- 「中継所」にいただいたデータはすべて、
任天堂のサーバーに
アップロードされるようになっています。
それで、次に『トモコレ』を
遊んでいるお客さんがやってくるまでは、
その“旅人”のデータをお預かりすることになります。
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- 岩田
- つまり、Aさんのすれちがいデータは、
Bさんの『すれちがいMii広場』(※13)に現れるけど、
もし、Bさんが『トモコレ』を遊んでおられなければ、
『トモコレ』の旅人データは、
もしかすると、Cさん、あるいはずっと飛んで、
Zさんに届けられるということもあるんですね。
『すれちがいMii広場』=ニンテンドー3DS内蔵ソフト。すれちがい通信ですれちがった人のMiiが集まってくる広場のことで、相手のプロフィールを見たり、『すれちがい伝説』などのさまざまな遊びを楽しむことができる。
- 井上
- そうです。
- 山崎
- ですから、
めったにすれちがいが起こらないようなゲームでも、
今回の「中継所」で、すれちがいが起こる可能性が
すごく高くなったと思います。 - 岩田
- なるほど。
- 松岡
- ただ、「すれちがい通信」対応のゲームは
すでに100本くらい出ているのですが、
その中に、直接すれちがいをしないと、
問題が生じるものもあるんじゃないか、という懸念が、
開発の初期からありました。 - 山崎
- なので、マリオクラブ(※14)に頼んで
すべての3DSのソフトをチェックしてもらいました。
実際に「中継所」を使って、
1個1個、テストしましたので、
けっこう大変だったと思います。
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂の開発中ソフトのデバッグやテストプレイを行う。
- 岩田
- そのテストで、
相性が良くないソフト(※15)は見つかったんですか?
相性が良くないソフト=一部、「すれちがい通信中継所」でのデータのやりとりに対応していないソフトがあります。対応していないソフトの一覧はこちら。
- 山崎
- はい。いくつかありまして、
『カルチョビット』(※16)のように、
AさんとBさんが厳密に交換しないとダメなものや、
『いつの間に交換日記』(※17)のように、
自分のフレンド向けの「すれちがい通信」を行うものについては、
「中継所」に行っても
データがアップロードされないようにしました。
『カルチョビット』=『ポケットサッカーリーグ カルチョビット』。2012年7月発売の、ニンテンドー3DS用サッカークラブ育成ゲーム。すれちがい通信で、ほかのプレイヤーのチームデータを受け取り、そのチームと練習試合や親善試合を行うことができる。
『いつの間に交換日記』=2011年12月より配信がはじまった、ニンテンドー3DS用のコミュニケーションツール。フレンド登録した相手と手書きの日記を交換することができる無料ソフト。
本ソフトは一部サービスを停止しております。くわしくはこちら
- 岩田
- だから、相性が良くないソフトについては、
「中継所」ですれちがいできないようにしてるんですね。 - 山崎
- はい。
- 岩田
- そもそも、今回は、
“いれちがい”と言われるように
通常の「すれちがい通信」とは
通信の方法が異なるわけですよね。
これは、もともと3DSのローカル通信を担当した、
松岡さんのほうで実装したんですね? - 松岡
- はい。
- 岩田
- どんな仕組みなのか
簡単に説明してもらえますか? - 松岡
- 通常の「すれちがい通信」だと、
3DS独自の無線通信を使って、
3DS同士でデータのやりとりを行っていますけど、
今回の「中継所」でデータのやりとりをするときは
「いつの間に通信」を使ってサーバーと通信を行っています。 - 岩田
- だから、「すれちがい通信」なんだけど、
通信手段は「いつの間に通信」なんですね。
ちょっとややこしいですけど(笑)。 - 松岡
- はい(笑)。
単純に通信手段を変えただけなんですけど、
なるべくお客さんから見て、
普段の「すれちがい通信」と違いがないように
考えてつくりました。
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- 紺野
- だから、コンビニに入ったときに
「店内にいる誰かとすれちがったぞ」と思っても、
じつはそのMiiのデータは「中継所」から来たもので、
すれちがった人は、とっくにお店から出ている、
なんてこともあるわけなんですね。