「スーパーマリオ25周年」
社長の代わりに糸井重里さんが訊く
# 11. 『マリオ』はラクに続いてきた?
- 糸井
- いやぁ、今日は、ぼくら、
新書版の本一冊分くらいのことを、
話してるんじゃないかな。 - 宮本
- ははははは。
- 糸井
- いや、ほんと(笑)。
- 宮本
- 当たり前のことばっかり言ってるようですけど、
こうは語られてないよなというところもありますしね。
まぁ、『マリオ』の話は直接出てないかもしれないけど、
どうして『マリオ』ができたのか、っていうようなことは、
これまで話してきたこととすごく関係してますし。 - 糸井
- 『マリオ』の話はたっぷり混ざってますよ。
そう思いながら読めばきっと
ほとんど「あ、そういうこと?」って思うくらい
『マリオ』の話をしてると思います。 - 宮本
- ふふふふ。
- 糸井
- ちょっと振り返りますけど、この25年間、
たくさんの『マリオ』が生まれましたよね。
でも、たとえばこの『スーパーマリオブラザーズ』をつくってたとき、
宮本さんは、つぎの『マリオ2』(※5)のことについては
まったく考えてなかったわけですよね。
『マリオ2』=『スーパーマリオブラザーズ2』。1986年6月3日に、ファミリーコンピュータ ディスクシステム用として発売された、スーパーマリオのアクションゲーム第2弾。
- 宮本
- そうですね。
- 糸井
- だからこそ、続いてきたんだと思うなぁ。
つまり、つぎの『マリオ』については、ノーアイデア。
そこがぼくは、すてきなコツなんじゃないかと思うんです。
もしも「つぎの『マリオ』はこうして、そのつぎはこうして」
っていうロードマップみたいなものを考えながらつくってたら、
きっとこんなふうに続いてなかったと思う。
もしくは、ファンの人たちにアンケートをとって、
「つぎはこういうマリオが求められてる」なんていう
柱を立てながらつくっていたら、
やっぱり、こうはならないですよね。 - 宮本
- そうでしょうね。
だから、『マリオ』シリーズは
どんなふうにつくっていくんですか?
とか、よく訊かれるんですけど、
毎回違うからわからへん、って答えるしかないぐらい、
いつも走りながら考えてる感じなんですよ。 - 糸井
- うん、うん。
- 宮本
- で、振り返ってみると、
『マリオ』をつくるときにラクなのは、
技術の進歩が順番にあったので、
自然と変わっていくことができたんですよね。
たとえば、特撮映画をつくってるときに、
特撮の技術が進むと、その手法によって
新しいつくり方ができるようになりますよね。
それと同じようなことで、
技術が進むと『マリオ』も新しくなれるんですよ。
だから、たとえば「本」なんかは、
基本的にはずっと同じ環境でつくられてますよね。
ああいう、ずっと変わらない環境で
『マリオ』をつくり続けろって言われたら、
たぶん、できないと思うんですよ。
そういう意味ではね、『マリオ』というのは
やっぱりラクに続いてきたかなと。 - 糸井
- いやぁ、「ラク」って(笑)。
- 宮本
- いや、ほんと(笑)。
- 糸井
- まぁ、宮本さん本人としては、そうなんでしょうね。
- 宮本
- だって、技術のほうが新しくなるから、
それに合わせてやっていけばいいのでね。
技術によってやりたいことも変わってくるし。
それがなかったら、
ここまで続ける根気はなかったやろなって
自分で思いますよ。 - 糸井
- うーん、『マリオ』を25年間つくってきた本人が
そんなふうに言うのを聞いたら、
みんなどう思うんだろうね(笑)。 - 宮本
- いやぁ(笑)。
- 糸井
- ラクなんですね?
- 宮本
- うん。ラクですよ。
- 糸井
- いやぁ・・・いいぞ!
- 宮本
- (笑)
- 糸井
- それは、なんていうか、いいなぁ。
レベルもジャンルも違うけど、
歌のうまい人が歌をうたうっていうのもね、
人がなんて言おうが、やっぱり、
「ラクなんじゃないかな?」とちょっと思うもの。 - 宮本
- うん。
少なくとも、いくつかある選択肢のなかで、
ラクなものをぼくは選んでると思うんですよ。
だって、ぼくは昔からよく、
ルービックキューブをつくったルービック博士を
勝手にライバルにしていて、
ルービックキューブみたいなものがつくれたら
かっこいいのになとずっと思ってるんです。
いろんな人にその話はしてるし。 - 糸井
- うん。
- 宮本
- で、20年間ずっと、あれはいいなぁ、
ああいうものをつくりたいなぁと言い続けてるのに
いまだにつくろうとしてない。
っていうことは、やっぱり、ラクをしてるんだと思いますよ。
できるできないはべつにして、
一回ぐらいチャレンジしてもいいのに、
ぜんぜんしてないわけですから。 - 糸井
- おもしろい理屈だねぇ(笑)。
- 宮本
- あと、同じようなことで
マンガ家になりたかったんですよね、
っていうこともずっと言ってて。
じゃ、いまからでもなればいいのに、って
あるとき、ふと自分で思ったんです。
で、「4コマ漫画ぐらい描いてみるわ」って
手塚くんに宣言して、1本目の構想まで見せて、
「それいいですね」とまで言ってもらったのに
そのまま、描いてないんです(笑)。
やっぱり、『マリオ』をつくるほうが
ラクなんですよ、ほんとうに。 - 糸井
- それはもう、なんていうか、
『マリオ』をつくるのが得意になるような、
そういう人体ができちゃってるんだと思うんですよ。 - 宮本
- ああ、かもしれないですね。
- 糸井
- 野球のピッチャーの肘の軟骨が変わっちゃうように、
『マリオ』や、ほかの遊びをつくるために
宮本さんっていう人間が変形しちゃってるんですよ。
だから、宮本さんと誰かがいっしょに道を歩いてるときも、
宮本さんはその誰かと違って、
「『マリオ』をつくってる人」として道を歩いてるんですよ。
だって、『ゲゲゲの女房』見てるときも、
『マリオ』の材料を仕入れてるわけだからさ。 - 宮本
- 『ゲゲゲの女房』を見ながら、
貸本漫画とゲームの歴史を重ねてみたりね。
あ、これ、いっしょやな、って。 - 糸井
- (笑)