「スーパーマリオ25周年」
社長の代わりに糸井重里さんが訊く
# 2. 「きみ、けっこうネガティブやな」
- 糸井
- 岩田さんが、「ほぼ日刊イトイ新聞」という
ぼくのウェブサイトに来てくれたときにね、
「アイデアというのは
複数の問題をいっぺんに解決することだ」という
宮本さんのことばを紹介してくれたんですよ。 - 宮本
- ああ、はい。
- 糸井
- これはね、見事に、
「ことばで言えてる」と思うんですよ。
で、役に立つし、教えてもらったほうもうれしいし、
たぶん、宮本さんだって、そういうふうに
きちんとことばになってうれしかったんじゃないかな。
まぁ、宮本さんの言ったことばを
ちゃんと拾って、覚えて、広めたのは、
宮本さんじゃなくて、岩田さんなんですけど。 - 宮本
- そう、そうなんですよね(笑)。
- 糸井
- そこがちょっとね(笑)。
でも、やっぱり、ことばにできないわけじゃない。 - 宮本
- うーん、そうですね。
あの、ちょっと変な話かもしれませんけど、
「アイデアというのは複数の問題を解決するものだ」って
あらためてことばにしてもらってはじめて、
ぼくはそれについて考えるようになったんですよ。
あ、そうそう、そうなんだ、って思って。 - 糸井
- (笑)
- 宮本
- で、そこを入口にしていろいろ考えているうちに、
最近、思ったのが、「問題意識」ということで。
やっぱり、アイデアというのは、問題とか障害とか、
困ったこととセットになってると思うんですね。 - 糸井
- うん、うん。
- 宮本
- たとえば、ぼくが5人ぐらいのメンバーと会議をしていて、
ぼくが「これがいい」って思って言ったときに、
2人ぐらいが「それで決まりですね」って言うけど、
あとの3人は「ええー?」って言うんです。
で、「いいですね」っていう2人は、いつも同じなんです。
手塚(卓志)(※2)さんと、中郷(俊彦)(※3)さん。
手塚卓志=宮本茂と共に『スーパーマリオブラザーズ』を制作。その後、『スーパーマリオ』シリーズや『ヨッシー』シリーズ、『どうぶつの森』シリーズなどのゲーム開発に携わる。任天堂情報開発本部 制作部部長。
中郷俊彦さん=宮本茂と共に『スーパーマリオブラザーズ』を制作。株式会社エス.アール.ディー代表取締役社長。
- 糸井
- うん(笑)。
- 宮本
- なんでその3人の意見がいっつも合うかというと、
ウマが合うから、という簡単な言い方もできるけど、
やっぱり、問題意識が同じなんだろうなと。 - 糸井
- うん、うん、うん。
- 宮本
- 問題のとらえ方がいっしょなので、
「そこに答えがあるぞ!」ということが、すぐにわかるという。
だから、別の問題意識を持っている人とか、
そもそも問題意識を持ってない人にとっては、
なにがいいのかぜんぜんわからないということになる。 - 糸井
- なるほど、なるほど。
- 宮本
- ということなんだな、というところまで考えて。
そこから、また、徐々に、考えを広げていって、
いままたちょうどその考えが発展してきてるんですよ。 - 糸井
- おおー、いいじゃないですか。
- 宮本
- そのあたりのことを一気に語っていいですか。
- 糸井
- 語りましょうよ。
- 宮本
- ぼくは、横井(軍平)(※4)さんのことを、
師匠やと自分で勝手に思ってたんですけど、
その横井さんといっしょに会議をしてるときに、
「きみ、けっこうネガティブやな」
って言われたことがあって、
それがね、すごく、刺さってるんですよ。 - 糸井
- ほうーー、ほう、ほう。
横井軍平さん=任天堂在職中にゲーム&ウオッチやゲームボーイなどのゲーム機のほか、ファミコンロボットや『Dr.マリオ』などの開発を中心となって手がける。故人。
- 宮本
- 言われてみるとね、たしかにね、
横井さん、ポジティブなんですよ。 - 糸井
- うん、うん。
- 宮本
- けど、ぼくは自分では
ぜんぜんネガティブなつもりはないんです。
それで、どういうことなんやろうといろいろ考えてると、
なにかを考えるときに、ぼくは、まず、
「できないことリスト」をつくろうとする傾向があるんです。
たとえば、ファミコンっていうハードでは、
なにができて、なにができないのか。
とくに、「なにができないか」っていうことを、
たくさん知ってることは
すごく、ぼくにとっては大事なんです。 - 糸井
- おもしろい(笑)。
- 宮本
- だから、なにかを考えるときに、
ダメなことっていうのをいっぱい挙げるんですね。
「こっちを立てれば、こっちが立たず」
っていうアイデアがあったとすると、
「こっちが立たず」っていうほうを必ず考えるんですよ。
それは、ネガティブといえば、ネガティブですよね。
じゃあ、ネガティブとポジティブの境い目はどこにあるのかっていうと、
じつは、つねにネガティブとポジティブは共存してるんです。
だから、ポジティブなことしか考えてない人っていうのは、
ただの能天気な人で(笑)。
- 糸井
- そうですね。
- 宮本
- で、ネガティブなことを知ってることは大事なんですが、
ネガティブなことだけをずっと言ってる人は
ただの悲観的な人間で。 - 糸井
- うん、うん。
ポジティブだけだと脳天気すぎて、
ネガティブだけだと悲観的すぎる。 - 宮本
- そうなんです。
じゃあ、どうすればいいかっていうと、
「行こう!」って決めたときにいかにポジティブになれるか、
っていうことなんとちゃうかなと。 - 糸井
- そう思いますね。
つまり、「きみ、ネガティブやな」って言ったときの横井さんは、
製作の責任者に、より近い者としての発言なんですよね。 - 宮本
- ああ、うん、うん。
- 糸井
- だから、極端にいうと、クオリティーのことだけを考えて、
商品として出なくても平気って思えるのが、
ネガティブを言える人の立場なんですよ。
で、なんとか出さなきゃいけないっていうときは、
それは苦しいなぁって言いながらも、
そのままそこにいるだけじゃ、
その日ぐっすり寝られないんですよ。 - 宮本
- うん。
- 糸井
- だって、出さなきゃなんないんだから。
最後はこれでいい、っていう答えを出さないといけないから、
ネガティブのまんまじゃ済まないんですよ。 - 宮本
- そうですね、うん。
- 糸井
- そしてそれは、どっちも必要なんですけどね。
- 宮本
- 出口にちゃんと出ることを最終目標にしてるっていう人と
よりよい道を探すってことを仕事にしてる人の違いなんですよね。 - 糸井
- そうそうそうそう。
だから、その、「行こう!」っていうときに
ポジティブになれるっていうのは、
そのプロジェクトに対して責任を持つ人がとるべき態度。 - 宮本
- うん、まさにその通り。
そうです。 - 糸井
- (笑)