「スーパーマリオ25周年」
『スーパーマリオ』シリーズ開発経験者 篇 その1
# 6. 『スーパーマリオ』と自転車
- 岩田
- では、このように長い間、
『スーパーマリオ』が、ビデオゲームのなかで、
主役のひとりであり続けられた理由は何だと思いますか? - 江口
- 難しい質問ですけど、
僕は、信頼感の積み重ねではないかなと思います。
子どもの頃に『スーパーマリオ』を遊んだ人たちが
親の世代になってきて、お子さんから
「今度の新しい『マリオ』を買ってほしい」と言われても、
抵抗なく買っていただけるものになってきていると思うんです。
それはたぶん、買ってくださるお客さんのなかに、
“いつ買っても安心”という気持ちが
あるのではないかと思うんです。 - 紺野
- そうですね。25年という長い歴史のなかで、
「子どもの頃に夢中になって遊んだよなあ」とか、
「懐かしいなあ」という気持ちは
それぞれ各時代に遊んだお客さんのなかにあると思いますね。
ですから、当時のファミコン世代の方が、
Wiiの『Newスーパーマリオ』を買ってきて、
「子どもといっしょに遊びました」という声を聞くことも多いです。 - 江口
- しかも、いつも同じものではなくて、
さっきも話に出たように、その時々で
変えよう、変えようとしてきましたし。 - 岩田
- その時代、その時代でけっこう違うものですからね。
- 江口
- だから、昔遊んだ人が
新しく発売されたソフトを買っても、
また新鮮な楽しさや驚きがあって、
それが新たな信頼の積み重ねになっているのかなと思います。
でもその一方で、初代の『マリオ』をいまの子どもが遊んでも
きっと面白いはずなんです。 - 岩田
- 確かに、いまのお子さんも昔の『マリオ』を遊べますし、
ファミコン世代の方が久しぶりに新しい『マリオ』を遊んでも、
すぐに遊べてしまうところがありますよね。
先日の社長が訊く『スーパーマリオコレクション スペシャルパック』のときに、
杉山さんから訊いた話なんですけど、
押し入れから、久しぶりに『マリオコレクション』を取り出して遊んだら
「指が覚えていた」と話されていました。 - 小泉
- 僕が思うに、それは自転車と同じだと思うんです。
小さい頃に何回か転びながらも、自転車に乗れるようになると、
しばらく乗らなくなっても、いつでも乗れちゃいますよね。
それと似たようなところが『マリオ』のゲームにはあって、
それは10年経っても、25年経っても
乗れるような設計になっているからなんだろうと思うんです。 - 岩田
- なるほど、面白いたとえですね。
- 小泉
- たとえば、車輪が突然3つに増えたとしても、
自転車ならペダルをこげば前に進むようになっています。 - 岩田
- 最新の変速機が付いたとしても・・・。
- 小泉
- すごくスピードが出る自転車でも、古くて背が低い自転車でも、
ペダルをこげば、必ず前には進むもんだと体が覚えてるんです。 - 岩田
- 『マリオ』の場合、Aボタンを押せば
ジャンプするというのは、ずっと変わっていませんからね。 - 小泉
- ですから、絶対に変わらないところがあって、
それはさっきのゴールポールの話もそうですし、
いつの時代につくられた『マリオ』も指が覚えている、
基本的な原理が変わらないようにつくられているからこそ、
「今回も同じように遊べた」と
感じていただけるのではないかと思います。
それで、ロードレーサーのような本格的な自転車に乗りたいような人は、
3Dマリオを手にとっていただいて、実際に遊んでみると、
やっぱりそれも、ゴールに向かって前に進んでいくように
仕上がっているわけです。 - 岩田
- 最近の『マリオ』しか遊んだことのない若い人でも、
いきなり初代の『マリオ』をスッと遊べるようなところがあって、
それを、いまの小泉さんの“自転車理論”で考えると
けっこう説得力がありますね。ありがとうございました。
さて最後に、これからの『マリオ』に対して、
みなさんはどのようなことで関わっていくのか、
あるいはどのような『マリオ』であってほしいのか、
そんな話を訊いて終わりましょうか。
最初は木村さんからお願いします。 - 木村
- はい。まだしばらくは、
マリオとわたしの関係は続くと思いますので、
宮本さん、手塚さん、紺野さんら先輩方が
大事につくってきた流れを、伸ばせるだけ、伸ばしていきたいと、
そんな想いで『マリオ』に関わっていきたいと思います。
- 紺野
- わたしは、『マリオ』というブランドを、
ひとりでも多くの人に手にとっていただくために、
たとえば『ルイージマンション』(※25)のように
各キャラクターの新しい魅力を広げたり、
体験していただけるようなときには
マリオに絡めたり、ルイージに絡めたりしながら、
いろんなジャンルのゲームを制作していきたいと思っています。
『ルイージマンション』=ゲームキューブと同時発売のアクションアドベンチャーゲーム。2001年9月発売。江口
: 任天堂はこれからもずっと、『マリオ』シリーズを出していくと思いますけど、
先ほども話に出たように、『マリオ』の何が変わらなくて、
何を変えてもいいのかを、つくる人たちがちゃんと理解して、
その上で、すべてをわかった気にはならずに、みんなで
「ここが違うんじゃないか」とか、「ここはこうしたほうがいい」とか、
いろいろと話し合いながらつくっていくこと、それが
お客さんの信頼につながっていくんじゃないかと思います。
それは『マリオ』に限らず、どんなソフトもそうですが、
大切な部分はちゃんと受け継いでいきながら、
新しいものを加えていきたいと思います。
- 小泉
- 僕はこれまでずっと3Dマリオをつくってきましたが、
そもそも3Dは、空中に浮いてるものを取ったり、
乗ったりすること自体が難しかったんです。
でもニンテンドー3DSで距離感がひと目でわかるようになれば、
いままで遊びにくかった、空に浮かぶ足場をジャンプで乗り継いで、
落ちたらゲームオーバーになるみたいな緊張感あるステージを、
積極的につくれそうに感じています。
ですから『マリオ』はまだまだこれから
やれることがいっぱいあると思っています。
それから、もっともっと『マリオ』というキャラクターに
親しんでもらいたいですね。
今回、25周年を記念して
「マリオの絵描き歌(※26)をつくってみない?」という話が出て、
面白そうなので『うごくメモ帳』(※27)を使ってつくってみたんです。
絵と楽曲制作は、東京制作部スタッフのお手製です。歌もスタッフです(笑)。
この絵描き歌を使って、
世界中の人たちがマリオを描いてくれると素敵だと思うんです。
かんたんに描けるので、チャレンジしてみてほしいですね。
マリオの絵描き歌=「スーパーマリオ25周年」を記念して制作された、マリオの絵描き歌。
『うごくメモ帳』=2008年12月に配信が開始された、無料のニンテンドーDSiウェア。タッチペンで手書きメモを作成できる。また、何枚も書いたメモを再生して、パラパラマンガ(動画)をつくることができる。『うごくメモ帳』について詳しくはこちら。岩田
: ありがとうございました。
わたしはこれまで、その時々のビデオゲーム技術でできる、
いろんなことを、ものすごく貪欲に盛り込んでいるソフト、
それが『マリオ』であるといった印象がありました。
たとえば、スーパーファミコンと同時発売の『マリオワールド』では
まるでスーパーファミコンの性能カタログであるかのように、
そのハードでできる、いろんなことが盛り込まれていましたし、
その後に出た『スーパーマリオ64』では
「どれだけゲーム開発のハードルを上げれば気が済むんですか?」
と言いたくなってしまうくらい、
N64でできるいろんなことを見せてくれました。
ただ一方では『マリオ』のゲームとして守るべきことを絶対に守っています。
だからこそ、『マリオ』シリーズのあるタイトルを遊んだ人が
別のタイトルを手にとったとしても、
さっき小泉さんが話されていた“自転車理論”のように、
指に経験値がたまっているからこそ、すぐに遊べるんだと思います。
そしてミスをしたときに
「あー、自分が悪かったんだ・・・」と思えるようなところがあって、
「さあ、もう1回!」という頭のなかに響く声を聞きながら遊んで、
それを乗り越えたときに、強烈な快感が味わえる。
そういうところがシリーズ全部に共通しているんだと思います。
もちろん、タイトルごとに新しい表現や
新しく加わった開発スタッフのアイデアを貪欲に取りこんで、
アウトプットし続けているのが『スーパーマリオ』ですし、
その流れを止めないことが、これからのお客さんの期待に
応えることなんだと思います。
たくさんの娯楽の流行り廃りがあるなかで、
『スーパーマリオ』が、日本だけでなく、
国や民族や文化に関係なく、世界中で
受け入れられていることは奇跡のように思えますし、
誕生から25年が経ってもバリバリの現役で、
いまだに最前線に立っていられるというのも、
ものすごい幸運とご縁のたまものだと思います。
これからもお客さんの期待を裏切ることなく、
新しい娯楽を生み出せるよう、努力していきたいですね。
本日はどうもありがとうございました。
- 一同
- ありがとうございました。