「スーパーマリオ25周年」
『スーパーマリオ』シリーズ開発経験者 篇 その2
# 6. 『マリオ』の遊び方とつくり方
- 西村
- あと、『マリオ』が変わらないなあと感じるのは、
開発にかかわる、いろんな人たちの考えや発想が
たくさん詰め込まれているところです。
それは、入社したての新人であろうが、
超ベテランの人であろうが、
「こんなのはどうだろう?」とか、
「こんな仕掛けはどうだろうか?」といったアイデアを
みんなで一斉に言い合うことができて、
それぞれの考えをぶつけ合うことで、
新しい遊びが生まれていくように感じています。
しかも、つくっている人みんなが、
すごく『マリオ』のことが大好きで、
その気持ちがシリーズに盛り込まれていると思うんです。 - 天野
- それは僕も同感です。
それと、僕が『マリオ』が変わらないのは、
王道のアクションゲームであり続けている、
ということではないかと思います。ですから
「ほかのゲームに似る、似ない」といったことを気兼ねせずに、
「今度の『マリオ』ではこういうことをやりたい」と、
自分の考えていることを、ストレートに正直に言えるんです。 - 西村
- そうですね。
- 天野
- とくに『NewスーパーマリオWii』をつくったときは、
新人から、超ベテランの宮本さん、手塚さん、中郷(俊彦)さん(※18)までもが
「こうしたい、ああしたい」と、思ってることを
それぞれが本当に好き勝手に言っていたんです。
中郷俊彦さん=株式会社エス.アール.ディー代表取締役社長。『スーパーマリオブラザーズ』制作者のひとり。
- 岩田
- みんな『マリオ』について一家言あるので、
バラバラなことを言うんですね。 - 天野
- そうなんです。もう、みんなが!(笑)
でも、それは、つくり手の全員が
『マリオ』のことを本当に好きだからだと思います。 - 岩田
- ありがとうございました。
さて、みなさんはこれから『マリオ』の伝統を
つくっていくことになると思うのですが、
それぞれの抱負を訊いて終わりにしたいと思います。
藤井さん、先に答えますか?それとも後のほうがいいですか? - 藤井
- え、選んでもいいんですか?
じゃあ・・・後がいいです(笑)。 - 天野
- そう来ましたか(笑)。
・・・ちょっと時間いただいていいですか? - 岩田
- はい(笑)。
じゃあ、西村さん、先にいってみますか? - 西村
- はい。『マリオ』については
いろんな人から話を聞く機会があるんですが、
「『マリオ』はこうだろう」みたいな、
口伝えの伝統がありまして。 - 岩田
- “マリオらしさ”に対する口伝(くでん)ですね。
- 西村
- そうです。でもそれは文字では記せるものではないので、
そういうものをしっかりと、ひとつずつ自分で吸収して、
ゲームのなかでしっかり表現できるようにしたいと思っています。 - 岩田
- “マリオらしさ”の口伝のなかで、
西村さんが「ああなるほど!」と思ったのはどんなことですか? - 西村
- たとえばデザインでいうと、
ひと目見ただけで、ダメージを受けて弱るだけなのか、
それとも一発でミスになってしまうのかを
ハッキリ表現することです。 - 岩田
- 状況や機能について、見た目でちゃんと
表現できていないといけないんですね。 - 西村
- はい。たとえば『NewスーパーマリオWii』では、
ワールド5に登場する毒沼をつくったのですが、
「これでは、ここに落ちても一発でミスするようには見えないから、
もっと危なそうにして」と言われたことがあったんです。 - 岩田
- そこに落ちたら危険だということが
たぶんわかりにくかったんでしょうね。 - 西村
- そうなんです。
確かに、最初につくった絵は、
毒沼なのにきれいで静かな印象だったんです。
そこで、いかにも危なそうな感じにするために、
目につく紫色に変えて、表面のうねりを強調し、
ふつふつと湧き上がる泡の表現も足して、
ひと目で「危ない」とわかるように修正しました。
そんな風に、誰が見てもそのときの状況が
すぐに理解できるような絵づくりをすることが、
とても大切だと実感しました。
- 岩田
- 吉田さんはどうですか?
- 吉田
- プログラマーの立場でいうと、過去作に出てきた敵を
新作で動かすことがあるんですが、
動きがおかしいときに、「ここをこう直して」ではなく、
「なんとなく動きが変」みたいに
ニュアンスで指摘されることが多いんです。 - 岩田
- 自分では同じようにつくったつもりでも、
見る人が見ると、違いがわかるんですね。 - 吉田
- そうなんです。
ですから、どう直すかという部分での難しさはあるんですが、
僕としては、過去にいた敵でも、新しい敵でも、
みんなに違和感のないようにつくれるようになりたいと思います。
そのためには、自分が子ども時代に帰って、
子どもの目線で見ても「これなら大丈夫」というものを
しっかりつくれるように頑張りたいと思います。
- 岩田
- それは言いかえると、つくり手の視点ではなく、
遊び手の視点に立ってものづくりをしたいということですね。 - 吉田
- はい。
- 岩田
- 松浦さんの抱負は?
- 松浦
- 僕が初めて『マリオ3』を遊んだとき、
背景の山や雲に目がついているのに驚いて・・・。 - 岩田
- それは手塚さんの仕業ですね(笑)。
- 松浦
- はい(笑)。あれがあるのとないのとでは
印象がぜんぜん変わったものになると思いますし、
あのような“遊び心”があるからこそ、
誰からも好かれるんだと思うんです。
ですから時代や技術が変わっても、
そのような“遊び心”を忘れずに
新しい『マリオ』をつくれたらいいなと思っています。
- 藤井
- わたしは自分自身が子どもの頃に影響を受けたように、
これから遊んでくださる方々が、ゲームを楽しんだ思い出といっしょに、
心にいつまでも残るような曲をつくっていきたいです。 - 岩田
- 自分の持っていないソフトでも、
思わず口ずさんでしまうような曲をつくりたい、ということですね? - 藤井
- はい。
あとは、プレイヤーの気持ちを自然に盛り上げるような演出を
どんどんつくっていきたいと思います。
そういう演出を近藤さんはずっと考えてこられていて、
たとえば、『スーパーマリオワールド』で
ヨッシーに乗ったときに、太鼓が鳴るような・・・。 - 岩田
- そうですね。そういった音の工夫は、これまでも
『マリオ』のいろんなところでしているんですよね。 - 藤井
- はい。ですので、遊ぶのがもっと楽しくなるような音の演出を
自分でいろいろ考えて入れていけるようになりたい、
というのがわたしの抱負です。
- 岩田
- それでは最後に天野さんお願いします。
- 天野
- はい。ものすごくありきたりの言葉になってしまうんですけど、
お客さんの期待を裏切らないものをつくりたいです。
たとえば、ダメージを受ける敵にはトゲがついているとか、
マリオが崖に来たら、その先に足場が見えるとか、
そんな細かい部分のひとつひとつに気を配ることが
結果的に遊んでくださるお客さんの期待を
裏切らないことになると思っています。 - 岩田
- 苦労して進んだら、その先に必ず
何かのご褒美があるようなこともそうですよね。 - 天野
- はい。お客さんの期待を裏切らないようにするためには、
やっぱりお客さんが遊ぶ姿を、つくり手が想像しながら
つくらないといけないと思うんです。
その上で、お客さんが何を期待しているのかということを
イメージすることがとても大事なんだと思います。
そのようにして、お客さんの期待を裏切らないよう、
『マリオ』に限らずいろんな商品を
これからもつくり続けていきたいというのが、僕の抱負です。
- 岩田
- ありがとうございました。
世の中には、ひとつの商品が一時的にポンと人気が出て、
ブームになるということはよくあることですが、
『マリオ』のように、25年も人気が保たれて、
しかも、ここ数年の『マリオ』を見ると、
もうひとつの新しいピークを迎えているのではないかと思えるくらい、
たくさんの人たちに遊んでもらえているということは、
ある意味、ちょっとした“奇跡”のような出来事のように感じています。
『マリオ』にはこれからも元気でいてほしいですし、
25年後の『スーパーマリオ』50周年のときも、
ここにいるようなみなさんの世代が
マリオの伝統を守っているはずですので、
その意味でも、“1980年代生まれの開発者たち”である
みなさんから話を訊くことができて、とても新鮮でした。
友だちといっしょに遊んだ人もいれば、
お兄さんの部屋に忍び込んで弟さんといっしょに遊んだ人、
それに「近所のお兄ちゃん」から
遊び方を教えてもらった人もいましたからね(笑)。
『マリオ』の遊び手としてリレーをしてきたみなさんが
いま、つくり手となってリレーをしている、
ということなんでしょう。
そのリレーの先頭を走っているのは
宮本さんたちベテランのみなさんです。
これまで4回にわたって
社長が訊く「スーパーマリオ25周年」のインタビューをしてきましたが、
次回は宮本さん、手塚さん、中郷さん、そして近藤さんをお迎えして
たっぷりお話を訊きたいと思います。
みなさん、今日はありがとうございました。
- 一同
- ありがとうございました。